作品タイトル不明
31-01 ステアリーナの誕生会
「誕生日、おめでとう」
8月2日夜、蓬莱島ではステアリーナの誕生日を祝って、仁ファミリーが集まっていた。
「ありがとう、みんな」
メンバーほぼ全員が祝っている。
「……33歳じゃあまりおめでたくないんだけどね」
するとそこに、ベルチェからの言葉が。
「月並みですけど、『お誕生日』というのはその方が生まれた記念日をお祝いするのであって、歳を取ったことを祝うのではありませんわ」
「だな。俺もそうだと思うよ」
仁も同意する。
「私もそう思うよ、リーナ」
夫であるトアも、彼女の肩を叩いて言った。
「そう、ね。改めてありがとう、みんな」
それからは和気藹々とした宴会だ。
お米を使った寿司もどき、メープルシロップをたっぷりかけたホットケーキ。
パッサ(干しぶどう)を入れたパッサパン、いろいろな具材を挟んだサンドイッチ。
ペルシカ、シトラン、アプルル。フレープ(コケモモ)やランベル(ツルコケモモ)、それにブルール(ブルーベリー)のジュース。
等々、いろいろな食材も並ぶ蓬莱島の大食堂であった。
「ベルチェ、まだ大丈夫なのかい?」
トアがベルチェに尋ねている。一児の父であるから、やはり気になるのだろう。
「ええ、まだ大丈夫ですわ。旅行は無理ですが、こちらへ来るなら負担はありませんもの」
「それならいいが、お腹を冷やしたり、無理をしたら駄目だよ」
「はい、ありがとうございます」
「マルシアさん、優勝おめでとう」
エルザがマルシアに向かって祝辞を述べていた。
「あ、ありがとう」
「『ゴーレム艇競技』で2年連続優勝したんだものな。おめでとう」
「ありがとう。これもジンのおかげさ。リーチェが体調崩したから出たんだが、ろくすっぽ練習していなかったんだ。アローがいてくれなかったら優勝はできなかったろうね」
「いやいや、ロドリゴさんの艇体設計もたいしたものだと思ってるよ」
「そ、そうかな? ジン殿に言われると照れくさいな」
「いえいえ、あの『 三胴船(トリマラン) 』なんて素晴らしいですよ」
「いやいやまったく、ここは別天地だな!」
「……ジンには開いた口が塞がらないわね」
ビーナとルイス、つまりクズマ伯爵夫妻は圧倒されっぱなしのようだ。
「……ふうん、『 流体変形式動力(フルードフォームドライブ) 』ね……」
「ああ。ステアリーナが『セレス』とかに使っている『 変形動力(フォームドライブ) 』の延長線上にあるようだな」
「ちょっと興味あるわ」
「だけど、今のところ水銀がベースで、毒性が強いからお勧めできないな」
ステアリーナに『 流体変形式動力(フルードフォームドライブ) 』の話をしている仁。そこにサキが加わった。
「くふ、水銀を使っているのか。興味あるね。でも有害なんだよね……」
かつてミツホで水銀のサンプルを分けてもらった際、注意事項を聞いてはいたサキ。再び興味が湧いたらしい。
「ゴム手袋をしていればいいのかねえ?」
そのときのサンプルは結果的に蓬莱島で管理しており、サキの興味も他に移っていたために使わせていなかった。
「サキ姉、水銀は蒸発して水銀蒸気になる。それを吸い込むと危ない。急性中毒は私でも治せないかも知れない」
エルザが横から釘を刺す。
「そ、そうなのかい? それはちょっと怖すぎるねえ……」
サキのように好奇心旺盛な研究者はちょっと脅かしておくくらいがちょうどいいのだ。
「あと、興味あるのがその『凧式飛行船』だな」
ラインハルトが食い付いてきた。
「まあなあ。面白い発想だよな」
モーターハンググライダーまであと一歩、といった構造は確かに興味深い。
あれもおそらく500年前にはかなり一般的だったのだろうと思われる。
「だがなあ、宗教か……」
ラインハルトが溜め息をついた。
「今は宗教とか教会とかいえば、観光地のイメージだからな」
