作品タイトル不明
30-40 調査 二
ジックスたちが収容されているのは医務室。警備兵が2名、扉の前に付いていた。
「ご苦労」
第一技術省長官ラタントが声を掛け、部屋に入る。仁とエルザ、礼子も続いた。
室内のベッドには、上体を起こしたジックスとガンノの姿があった。
「来てくれたか、『崑崙君』、エルザ媛」
そこで待っていたのはセザール王、カーク・アット、それに第一内政省長官ランブロー。他に親衛隊らしい警備兵が4名。
王は、彼等の尋問が最重要であると判断したようだ。
尋問には不向きな医務室であるが、脳への影響を取り除いた直後のため、何が起こるかわからないということでここで行うことになったそうだ。
「さて、顔ぶれも揃ったようだ。始めてくれ」
セザール王の一言で尋問が始まった。
「……名前はジックス・アッシャーです」
「……ガンノ・アッシャーです」
2人は兄弟と言うことは間違いなさそうだ。
辺境の村の出身で、幼い頃にエゲレア王国との小競り合いのため村が全滅したというのも間違いないとのことだった。
これはランブローが記録を確認してきたから間違いない。
村が滅んだあと、彼等は各地を転々とした。
そんな折、1人の錬金術師と出会い、弟子入りしたという。
その錬金術師は魔法工学も少し使えたので、2人は両方を身に着けることになる。
「ふむ、その錬金術師の名は?」
「……フレシアス・ナカールといいます」
「ふむ、やはりそうか」
昨日、セザール王からその名を聞いていた第一技術省長官ラタントは、下調べをしてきたようで、セザール王に説明をした。
「30年ほど前に追放された学者でして、『ベータ』まで上ったことがあるようです」
彼等の師、フレシアス・ナカールは、セルロア王国で『ベータ』を冠していた優秀な学者だったという。
が、当時としては『異端』な思想を持っていたため、当時の王、シベール王から追放処分を言い渡されたのであった。
そのせいか、記録もほとんど残っていなかった、とラタントは言い添えた。
「で、その思想というのは?」
「……500年前を至高の時代と師匠は考えていました」
すらすらと答えるジックス。
「なるほど、当時、我が国では、いや、他の国でも、300年前のディナール王国時代が至高と考えられていたからな」
ラタントが納得する様に相槌を打った。
「で、フレシアス・ナカールは今どうしている?」
「亡くなりました。我々が最後の弟子です」
「そうだったのか」
「我々は師の遺産を受け継ぎ……」
今度はガンノが説明を始めた。
「師は我々の目的を理解してくれていた。だから師の遺産を我々は有効に使おうと……」
彼等2人だけではあれだけの物量を用意できそうもないと思っていたら、こうした事情があったようだ。
それからも彼等の説明は続いた。
それが一段落したとき、仁が質問をする。
「ところで、なぜ500年前が至高だと?」
「……わかりません。ただ、何やら宗教に関係するらしいことだけは師匠から聞きました」
「我々はそうした過去に興味がなかったので、突っ込んだ話を聞くこともしなかった」
「ただ、当時はどういう訳か、 魔法工作士(マギクラフトマン) や錬金術師は迫害されていたらしいことだけは聞いています」
「それで、都市から離れたところにそうした技術者は隠棲していたらしいのだ」
ジックスとガンノが交互に説明する。
少しだけ、500年前の世界が見えてきたようだ。
「宗教の存在、か……」
300年前の魔導大戦以降、ほぼ消滅した宗教団体が、まだその頃は強大な力を持っていたらしいということだけはわかった。
「流た……いや、『水銀』はどうやって手に入れた?」
最も聞きたかったことの1つである。
セルロア王国の面々も興味津々だ。
「師匠が所持していたものだ」
「……入手方法については聞いていないか?」
「聞いてはいない。ただ、500年前の記録に、南にある島、という記述があるそうだ」
「南の島か……」
あまりに漠然とした情報であった。
そもそも、赤道より南へ行くと、 自由魔力素(エーテル) が極端に少なくなるため、大半の魔導具は使えなくなってしまうのだ。
そちらの追求は置いておくとして、仁はもう一つの疑問を口にした。
「鎧の製法は知っているのか?」
その質問の意味を察すると、2人とも驚いたようだ。
「……わかるのですか? あの特殊性が」
「我々が勝てるはずもない、か……」
2人は諦めにも似た溜め息を1つ吐くと、これまた素直に説明を始めた。
要点をまとめると、まず『水銀』=『流体金属』と軽銀を混ぜ合わせる。
比率は一対一。
この際、混ぜる金属は、『流体金属』に溶かされない、つまり『アマルガム』を作らない金属でなければならない。
その点では軽銀は溶けないのでもってこいであった。この他、アダマンタイトも溶けないという(この点では、『流体金属』は水銀と若干異なると思われる……地球にあるチタンはアマルガムを作るのだ)。
その合金は固めの粘土くらいの硬さになる。それを『 変形(フォーミング) 』で鎧の形に成形したあと、『 抽出(エクストラクション) 』で分離する。
これで発泡金属製の鎧の出来上がりだ。
聞いてみればあっけないような製法であった。元々入り込んでいた隙間にもう一度『流体金属』が染み込むわけである。
「 制御核(コントロールコア) の作り方は?」
ラタントからの質問。これもまた、重要度の高い質問であった。
「『 複写(コピー) 』ですね?」
仁が確認するように尋ねる。ガンノはそれに頷いた。
「『 複写(コピー) 』は500年前にはありふれた技術だったそうだ」
「なるほど……」
アドリアナ・バルボラ・ツェツィが作り上げたはずの『 知識転写(トランスインフォ) 』ではなく、『 複写(コピー) 』という魔法が使われている理由がわからない。
1000年前から500年前に至るどこかで劣化したのか、あるいは失伝して新たに誰かが開発したのか。
1つ謎が解けてもまた1つ謎が出てくるようだ。
あと1つ、『凧式飛行船』について聞きたかったが、おそらく500年前の技術であろうからこの場では止めておいた仁である。
あとは拠点とか、他に仲間がいるのか、といった疑問があるが、それはセルロア王国に任せようと仁は思った。
「自分としては以上です」
「ふむ、では私からも質問させてもらおう」
それまで黙っていたセザール王が口を開いた。
「君たちはまだ復讐をしたいとおもっているか?」
「……」
「復讐、ですか」
ジックスとガンノは目を閉じてしばらく考え込んだ。
そしてしばらく後に、まずジックスが口を開いた。
「いや、もうその気は失せました」
「だな。『崑崙君』の、あんな力を見せつけられては、な」
「因みに、自分の兄弟子であるマキナはもっと強い戦力を持っているしな」
この言葉に、二人は声をなくしたのであった。