作品タイトル不明
30-41 次の謎を目指して
「そうか、もう7月が終わったのか」
セルロア王国首都エサイア郊外にある宿屋の玄関で、ルコールとヴィヴィアンは話をしていた。
「ええ、私も残念だけど、最初からの予定だったから」
「そうだな。楽しかったよ、ヴィア」
「私も、ルコール」
ヴィヴィアンは、とりあえず7月いっぱいで調査行を終え、国に帰るという予定だったのだ。
今日は8月1日。予定どおり、これでルコールと別れ、亡命先のショウロ皇国へ帰国することになる。
「また機会があったら、一緒に研究したいと思う」
「ありがとう。私も同じよ」
「では、気を付けてな」
「ええ」
ヴィヴィアンは、雇った手伝いの男のうち1人が途中まで付き添っていくことになっている。
「それじゃあ、ヴィアをちゃんと護衛しろよ?」
「へへ、わかってまさあ」
男はやや下卑た笑いを浮かべながら返事をした。
馬を2頭借り、それに乗っていく。ヴィヴィアンの乗馬技術はさほどでもないので、時速8キロ程度、速めの『 常歩(なみあし) 』だ。
城門を抜け、30分も行けば人影も見えなくなる。
男はヴィヴィアンを先導し、さらに寂しい一角へと向かって行った。
* * *
「『崑崙君』、いろいろと助かった。礼を言わせてもらう」
セルロア王国王城前では、今しも『コンロン3』が発進しようとしていた。
見送りはセザール王自ら行っている。
「『モノレール』の方も、進めていくつもりだ」
「ええ、またサポートに来ます」
「よろしく頼む。……エルザ媛もお元気で。最後になるが、レーコ媛、おかげで助かった」
そんな会話を交わすと、仁とエルザ、そして礼子は『コンロン3』に乗り込んだ。
5色ゴーレムメイドたちは既に乗り込んでいることになっているが、実際はとっくの昔に蓬莱島に戻っている。
「ではまた」
そしてドアが閉じられ、『コンロン3』はゆっくりと上昇していった。
「いろいろ収穫はあったな」
「ん」
『コンロン3』の中では仁とエルザ、礼子が話し合っていた。
「だけど謎も増えたな」
「そうですね、お父さま。500年前の宗教問題に、南の島ですか?」
「だな。『流体金属』も少し手に入ったが、あまり積極的に使いたい素材じゃないな」
「それは同感。中毒になったら目も当てられない」
作業を全て『 職人(スミス) 』にやらせるという選択肢もあるが、そもそも今使っている生体系素材の方が性能が上なのだ。
発泡金属との相性がいいのは認めるが、今のところ用途が見出せない。
「あとはジックスたちの師匠という、フレシアス・ナカールのことを調べていければ何かわかるかもしれないしな」
「そうですね。あの2人は復讐心に凝り固まっていて、あまり過去の歴史に興味を持たなかったようですから」
「ああ、そうだな。ジダン・ケーシーに入門した理由も聞きたかったが、セルロア王国の要人たちの前で聞く話じゃないしな」
「ですね」
『コンロン3』はショウロ皇国首都ロイザートを目指して飛んでいった。
* * *
セルロア王国首都エサイアの周りを囲む城壁、その外側にヴィヴィアンはいた。手伝いの男も一緒である。
アスール川のほとり、大きな岩が地面から突き出ている荒れた河原だ。
「……ここなら誰も見ていないでしょうぜ」
男はそう言うと、何か合図をした。
すると、何もないと思われた場所に、風景に似つかわしくない物が出現。
『ペリカン3』だ。
「どうぞ、ヴィヴィアンさん」
「ありがとう」
ヴィヴィアンは『ペリカン3』に備え付けられた 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島へと移動した。
その後、『ペリカン3』は再び『 不可視化(インビジブル) 』の結界を纏い、消える。
残った手伝いの男……実は『 第5列(クインタ) 』の遊撃担当『レグルス39』、通称グレン。
今ルコールに付いているのは『レグルス40』、通称ロワなのであった。
* * *
「ジン君、聞いたわよ! ついに結婚式ですってね!」
「は、はあ」
ロイザートの屋敷屋上に『コンロン3』を駐め、30分ほどすると女皇帝の行幸があった。
「エルザ、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「我が国での披露宴は1週間、昼夜ぶっ通しで……」
言いかけた女皇帝は、仁がいかにも嫌そうな顔をしているのを見てくすりと笑った。
「……と思ったけど、もう少し質素にしましょうね」
「……恐縮です」
それから仁は、セルロア王国で行われた『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』の話を女皇帝に詳しく行った。
「そう、エーリッヒ・ジフロは総合4位に終わった訳ね」
ここで仁は、思っていた疑問を問いかけることにした。
「陛下、どうしてラインハルトの『 黒騎士(シュバルツリッター) 』が行かなかったのですか?」
対する答えは簡単だった。
「ラインハルトが辞退したからよ」
彼は領主の仕事が忙しいのと、身重のベルチェを気遣って国外に出るのを憚ったそうだ。
「もうそろそろ8ヵ月ですものねえ、心配よね」
初産なのでラインハルトや周りの者たちもいろいろ心配しているらしい。
「明日にでもお見舞いに行こうと思います」
と、それを聞いた仁は口にした。
他にもいろいろ世間話をしたかったようだが、仕事が待っているということで女皇帝はお茶を一杯とお茶菓子一皿を口にしただけで帰っていったのである。
* * *
「さて、明日は8月2日か」
「お父さま、ステアリーナさんのお誕生日ですね」
「ああ、そうだな」
「トアさんとステアリーナさんも戻ってらっしゃるそうです」
一度、ハンナの誕生日をすっかり忘れていたという失敗をやらかしていた仁は、老君や礼子にスケジュール管理めいたことを頼んでおいたのであった。
「ラインハルトの所へ行って、ベルチェの様子を見てから蓬莱島へ行くとするか」
「ん、それがいいと思う」
「トアさんもステアリーナも今回の話を聞いたら喜びそうだしな」
「ヴィヴィアンさんも戻ってきているそうですよ」
「そうか、すぐそばにいたのに、会うのは久しぶりだな」
まだ謎多きアルス世界ではあるが、仁を巡る人々の絆は温かだった。