300年前の魔導大戦で、宗教の権威が地に落ちたのである。
「でも、宗教というのはいろいろと厄介事を引き起こすぞ」
仁は、故郷である現代地球でのことを思い出す。
宗教戦争。
一番に思い起こすのはその単語だ。
信仰する神が、民草を守るべき神が、異教徒のみならず信者にも死を強いる。
何と理不尽なのだろう、と仁は思ったものだ。
「これも、もしわかるなら知りたいものだな……」
そんな独り言に答えたのはやはりヴィヴィアン。
「本当ね。ちょっとだけ聞いたところだと、当時は『工学魔法』が軽んじられていたため、 魔法工作士(マギクラフトマン) たちは地方に移り住んだらしいわ」
「そんな時代もあったんだな……」
『失われた過去』はまだまだ謎のベールの向こうである。
「あと、一番気になったのは『流体金属』の産地だな」
「南の島と言ってたようね」
「そうなんだ」
南の島といっても沢山あるので、どれなのかがまったくわからない。
「でも、それほど候補は多くないんじゃないかな?」
「え?」
仁の発言に、ロドリゴが疑問を呈してきた。
「どういうことです?」
「いや、500年前の魔法技術がどの程度だったかにもよるが、多少今より進んでいたとしても、それほど遠くまでは行けなかったのではないかと思ってね」
「なるほど……」
世界図を見てみると、エリアス王国の南端、ポトロックの南海上から南西方向に向けて群島が点在している。
「そのどれかじゃないかと思うんだがね」
確証はない。
「そもそも、南へ行くと『 自由魔力素(エーテル) 』が減少するんでしょう? だからそれほど南なわけはないと思うの」
ヴィヴィアンも話に加わった。
「それはどうかな。『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』が起きる前だから、500年前だったらそこそこ 自由魔力素(エーテル) はあったんじゃないかな?」
ラインハルトも興味深そうに言う。その意見に仁も同意した。
「それはあると思う。でも、当時の技術レベルがあの『 流体変形式動力(フルードフォームドライブ) 』と『凧式飛行船』だとしたら、それほど遠くへは行けなかったんじゃないかな? 大型船だってなかったみたいだし」
「ジン君のいうこともわかるわ。でも今は 自由魔力素(エーテル) が少ないのよね? ちょっと行ってくる、というわけにはいかないんじゃないの?」
ステアリーナの言うことは正鵠を射ている。 自由魔力素(エーテル) がなくては魔導具・ 魔導機(マギマシン) は動かないのだから。
「確かにね。でもどうして南には 自由魔力素(エーテル) が少ないんだろうね?」
サキも首を傾げていた。
「それは確かに不思議だ。例えば、宇宙空間には 自由魔力素(エーテル) は満ちていて、宇宙船ならアルスの南半球だって行けるんだから」
但し、成層圏よりも高い高度なら、という注釈が付く。
「その辺も併せて調べてみたいよなあ……」
「くふ、ジン、何か考えているのかい?」
「ああ。例えば、1年間無補給で動ける乗り物があったらどうだ?」
「……その乗り物の速度にもよるだろうけど、仮にそれが船で、時速20キロくらい出せるなら、十分南極まで行って帰って来られそうだね」
サキの計算は正しい。アルスの大きさ……周長は7500キロメートルほど。時速20キロで24時間走りっぱなしなら16日足らずで1周できる計算だ。
仮に半日だけ走るにしても1ヵ月ほどで1周できる。
行く先々でいろいろな調査をすることを考えても十分だろう、というわけだ。
「……でもジン、本気で行くわけじゃないよね?」
苦笑しながら言うサキに、仁は笑いながら答える。
「いや、行ってみたいなと思ってさ」
高空からしか偵察できていない未知の島。
仁は興味を抱いていた。