軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-42 閑話61 ゴーレム艇競技3458

〈さあ、今年もこの日がやってまいりました! エリアス王国が誇る『ゴーレム艇競技』! その第11回目、開始です!〉

〈今年は、セルロア王国での建国記念式典の関係でずれ込みましたからね〉

〈ですが、その分といいますか、昨年よりも更に盛況ですね〉

〈そうですね。今年はマルシア工房の船が数多く参加しています〉

〈昨年は工房主のマルシア嬢自身が操船者として参加されましたね〉

〈そうですね、ショウロ皇国のラインハルト様の船とゴーレム、そしてエルザ・ランドル嬢の操船による『ブルーマリン』とのデッドヒートは盛り上がりましたね〉

7月20日、およそ5ヵ月遅れで開催された『ゴーレム艇競技』。

セルロア王国の『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』の8日前。

エリアス王国では、この『ゴーレム艇競技』とセルロア王国の『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』をセットで観戦できるツアーも組まれている。

こちらが終了後、新型の大型船で海を越え川を遡ってセルロア王国の首都エサイアまで行く特別の船便が用意されているのだ。

およそ1週間の船旅で、貴族や富裕層に大人気であるという。

閑話休題。

今しも、第11回ゴーレム艇競技の決勝戦が開始されようとしていた。

もちろん操船者は全員女性、ワンピース水着着用である。

今年は胸の部分に名前を書いた白い布が、背中にはゼッケンを入れた白い布が縫い付けられていた。

〈解説のベルナルドさん、今年のマルシア工房の船はまた変わっていますね〉

〈ですね。『 三胴船(トリマラン) 』というそうです。昨年の『 双胴船(カタマラン) 』より更に精悍で速そうですね〉

そして、スタートの合図が下される。

〈スタートです! 予選を勝ち抜いた10艇、一斉に水飛沫をあげ、飛び出して行きました!〉

〈ゼッケン1番がダントツですね。さすがマルシア工房の 主(あるじ) !〉

ゼッケン1は、何を隠そう操船者はマルシア。船の形式は『 三胴船(トリマラン) 』。推進方式はスクリューである。

〈さすがですね。マルシア工房では、昨年チームを組んだ 魔法工作士(マギクラフトマン) で、今は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』として知られているジン・ニドー氏と専属の契約を結んでいるそうですからね〉

〈チームの絆、これにあり! ですね!〉

〈そして、マルシア嬢の父君も戻ってきて、船体設計に協力しているそうです。麗しき父娘の絆ですね!〉

司会と解説もノリノリである。

今回決勝に参加しているのは10艇。うち7艇が『 双胴船(カタマラン) 』である。そしてそのうち5艇がマルシア工房の船だ。

逆にいうと、『 双胴船(カタマラン) 』のうち2艇は他の工房で作られた船である。

因みに、3458年頭の段階では、工房への注文が殺到していたため参加は見送るしかないと言っていたマルシアだったが、開催日時がこうして7月までずれ込んだため、参加をする余裕ができたのであった。

「だけどさすがだな。同じ『 双胴船(カタマラン) 』でも、マルシアの作った方が水の抵抗が少ないよ」

「どうしてわかるの?」

「ほら、船の後ろにできる波を見てごらん。『造波抵抗』というんだが、あれが少ないのが一目で分かるだろう?」

「ん」

『造波抵抗』とは、船が走る時にできる波、この波を作るために消費されたエネルギー分の抵抗のことである。波が小さければ『造波抵抗』は小さく、波が大きければ『造波抵抗』も大きい。

「形だけ真似ても駄目だということだよな。ロドリゴさんは何度も作り直して今の形状にしたって言ってるし」

「お父さまが参加された去年よりも更に洗練されているようですね」

観客席の後ろの方でも、どこかのカップル+αが観戦している。

* * *

「ああ、この船は素敵だよ! アロー! 頑張ろう!」

「はい、マルシア様」

マルシアの後方でアローはスクリューに繋がるハンドルを『手で回して』いる。

仁によってパワーアップされたアローは、腕の力だけでも一般ゴーレムを上回るパワーを出せるのだ。

より洗練された『 三胴船(トリマラン) 』の名は『 白鳥(シグナス) 2』。純白の表面処理をされた船体は、『 双胴船(カタマラン) 』だった先代よりも小回りが利く。

第2ステージである波の荒い海域、そして第3ステージの岩礁地帯を抜けたゼッケン1は、スピードステージである第4ステージにさしかかるとさらに速度を上げて折り返し地点のイオ島を目指していった。

* * *

〈速い! 実に速い! ゼッケン1、ダントツの速さです!〉

〈『スクリュー』というようですが、あの推進方法は昨年の水車駆動をさらに上回っていますね〉

「当然だな。外輪の水車は水の上に出ている部分がロスになっているからな」

「でも、それを開発したロドリゴさんは、すごい」

「ああ、本当にな。 双胴船(カタマラン) や 三胴船(トリマラン) も独自に思いついているから、天才だと思うよ」

「でも、お父さまにはかないません」

どこかのカップル+αはトポポチップスをつまみながらのんびりと観戦している。

〈ゼッケン1にばかり注目していましたが、第2グループでの先頭争いも熾烈です!〉

〈ですね。ゼッケン3と7、それに35ですか〉

ゼッケン3はマルシア工房製の『 双胴船(カタマラン) 』であるが、ゼッケン7は別の工房製のようだ。そしてゼッケン35は単胴船である。

いずれも、一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) が製作したゴーレムを使っているようで、正に実力伯仲。

