軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-43 閑話62 始末記

「ふむ、監視付き研究所、か……」

セルロア王国国王セザールは、仁から届いた意見書を読んでいた。

それには、『犯罪者・罪人の中で、情状酌量の余地がある者や、改悛が見られる者などに厳重な監視付きで仕事を与えたらどうか』というものだ。

セザール王には、それが先日逮捕されたジックスとガンノの兄弟を上手く使うための方策として仁が進言して来たことは容易に想像できた。

「他にも数名、該当者がおりますのでよろしいかも知れませぬな」

総務相3席のルドロード・コーレスも賛成した。

「ただし、脱走などには十分な注意が必要ですな」

「その点については『犯罪者識別の首輪』も使うとしよう」

「仕方ないですな」

『犯罪者識別の首輪』は、特定の魔力を流すことで装着者に苦痛を与えるものであり、主に鉱山などで働く犯罪者奴隷に使われている。

その他に外界から隔絶された施設、警備員・警備兵による監視を行うことも決めた。

「ゴーレムによる24時間監視も『崑崙君』は提言しているな」

「では、それも追加しましょう」

引退したかつてのアルファ、ドナルド・カローも、王の招聘によりこの会議に出席していた。

「よし、すぐに取りかかってくれ」

「御意」

大国、セルロア王国であるからこそここまでの迅速な対応ができるといえる。

「有能な技術者をただ監禁するのは無駄でしかないからな」

この決断が吉と出るか凶と出るか、それはまだわからない。

* * *

「……こっちでいいんですか?」

「そのはずだ」

エゲレア王国、ニカライの町から山に向かって歩いている2人連れがいた。

仁の配下、『 第5列(クインタ) 』の『レグルス39』、通称グレンと、看護用ゴーレム、ナース・アルファである。

この2体は、ジックスたちの師匠であるジダン・ケーシーの所を目指していたのである。

「あの2人の師匠だから、中毒していないはずはないからな。ヴィヴィアンさんが渡した回復薬で多少の治癒はされているかもしれないが」

グレンの言葉に、ナース・アルファは頷いた。

「……あ、でも、必ずしも水銀を扱っていたわけではないのでしょう?」

「それはそうだ。そもそもジダン・ケーシーは研究内容をルコールにも打ち明けていないのだからな」

2体の歩みは人間の数倍、ほどなくしてジダン・ケーシーの小屋に到着した。

「ごめんください」

ノッカーを鳴らしてグレンが声を掛ける。すぐに 自動人形(オートマタ) が顔を見せた。

「はい、どちらさまでしょう」

「私はルコール様から依頼された治癒師です。ジダン・ケーシー様のご容態はいかがですか?」

事前に考えておいた設定で説明するナース・アルファである。

「そうですか、しょうしょうおまちください」

そう言って引っ込んだ 自動人形(オートマタ) は、1分ほどでまた顔を見せた。

「どうぞ、おはいりください」

「では」

グレンとナース・アルファは小屋に足を踏み入れ、ジダン・ケーシーの居室へと案内された。

「ようこそ。ルコールの奴に依頼されたと? ……まったくあいつはお節介だな……せっかく来てくれたのだ、ありがたく診察していただこう」

偏屈ではあるが、友人の厚意を無にすることはしないジダン・ケーシーであった。

『……で、どうでした?』

蓬莱島の頭脳、老君がナース・アルファに尋ねる。

「はい、ジックスとガンノに比べたら軽微でした。実際の作業は弟子にやらせていたらしく」

それはそれでどうかとも思えるが、師匠と弟子の関係であればおかしくはないのだろう。

『では治療は済んだのですね?』

「はい。まだ脳の働きに異常が現れる前でしたので楽でした。ただ、関係ない部位……胃に潰瘍ができていたのと、大腸にポリープができていたのでそれも治療しておきましたが」

『ご苦労様でした。……で、今後の危険性は?』

「いまのところなさそうです。保有していた『流体金属』はジックスが全て持ち出してしまったようですし、補充するあてもありませんから」

『水銀の危険性は説明しましたか?』

「はい。ですがどこまで納得してくれたか……」

その点では、無名の治癒師の言うことなので、説得力に欠けるようだ。

『仕方ないですね。今度エゲレア王国から、国内の錬金術師たちに正式に通告するように手を打ちましょう』

同じことをセルロア王国はじめ、他の国にも行わせるつもりの老君であった。

* * *

「……ここがフレシアス・ナカールの研究所か」

かつては『ベータ』まで登った技術者であったが、ディナール王国ではなく、500年前を理想とする異端の思想を持っていたため、当時のセルロア王、シベールに追い出された異端の学者である。

ジックスとガンノの師匠でもあり、その全てを彼等に譲ったという。

調査に訪れているのは第一技術省長官ラタントとその配下数名だ。

『 第5列(クインタ) 』のレグルス11、通称『ライリー』も、随員として加わっていた。

『ふむ、めぼしいものはありませんね』

レグルス11の視覚を通じて老君も現場を見ることができている。

だが。

「……む? これは……皆、気を付けてください。水銀がこぼれているようです」

工房に足を踏み入れた際、レグルス11が水銀を検知した。

床の上に光る液体が点々と……というより、『丸くなって』転がっていたのだ。

昔ながらの水銀体温計を壊したことがある者ならわかるだろう。水銀はその表面張力のため、少量であれば玉となる。

レグルス11の視力は、そんな水銀の玉を床の上に見つけたのだ。

「わかった」

第一技術省長官ラタントは、仁に教えてもらった水銀の取り扱い方法の一つとして、少量をこぼした場合、銅の 編線(あみせん) を使い、銅アマルガムとして吸着する方法を取った。

編線(あみせん) を触れさせると、すーっと吸い込まれるように水銀が移動した。

「おお、これは面白い」

とはいえ、このままでも水銀は蒸発するので危険性は残っている。

その 編線(あみせん) をビンに入れ、蓋をしてようやく安心できた。

「……しかし、記録の類が残っていないな」

まるで何者かに持ち出された後のように見える。

「危険物があるやも知れん、注意して調査に当たるように」

「はっ、わかりました」

フレシアス・ナカールの研究所に散らばる調査員たち。

だが、彼等の懸命な調査にもかかわらず、2日間掛けて得たものは水銀が少々、という残念な結果となったのである。

* * *

『何者が持ち出したのか、謎が残りましたね』

蓬莱島でも、老君が残念がっていた。

『遊撃の 第5列(クインタ) には引き続き探させることにしましょう』

こうして、謎のゴーレム騒動は一応の収束を見せた。

だが、500年前の宗教についてや、仮称『魔導水銀』の産地など、これからの課題もある。

仁と蓬莱島の、アルス世界の『謎』への挑戦はまだまだ続く。