作品タイトル不明
31-09 夕食会
「これが『仲間の腕輪』ですか……」
リシアは、仁に手渡された魔導具をしげしげと眺めた後、手首に嵌めた。
「使い方は……」
懇切丁寧に説明する仁。リシアは一言一句も聞き逃さないようにと真剣な顔つき。
「……と、いうわけだな」
「ありがとうございます」
リシアは、右の手首に嵌った腕輪——リシアのものは青と白のマーブル模様——を見つめた。
* * *
その日の夕方、『仁ファミリー』の大半のメンバーが集合した。
場所は研究所の大食堂。顔合わせの後はそのまま夕食会となる予定だ。
集まったのは仁とエルザの他に、ラインハルト、ベルチェ、サキ、トア、ステアリーナ、ヴィヴィアン、マルシア、ロドリゴ、ビーナ、クズマ伯爵、グース、そしてミーネ。
来ていないのはミロウィーナ。彼女は月面基地でのんびりしている。
「よ、よろしくお願いします」
ある意味 錚々(そうそう) たる顔ぶれに、少し緊張したリシアであった。
が、仁から、各国に協力者がいてくれるとありがたいよ、という言葉を聞かされ、自分がクライン王国代表なのかと緊張する。
「いや、そういう意味じゃない。そもそも、『ファミリー』はあくまで家族であって、何かを追求する集団じゃないから」
何かあったときにお互いに助け合い、情報を共有し、また各国のためになるならそれを行う。
別に何か義務が発生するわけでもない、と仁は言った。
「まあ、俺の事情を知ってる友達、ってところだよ。……迷惑だったらそういって欲しい」
「め、迷惑だなんて! むしろ、もっと早く教えていただきたかっ……た……です……」
「それに関しては悪いと思ってる。……ここにいるメンバーの中じゃ、一番最初に知り合ったのがリシアだものな」
「……それについては多分ワルター伯爵の暴走のせいだと思うことにしてます」
「だなあ」
仁がカイナ村にいたとき、謎のゴーレム騒動の黒幕ではないかと疑われ、仁は村を飛び出したのである。
「あの時、私にもっと力があれば、ジンさんを庇えたのに、と悔しかったです」
「ありがとう」
「……でも、そうすると、私たちはジンに出会えなかったかもしれないわよね」
話に加わったのはビーナだ。
「弟や妹たちの病気も治らなかったかもしれないし、ルイス様と出会うこともなかった。……ううん、借金を返せなくて今頃は身売りしていたかも……」
そう言ってぶるっと身を震わせるビーナであった。
「そうだな。意に染まぬ結婚を強要されていた可能性もあるか」
クズマ伯爵も参加した。
「だが、我がブルーランドでも、ジンは揉め事を起こしてしまったからな……」
「でもあれはガラナ伯爵が悪いんだけどね」
その際、面倒なことになる前に仁はブルーランドから姿を消すことを選んだ。
社会的地位がないということはこうした場合に不利に働くという見本のようなものだ。
「でもそれでジンはポトロックへ来てくれたんだ」
今度はマルシアが加わった。
「ジンと会えなかったら今頃はバレンティノの奴に船を取り上げられ、細々と暮らしていたか、別の町へ行っていたか……」
「……済まんな、マルシア」
父ロドリゴが情けなさそうな顔で謝った。
「いや、今はもう父さんも戻って来てくれたし、店も順調だから」
「そうだな、あの時にジンと出会ったんだな!」
ラインハルトも感慨深そうに言う。
「ん、ジン兄と出会わなかったら、私は今頃……」
エルザもしんみりした声で言う。
「 統一党(ユニファイラー) への対応も遅れていたかもしれないな」
「ラインハルト君の言うとおりね。私も攫われた後どうなっていたことやら」
「……晴れて母子と名乗りあえて、あんなに嬉しかったことはございません」
ステアリーナやミーネも、しみじみと言い添えた。
「そうね。今は代が変わったけど、圧政が酷かった国から逃げ出せたのもジン君のおかげよね」
「……父の祖国を知ることができたし、新たな世界を見せてくれた、仁には感謝だな」
ヴィヴィアンとグースも感謝の言葉を述べた。
「『魔力性消耗熱』の時はジンさんとエルザさんに本当にお世話になりました」
リシアもちょっと昔を思い出して言った。
そんな感じで、少ししんみりしていたところに、5色ゴーレムメイドたちが夕食を運んできた。
親睦を深めるため立食パーティ形式である。
「あ、いい匂い」
ビーナが気付いたのは魚の香草焼きだ。
アジに似た魚を三枚に下ろし、塩コショウをする。
小麦粉と香草をまぶしてしばらく容器に入れ密閉しておく。
それを植物油を引いたフライパンで焼き、青いシトランの実の絞り汁を掛けて食べる。
「これは初めて見ますわね」
ベルチェの興味を惹いたのはブリ(に似た魚)大根である。
ブリの切り身をさっとお湯にくぐらせて生臭みを取っておく。
切った大根を米のとぎ汁で10分ほど茹でる。
ブリと大根を鍋に入れ、水・醤油・砂糖・みりん・おろしジャンジー(生姜)を加えて煮る。
因みにみりんは最近完成した。もち米と焼酎を使い、試行錯誤した成果である。
「これ、綺麗」
エルザが見とれているのは生ハムとハーブで作ったバラの花だ。
生ハムをくるりと丸めたりハーブの葉を添えたりして作り、甘酸っぱいソースを掛けてある。
見た目にも綺麗で、食べても美味しい一品だ。
「これってアプルルで作ってるのかい!? それにこのタコは!? それからペルシカかい!?」
マルシアが驚いたような声を上げた。
目の前にあるのはアプルル(リンゴ)で作ったウサギ、ソーセージで作ったタコ、ペルシカの薄切りで作ったバラ。
それらがシイカ(=スイカ)をくり抜いた器に載っている。
もちろんシイカの果肉もサイコロ状に刻まれて彩りに使われていた。
「あらー、これは美味しそうね」
ステアリーナが目を付けたのはサイコロステーキ。
ミツホのピグ(豚)、フソーの湿原角鹿、カウブル(牛)などの肉をサイコロ状に切ったものに、彩りのためにカロット(ニンジン)やトポポも同じ形に切って鉄板で焼いたものだ。
味付けはシンプルな塩コショウ。一口サイズなのでいろいろな肉の味が楽しめる。
「やっぱり『和風スープ』はいいわね」
ヴィヴィアンは味噌汁がお気に入りなのだ。
今回出されているのはクルム(アサリもどき)の味噌汁である。
それ自体からいい出汁が出るが、コンブ系の出汁を合わせると格別である。
「すごいです、この料理の数々!」
目移りしているリシアであるが、一つ一つの料理は量が少なめなので、全部一通り食べてもまだ満腹にはならないだろう。
その後お気に入りの料理を再度頼んでもいい。
こうした演出もあって、楽しい夕食会となった。
リシアも、すっかり緊張が解け、仁やエルザ以外の面々とも打ち解けていったのであった。