抜きつ抜かれつで第4ステージへと躍り出た。

だがその頃には、マルシアの『 白鳥(シグナス) 2』は、100メートルほど先を疾駆している。

それを猛追する3艇。

〈やはりデッドヒートは燃えますね!〉

〈仰るとおりです。1番人気のマルシア嬢がトップを独走するのも絵になりますが、2番手争いもまた白熱していますからね〉

そしてイオ島が近付いてくる。

「前回は 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) が沢山来たっけな」

「ですね。聞くところによると、 海竜(シードラゴン) に追い立てられて南下してきたそうですが」

「……知らないうちに参加者は助けられていた?」

どこかのカップル……以下略。

〈ゼッケン1、イオ島を周回するコースに乗りました!〉

〈かなり島に寄ってますね。最短距離を行くつもりでしょうか〉

〈ですが、同時に暗礁もありますので危険なコースですよね?〉

〈仰るとおりです。ですがゼッケン1は果敢に攻めていますね〉

〈リードしているからといって守りに入らないのはさすがです〉

だが、やはり無理があったのだろうか。

* * *

『 白鳥(シグナス) 2』の艇体に軽い衝撃が走った。同時に、推進速度ががくんと落ちる。

「しまった! スクリューを暗礁に擦ったか!?」

「マルシア様、すぐに直してきます」

「頼むよ、アロー!」

仁による改良で簡単な工学魔法も使えるようになったアローは、急いで水中へと飛び込んだ。

* * *

〈ああっ! ゼッケン1が停止しました! どうやら暗礁に引っ掛けたようです!〉

〈ちょっと無理をしましたね〉

〈推進役のゴーレムが水中に潜り、修理を始めたようです〉

〈あのゴーレムは『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、ジン・ニドー氏の作ですからね。完全防水の上、簡単な修理もこなせるのでしょうね〉

だが、停止してしまったそのタイムロスは大きい。

追い上げてきたゼッケン7、35、3に追い抜かれてしまったのである。

「ああ、マルシアの奴、ちょっと無理したな。スクリューだから船底より深く突き出しているからな」

「あそこは暗礁が多くて危ないあたり。私も苦労した」

「そういえば妨害のためにバレンティノのゴーレムが潜っていたのもあのあたりでしたね」

* * *

「マルシア様、修理完了です」

「ありがとう、アロー! ……いっくよ!」

修理を追えた『 白鳥(シグナス) 2』は猛然とダッシュした。

そのコースは、今までと変わりない。暗礁に引っ掛かったことなど微塵も気に掛けていないように、イオ島ギリギリに『 白鳥(シグナス) 2』を駆るマルシアであった。

* * *

〈ゼッケン1、再び走り始めました!〉

〈……コースを変えませんね。勝負を賭けているようです〉

マルシアを抜き去った3艇はゼッケン3、35、7の順でイオ島を回りきり、帰還のスピードステージに入っていた。

駆け引きすることなく、堂々のスピード勝負を繰り広げている。

マルシアとの差は200メートル。思ったよりも差が開いてしまっていた。

「だけどまだゴールまでは数キロある。十分に挽回できるさ」

「そうですね」

「だけど、あの3隻もスピードを上げた」

〈おおっ! ゼッケン35がスパートをかけたと思ったら、ゼッケン3も負けてはいない!〉

〈ゼッケン7も頑張っていますが、少しずつ遅れ始めましたね〉

〈これは動力、つまりゴーレムの差でしょうね〉

トップ争いはゼッケン35と3の争いとなった。

〈これはすごい! 正にデッドヒートです!〉

〈昨年の展開を思い出しますね〉

〈はい。あの時はマルシア嬢とエルザ嬢の戦いでした。……そういえば、あの時もゼッケンは3と35でしたね〉

ゼッケン35のマルシアと、ゼッケン3のエルザ。奇しくも、今回もまたゼッケン35と3の争いになる……かに見えた。

〈ああっ! 今、ゼッケン7を抜いて、ゼッケン1、3位に上がりました!〉

マルシアの『 白鳥(シグナス) 2』が驚異的な追い上げを見せていたのである。

「『 白鳥(シグナス) 2』ですが、少しスクリューのバランスが狂ったようですね」

「見えるのか?」

「はい。微振動が出ています」

「うーん、だが、十分に速度は出せるだろう。……ほら、3位に上がった」

「……やっぱりスクリューは、速い」

〈おおっ! ゼッケン1、その底力を見せてくれます!〉

〈やはり速いですね〉

ゼッケン3を抜き、2位に上がるマルシア。ゴールまであと1キロを切った。

〈ゼッケン35もさらに速度を上げたようですね〉

ここが勝負所と、ゼッケン35も持てる力の全てを注ぎ込んだようだ。

だが、『 白鳥(シグナス) 2』の持つ力はそれを上回った。

〈速いっ! ゼッケン1、ぐんぐん差を詰めています!〉

〈見事な追い上げですね〉

〈あと500メートル! ……抜いた! 抜きました!! ゼッケン1が今、トップに返り咲きましたっ!〉

* * *

「抜いた! これで先頭だ!」

そのまま一気にゴールへと突っ走るマルシア。

* * *

〈今! ゴーーーーーーール! 1着はゼッケン1! 2着はゼッケン35です!〉

大歓声が沸いた。

速度を落としたマルシアは船上で手を振り、歓声に応えていた。

「マルシア、やったな」

「ん、よかった」

「出てみたかったんじゃないのか?」

「……少し。でも、マルシアの勝つところが見られて満足」

「では、お二人とも、そろそろ帰りましょうか」

(ジン! どっかで見ていてくれたかい! あんたの作ってくれたアローのおかげで今年も優勝できたよ! ありがとう、ジン!)

青い空と青い海が広がる南国ポトロックでは今年も熱い戦いが繰り広げられた。

そしてその頂点に立ったマルシアは、胸の中で最高のパートナーに礼を言ったのである。