作品タイトル不明
31-08 そして蓬莱島へ
崑崙島時間で午前7時40分、『コンロン3』はその名の由来となった崑崙島に到着した。
「ようこそ、崑崙島へ」
今度は仁がリシアをエスコートしてタラップを下りていく。その先に待つのはエルザだ。
「リシアさん、ようこそ」
「エルザさん、ありがとうございます」
互いに挨拶を交わし、仁に代わってエルザがリシアの手を取る。
「どうぞ、こちらへ」
『コンロン3』が着陸したのは『館』前の広場である。
そこには5色ゴーレムメイドのナンバー100たちが揃っていた。
「うわあ、素敵です!」
二堂城にも来たことのあるリシアである、少しは耐性が付いていた。
「まずは、朝食を一緒に」
にこやかにエルザが言った。
エルザが用意してくれたのは和風の朝食。
「あ、これって二堂城で食べさせていただきました」
親善大使として、また隣村領主として、リシアは何度かカイナ村を訪れており、その際にお米のご飯は口にしていた。
「……美味しいです」
油揚げと豆腐の味噌汁も気に入ったようである。焼いた干物も器用にフォークで食べていた。
ただ、梅干しだけは少し顔を 顰(しか) めていたが。
* * *
「じゃあ、島の紹介から始めようか」
朝食後、リシアへの『崑崙島』案内は、ほぼ他の者たちと同じように進めた。
『館』の案内は特に問題なく進んだ。
その後、『翡翠館』と『五常閣』を見せたのだが、さすがにこちらは驚かれた。
「な! なんですか! この建物は!!」
白い翡翠に緑の翡翠をあしらった翡翠館、そして和風建築と日本庭園のある五常閣。
「……ジンさんってここまでのことができる方だったんですね……」
感心しているのか脱力しているのかわからない顔でリシアが言った。
仁はそんなリシアに追い打ちをかける。
「リシア、俺の本当の拠点を見てみたいか?」
「え? 本当の拠点、ですか? ええ、是非」
おそらくあまり考えずにした返事だったのだろうが、仁はまともに受け取ってしまう。
「よし、じゃあ行こうか」
「はい?」
怪訝そうな顔のリシアを促して、『館』地下へと導いていく。
「ジンさん? ここって……」
「俺が受け継いだ力の一つである『 転移門(ワープゲート) 』だよ」
「わ、『 転移門(ワープゲート) 』!?」
リシアも聞いたことはある。その昔に使われていた移動手段である、というくらいには。
「さあ、行こう」
「え、え、え? ど、どこへですか?」
『館』『翡翠館』『五常閣』だけでも驚きだったのに、この『 転移門(ワープゲート) 』。しかもそれを使ってどこかへ行くという。
リシアは仁に手を引かれるがまま、『 転移門(ワープゲート) 』に足を踏み入れた。
* * *
「ようこそ、蓬莱島へ」
『 転移門(ワープゲート) 』を出ると仁が言った。
「ようこそ、リシアさん」
「リシアさん、いらっしゃいませ」
そしてそこには一足先に移動していたエルザと礼子が2人を迎えていたのである。
「あれ? エルザさん? それにレーコちゃん? え?」
最早何が何だかわからないらしい。
「……ジン兄、ちゃんと事前説明、したの?」
そんなリシアの様子を見て、エルザがちょっと仁を睨んだ。
「いや、驚かせようかと思ってあまり」
エルザはこれ見よがしに溜め息をついて見せた。
「ジン兄は時々そういうところがある……」
エルザは、普通の人にいきなりこれは刺激が強すぎる、と言った。
「そういう想像力がちょっと足りない」
「うっ……」
言われてみると思い当たる節があるだけに仁は何も言い返せなかった。
「……まず私からゆっくりと概略を説明してみる」
「……任せた」
「ん」
というわけで、エルザはリシアを連れて 転移門(ワープゲート) 室を出ていった。
「あー、やっぱり俺はまだ朴念仁のようだ」
自覚している仁であった。
* * *
それからおよそ30分。
エルザが何をどう説明したのかは教えてもらえなかったが、戻って来たリシアはすっきりとした顔をしていた。
「ジンさん、いろいろ慌ててしまって済みません。エルザさんに教えていただいて、落ちつきました」
「そ、それはよかった」
因みに、当然ながら老君は説明の内容を把握している。
エルザは仁の歩み……これまでのことを、ゆっくりと説明しただけである。
その訥々とした話し方が、かえってリシアを落ちつかせたのである。
「ジンさんが『ニホン』からいらしたというのは聞いていましたが、まさか別の世界にある国とは思いませんでした」
「ああ、黙っていて悪かった」
「いえ、当然だと思います。これだけの、」
そこで言葉を切ったリシアは周囲を一旦見回してから再び言葉を紡ぐ。
「……これだけのことができるジンさんは、決して一国に縛られてはいけないんです。自由でなくてはならないんです」
「ありがとう」
そして仁は、今回の目的を口にする。
「そんなリシアに、仲間……『ファミリー』になってほしいと思う」
「え……」
そこまではエルザも説明してなかったようだ。
仁がちらとエルザの顔を見ると黙って頷いた。それは『あなたが説明して』と言っている表情であった。
「ええと、つまり、俺の出自を知っていて、ここ蓬莱島のことを知っているものは限られているんだ」
「そうでしょうね」
「で、そういう人たちはみんな、俺の仲間、家族という意味で『ファミリー』って呼ぶんだよ」
「ファミリー、ですか」
「そう。それで、今日からリシアにも一員になってほしくてね」
仁は、エルザがリシアと話をしていた時間に作っておいた『仲間の腕輪』を差し出した。
「リシア、仲間になってくれるか?」
「……私なんかでよろしければ……」
こうして、ついにリシアは『仁ファミリー』入りした。