作品タイトル不明
31-03 グース、ファミリー入り
「うおおおー! すごいな、ここは!」
ステアリーナの誕生会をした翌日、つまり8月3日。
仁はグースを蓬莱島に連れて来ていた。
「グース、もうちょっと落ちつきなよ」
サキも一緒である。
これまでの猶予期間の間に、グースの人柄などを見極めた結果、『仁ファミリー』入りを決めたというわけだ。
同時に『仲間の腕輪』も渡す。色は 葡萄茶(えびちゃ) 色。
使い方を教えると、グースは目を丸くしていた。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』というのはここまですごいものなのか! その身内の末席に加えてもらえて光栄だ!!」
「はは、喜んでもらえて何より。少し遅くなったことは詫びないとな」
「なんの! こうして打ち明けてもらえたからにはこのグース、協力は惜しまないし、この秘密も絶対に漏らさないことを約束する」
「うん、頼むよ」
こうして、グースも『仁ファミリー』入りしたのである。
「グース、これからもよろしくね」
「ああサキ、ありがとう。こちらからもよろしくお願いするよ」
そこで仁は、500年前の文明について、これまでの簡単な経緯を説明した。
「ふうん……500年前……教会……なるほど……」
それを聞いたグースはたっぷり10分ほど考えていたが、やがて顔を上げると口を開いた。
「……俺が各国各地を回って集めた情報の断片を総合してみたんだがな……」
グースは語り始めた。
* * *
「おおよそ600年から700年くらい前に、1つの宗教が台頭した」
その宗教名は今となっては不明。
「教義の1つにあったのは『自然回帰』。何ごとも『自分で』やろう、というような感じだったようだ」
そのため、『ゴーレム』『 自動人形(オートマタ) 』『魔導具』といったものが排斥され、それを作り出す 魔法工作士(マギクラフトマン) や、錬金術師が迫害されたという。
「だが、『魔法』は、『自分で』の範疇に入るため、禁止などはされず、むしろ奨励された」
魔法学校のようなものが雨後の筍のように乱立した時期もあったらしい。
「だが、宗教の常といえばいいか、全ての人が帰依するはずもなく、反発する者も少なくなかった」
そういう人々は都市部を出て地方に隠棲し、細々と独自の生活を続けていた。
「生活水準は下がり、人の上下差が激しくなった。魔法を使える者と使えない者の間の格差のことだ。教会が力を付け、聖職者という名の権力者が生まれた」
その勢いは、国王をも凌ぐほどだったようだ。
「400年くらい前を境に、かなりその差別主義は緩和されたようだ」
理由の一つは、別の宗教との対立だったらしい、ということしかわからない。
だがそのおかげで、魔法工学や錬金術の復権がなったという。
「が、結局『魔導大戦』まで教会は力を持ち続けたようだ」
* * *
「……以上が、俺が調べたことを総合し、推測を交えて補完したものだ」
「……」
「凄いな、グースは」
まずサキがグースへの褒詞を口にした。
「ああ、まったくだな。簡単だが、世の中の流れがわかった気がするよ」
仁もグースには感心した。
「本当ね! 私よりも調べ方が上手いわ! 妬けちゃうわね」
ヴィヴィアンも手放しで褒めた。
「いや、お恥ずかしい。語り部のヴィヴィアンさんとはそもそも方向性が違うし」
どちらかというと内容に重点を置いているのがグースで、表現に重きを置いているのがヴィヴィアンということになる。
「だが、これで少し謎が解けたかもな」
仁が嬉しそうに言った。
「500年前の技術を探そうと思ったら地方というわけね!」
ステアリーナも声を上げる。
「だが、そういう背景があったから、一旦魔法技術が衰退したんだろうな」
とはラインハルト。仁もそれには同意する。
「だろうな。技術を互いに研鑽できず、設備も不十分なままで数世代経ったらそりゃ衰退もするだろう」
「その宗教の起源が知りたくなるわね……」
ヴィヴィアンの次の目標だろうか。
いずれにせよ、グースがファミリー入りしてくれたことで、仁たちはまた一歩前進できたと言えよう。
* * *
同じ日の夕方。
「ジン兄、話があるんだけど」
研究所の前庭で涼んでいた仁の所へ、エルザがやって来た。
「うん、どうした?」
「……」
エルザは少し言いづらそうにもじもじしていたが、やがておずおずと口を開いた。
「……ファミリーのメンバーについて」
「うん、それで?」
「ええと、ショウロ皇国出身が私、ライ兄、ベルチェさん、サキ姉、トアさん、母さま」
「うん」
「エゲレア王国はビーナとルイス様」
「だな」
「エリアス王国はマルシアさんとロドリゴさん」
「そうだな」
だんだんとエルザが何を言いたいか察し始めた仁であったが、とりあえず相槌を打っておく。
「セルロア王国がステアリーナさんとヴィヴィアンさん」
「亡命してるけど、まあそうなるな」
「で、今回、フソーからグースさん」
「そうだな」
「……クライン王国が、いない。ハンナちゃんはちょっと違うというか、別格、だし」
「そうだよなあ」
ハンナはクライン王国というよりカイナ村、だ。
「……で、リシアさんだけど」
「……ああ」
「彼女はもういろいろ関わっているし、秘密を漏らすような人じゃないと思うし」
「それはそうかもな」
仁としても、リシアには過去世話になっているし、ファミリーに、と思わなくもない。
「……リシアさんは、自立している人だから、ジン兄が躊躇うのも、ちょっとわかる」
そこでエルザはちょっと言葉を切ってから、
「ただ、あの人は、ジン兄のこと……」
「え?」
「……なんでもない」
エルザはラインハルトとサキのことを思い出した。
ラインハルトも、長年付き合っていてサキの気持ちに気が付かない朴念仁だったことを。
仁も似たり寄ったりであることを。
そしてそれを自分が仁に指摘するというのも何か違うという気もしていた。それで、
「……あとは、ジン兄の判断」
と言うに留めたのであった。