作品タイトル不明
31-02 旅行の提案
『行ってみたい』と言い出した仁に、ラインハルトが苦言を呈する。
「ジン、君はいいかも知れないが、エルザはどうするんだ?」
もうすぐ結婚式の予定である2人なのだ。
「うん、だから『新婚旅行』にいいかなと思って」
「何だって……」
少し呆れるラインハルト。
「ああ、勘違いしてもらっちゃ困る。いきなり南半球全部を調べるつもりなんてないさ。ただ、でかい船でのんびりとクルージングできたらいいな、と思って」
「……確かに、それならわかる気がする」
ラインハルトもそれを聞いて少し安心した。
「『長周期惑星』のこともあるし、行ってもせいぜい1ヵ月だよ。だからそうだな……南回帰線の手前くらいまで、かな?」
老君が気を利かせて、壁の 魔導投影窓(マジックスクリーン) に地図を映し出してくれている。
「ほら、ポトロックから南西に向かって幾つか島があるだろう?」
「ああ、あるな」
「赤道上には小さな島が点在していて、その南には崑崙島や蓬莱島くらい大きな島があるだろう? あの辺を訪れたら楽しいかと思って」
「行ってみたいな!」
真っ先に反応したのはマルシアだった。
「あたしの船じゃあそこまで行けない。でも、ジンの作った船なら行けるんだろう?」
「くふ、ボクも行ってみたいね」
「ああ、私もだ」
サキとトアもその気があるようだ。
「実際問題、赤道あたりまではまったく問題なく 自由魔力素(エーテル) が供給されていることはわかっているんだ。だからほとんど危険はないと思うよ」
仁が安全性に関して説明する。
「何隻かで船団組んでいけばより危険も回避できるだろうしな」
何より、新婚旅行ならやっぱり大型船でのクルージングだ、と仁は思っていた。
「挙式が11日だから、そのあと各国を回ってから出発したいなあと思っているんだが……」
仁はそこでエルザを見た。
エルザはその視線の意味を悟り、頷く。
「……ジン兄がそうしたいなら、私もそれで、いい」
「エルザも言うわね」
横からビーナが混ぜっ返した。
「でも、それならまあ安全そうだな。もちろんいろいろ安全措置はするんだろう?」
ラインハルトも難しい顔を止め、問いかけてきた。
「そうだな。救命艇はもちろん、ペガサス1は積んでおくし、 転移門(ワープゲート) も装備。護衛としてアクア部隊とマーメイド部隊も連れていこうかな」
「『ウォッチャー』もお父さまたちを見守るでしょうね」
それを聞くと、ラインハルトは最後の質問をする。
「予備エネルギーはどう考えているんだ?」
「 魔力貯蔵庫(マナタンク) として 魔結晶(マギクリスタル) を大量に積むし、 自由魔力素(エーテル) が希薄になってもなんとかできるように 魔力反応炉(マギリアクター) を増設しようかと思っているよ」
「うーん、それだけ手を打てばまず大丈夫だろうな。……僕も行ってみたくなってきたよ」
ちょっとだけ残念そうなラインハルト。
「それなら、 転移門(ワープゲート) を使って、綺麗な島に着いたときとかにでも、ちょっとだけ来てみればいい。もちろんベルチェも一緒にさ」
「なるほど、その手があるな!」
「あ、あたしたちも行ってみたい……な」
ビーナが、最初は勢いよく、最後はちょっと遠慮深げな声で言う。
「ああ、いいさ。ファミリーのみんな、来ればいい」
だが、そこに待ったをかける者が。
「ジン殿、それはどうかと思うよ。そもそも君とエルザさんの新婚旅行なのだろう?」
ロドリゴである。
「……確かにそうですが、2隻で行って、俺たちはその1隻、みんなはもう1隻に乗れば……」
「なるほど、水入らずには、なれるか」
「ええ。それに、昼間は多少賑やかな方が楽しいでしょう」
現代地球での大型客船によるクルージングツアーだって、大勢の客と一緒であることを考えると、『仁ファミリー』のメンバーと一緒ならずっと楽しいだろう、と仁は思っていた。
「ふむ、それもそうか。……なら、私も行ってみたいな!」
やはりロドリゴも海の男、未知の海域は気になるようだ。
「それじゃあ、そういう方向で検討しようか」
仁はそう宣言すると、集まった面々に向かって告げる。
「聞いてのとおりだ。俺とエルザは挙式後、各国を回って披露宴を終えたら、『新婚旅行』ということで、南の海へと船で旅立つ。おそらく8月下旬になるだろう。安全のためという意味も含め、船団を組むつもりだ。来たい人がいたらそれまでに申し出てほしい」
「ジン、あたしは行くよ!」
真っ先に名乗り出たのはマルシアだ。
「くふ、ボクもさ」
続いてサキが。
「私も行きたいわね」
これはヴィヴィアン。
「私たちもいくよ」
トアとステアリーナの夫妻。
最初から同行するのは彼等だけのようだ。
「僕とベルチェはスポットで参加だな」
そう言ったのはラインハルト。島に着いたときなどに一時的にやって来るわけだ。
「ビーナと私も、だな」
クズマ伯爵夫妻もずっとというのは無理なので、時々の参加ということになった。
「私は店のこともあるので残るが、時々でいいから行ってみたいな」
これはロドリゴ。
そして。
「……私は残りますね」
今まで黙って隅にいたミーネである。
「母さま、一緒に行こう?」
エルザは実の母、ミーネもと誘う。
「エルザ、新婚の夫婦と一緒に母親が同行するなんておかしいでしょう?」
「それはそう、だけど、別の船に、なら」
エルザとしては、実の母ミーネが、いつも一歩引いたような所にいるのが寂しいのである。
「ミーネ、一緒に行ってやれ」
ラインハルトも口添えする。
「母親として、というよりも『家族』として来てほしいな」
仁も正直な心情を口にする。
「ジン様……ラインハルト様……ありがとうございます」
そう言ってお辞儀をしたミーネの目は、少し潤んでいた。
「あとは、グースとハンナか」
「え? グース?」
サキが素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。グースも誘ったらいろいろ面白そうじゃないか」
「そ、そうだね」
心なしかサキの顔が少し赤い。
「今、彼はどこにいるか知ってるか?」
「うん、いろいろ巡って来て、一昨日からボクの家に戻ってきているよ」
仁の問いに答えるサキの声は少し嬉しそうであった。