軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-07 空の旅

「……リシアさん、偉い」

エルザも感心している。

「自立した女性、という言葉が相応しい」

「やめて下さいよ、エルザさんからそんな風に言われたら恥ずかしいです」

「……そんなことはない。一人で頑張ってるリシアさんは私に比べたらずっと、偉い」

自分は徹頭徹尾、誰かに助けてもらって生きてきた、とエルザは言った。

「でも、そんなエルザさんは私にできないことを成し遂げてこられましたよ」

一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) になり、 国選治癒師(ライヒスアルツト) にもなった。

(そして、ジンさんを支えること、ジンさんの隣にいることも)

「……え?」

「いえ、なんでもないです。……『自分にできること』、それをみんな、やっているだけなんでしょうね」

先程よりは元気が出たリシアは、まだ少し寂しげに見える笑みを浮かべ、

「よろしければ、お昼をご一緒しませんか?」

と言ったのである。

「これ、美味しいですね」

「いろいろ工夫してみました」

仁とエルザは、リシアと一緒にお昼ご飯を食べていた。

献立には工夫のあとが見られる。

特に、

「これってもしかして……」

仁が指差しているのは粥であるが、粥と言うより『雑炊』。

そう、大麦を使って、味のついたお粥、つまりおじや仕立てになっていた。

普通は塩味、精々が肉や野菜と一緒に煮込む程度のものを、鶏ガラなどで出汁を取ったスープを使っているようなのだ。

「はい、村で飼っているコカリスクの骨で出汁を取って、コカリスクの玉子を落としたあと、ヤマネギとクリプトナを散らしてあります」

「なるほど……とても美味しいですよ」

「ありがとうございます」

その他にも、付近で採れる山菜をうまく調理して、その素材の味をうまく引き出したものばかり。

「この川魚とオーナットの実の煮物もいいですね」

川で取れる小魚を甘辛く煮て、そこにクルミもどきの実を入れてある。佃煮に似た味なので仁も気に入ったのだ。

「私は、こっちのサラダが好き」

「それはソースに工夫がしてあるんです」

シトランの実を絞った汁を酢の代わりに使ったドレッシングと思えばいい。そこへ若干の香辛料を入れたものらしい。

現代地球でいう柚子ドレッシングに近いだろうか。

エルザは酸味のあるその味が気に入ったようだ。

「一人でこれだけのことを成し遂げたのは本当にすごいと思いますよ」

「……ジンさん」

上目遣いにリシアが口を開いた。

「その……あのですね……」

「うん?」

リシアの顔つきから、何か込み入った話かと仁は思った。

「……私にも、もっと砕けた話し方をしてもらえませんか?」

「ああ……わかった」

リシア自身の言葉づかいが丁寧なこともあって、仁は何とはなしに中途半端な敬語で接していたのである。

「わかったよ、リシア」

* * *

トカ村でも『お茶の木』、つまりペルヒャの葉から作ったお茶が飲まれている。

その後、カイナ村のものとは微妙に違うその味を楽しみながら、仁はリシアに提案することにした。

「リシア、明日1日、休みを取れるかい?」

「明日ですか? ええ、取れなくはないですが」

仁は頷いた。

「それはよかった。明日、『崑崙島』へ招待したいんだが」

「え、わ、私をですか? な、なぜ?」

リシアにも『世界会議』が『崑崙島』で開かれたことは知らされており、その場所への突然の招待に驚いていた。

「何でって……」

「リシアさんを 労(ねぎら) いたい、から?」

エルザから助け船が出た。

語尾が疑問形でなければもっとよかったな、と、つまらないことを考える仁である。

「そうそう。ほら、領地もお隣さんだし、親睦を深められたらいいというか」

「……いいんですか?」

「だからいいんだって」

再三尻込みしていたリシアであったが、仁とエルザ、2人からの誘いに、終いには笑顔で頷いていた。

「……ほんとはすごく行ってみたかったんです」

「だったらよかった。じゃあ、明日の早朝、6時頃でいいかな?」

時差の関係もあるので、少し早めの時間を指定してみる仁。

「ええ、楽しみにしてますね」

リシアはそれを笑って承知したのである。

「じゃあ明日の朝、また迎えに来るから。朝食は向こうで一緒に食べよう」

そして仁とエルザは『コンロン3』に乗り込み、一旦トカ村を後にしたのである。

因みに、『参考書』を贈るタイミングが掴めず、最後の最後になってしまったのは余談である。

もちろんリシアは飛び上がるほどに喜んでいた。

* * *

翌朝6時、時間きっかりに『コンロン3』はトカ村に着陸した。

村人のほとんどは起きていたが、昨日の今日なので、騒ぎは起こらなかった。

「おはようございます、ジンさん」

「おはよう、リシア」

今回、エルザは伴っていない。彼女は崑崙島でもてなしの準備をしているのだ。

「さあ、どうぞ」

「ありがとうございます」

その代わりに『スチュワード』がリシアをエスコートして乗船する。

そしてすぐに出発だ。

「……す、すごいです!」

初めて乗る『コンロン3』から見る地上の景色に感動するリシア。

リシアのために、陸地の上ではやや低空を飛ぶ『コンロン3』。

何といっても『床窓』があるのだ。

「落ちそうで怖かったですけど、慣れると素晴らしいですね!」

リシアの視線は床窓から見下ろす下界に釘付けである。

「うわあ、山って上から見下ろすとこんな風に見えるんですね!」

とか、

「雲が下に見えます! どのくらいの高さを飛んでいるんですか!」

とか、

「……やっぱりジンさんはすごいです! こんな素晴らしい乗り物を作ってしまえるんですから!」

などと興奮気味に喋りっぱなしである。

そしてついに海へ出る。

「うわあ、海って青いんですね! 広いんですね!」

そんなリシアを仁は、上階の展望室へと連れて行った。

「わあ! 空ってこんな色をしているんですか!?」

『ピーカン』という言葉がある。

語源には諸説あるが、仁が院長先生から聞いた説だと、かつてタバコの『ピース』、その50本入りは缶に入れて売られていた。

その缶の色が濃紺色だったため、紺青の空の色をピース缶に 因(ちな) んで『ピーカン』というのだそうだ(あくまで俗説の1つ)。

つまり、高い場所で見る空の色は、地上から見るよりずっと濃いのである。それこそピース缶の色に例えられるほどに。

これは空気が薄く、また埃も少ないので光の乱反射も少なく、より暗く見えるため。

真空の宇宙では真っ暗になる。

閑話休題。

速度を加減したため、30分ほど掛けて『コンロン3』は崑崙島へと飛んだ。

その間、リシアは空の旅を驚きをもって体験したのであった。