作品タイトル不明
30-35 問答、そして
練兵場では、2体の戦いがいよいよ激しくなっていた。
唐竹、袈裟、逆袈裟、横薙ぎ、突き。
上から、下から、右から、左から。
ありとあらゆる方向から攻撃を繰り出し、また繰り出された攻撃を防御する2体。
正に互角であった。
「兄貴、このままじゃ埒があかないんじゃ?」
「……」
ジックスとガンノはもう1体のゴーレムの影でぼそぼそと話をしている。
「確かに、これほどとは思わなかった、このままでは、我々のゴーレムの優位性が証明されない。さて、どうするべきか」
「俺が思うに、国王陛下が見ている前でゴーレムを量産して見せたらいいんじゃないかと思うんだ」
「なるほど! 今までとは比べものにならないほど速く、強力なゴーレムが誕生するところを見せるというんだな」
「ううむ、『崑崙君』のゴーレムと互角に戦えるということは恐るべきことだな」
「陛下の仰るとおりですな」
その会話は、仁(の 分身人形(ドッペル) )の耳に入った。
蓬莱島にいる仁は、相手の手の内解析もここまで、と、『スチュワード』に予定どおり全力を出していくよう指示を出した。
「お、おお!?」
観戦している者たちは皆……仁たちを除いて……目を見張った。
『スチュワード』の動きがさらに加速したのである。
まさに『目にも止まらぬ速さ』。
「くっ! まだ余力があったか! だが、そんなもの、『ファントム』なら……!」
だが、それは不可能。
技術ならば習得できるが、今『スチュワード』が見せているのはあくまでも基本性能だからだ。
出力を上げた『スチュワード』の攻撃は凄まじいの一言に尽きた。
今まで互角に見えた打ち合いだったが、今となっては『ファントム』は防戦一方。
それでもこれまで習得した技術を使い、本体に一撃を喰らうことは避けている。
「技術対性能、というわけか」
歯噛みをしながらジックスは忌々しそうに呟いた。
だが、現実は彼にとって酷であった。
さらに『スチュワード』の速さが増し、力も加わったのである。
『ファントム』の全力がどれほどか知るため、『スチュワード』が徐々に出力を上げているのだ。
「そんな馬鹿な! いったい、あのゴーレムはどれほどの力を秘めているというのだ!」
完全に劣勢になった『ファントム』。
そして『スチュワード』は確実に『ファントム』を追い詰めていた。
「あっ!」
誰かが声を発した。
その瞬間、『ファントム』の持つ鉄の棒が宙を舞ったのである。
そして、『ファントム』の頭部目掛け振り下ろされ、ぶつかる寸前でぴたりと止められた鉄棒。
誰が見ても『スチュワード』の勝ちであった。
* * *
「思ったより奴の出力は大きかったな」
『スチュワード』の40パーセントと同等という解析結果が出ていた。
『その技術も侮れません』
なにしろ、『スチュワード』の出力を70パーセントまで上げて、ようやく圧倒できたのである。
「お父さま、これで約束どおり、あのゴーレムの構造を調べられますね」
「ああ、そうだな」
礼子の言葉に、仁は頷く。その顔は期待に溢れていた。
* * *
「それまで! 勝者、『スチュワード』!」
セザール王が離れたところから勝利宣言を行う。
ジックスとガンノは悔しそうな顔をしている。
「残念だったな、2人とも」
第一軍事省長官ラゲードが労りの言葉を掛ける。
「相手が悪い。『崑崙君』のゴーレムと競おうというのが間違いなのだ。とはいえ、あれ程の接戦を繰り広げたことは誇ってよいぞ」
第一技術省長官のラタントも声を掛けた。
「戦闘専用にするのはもったいない。その汎用性を生かし、役に立てたいものだ」
と、最後にセザール王も2人に声を掛けた。
「……」
ジックスもガンノも唇を噛みしめている。
「『崑崙君』!」
ガンノが声を上げた。
「貴公は、それだけの力を作り出せるのに、なぜそんな立場に甘んじていられるのだ!」
「え?」
「その力があれば世界を征服することだってできるだろうに!」
「……征服してどうする?」
必死なガンノの声に対し、仁(の 分身人形(ドッペル) )は平静な声で答えた。
「人には分というものがある。自分には支配者は向いていないよ。世の中を変えるならもっと別の方法があるし」
支配による急速な改革、押しつけの政策は必ずどこかで破綻する、と仁(の 分身人形(ドッペル) )は続けた。
「その支配者がいなくなったら元の木阿弥、というのも困るしな」
「……モクアミ?」
言い回しが理解できなかったようで、ガンノが聞き返す。
セザール王たちも『?』という顔をしていた。
「……元々の状態に戻るのは困るしな」
言い直した仁。
「何が正解かなんて、自分にはわからない。一つ言えることは、自分は自分の役割を果たすことだ」
「……それが、単に強力なゴーレムを作ることなのか?」
「ん? 違うぞ。『スチュワード』はああ見えても、家事全般をこなせるし、簡単な魔導具なら製作することだってできる」
「なん……だと……?」
「あ、あの戦闘力の他にもそんな能力が……?」
驚いたらしく、ジックスも口を挟んだ。
「戦闘力はおまけだ。もっとも、今回 ゴーレム競技(ゴンペテイション) があるというのでちょっとパワーアップさせてあるが、基本『スチュワード』は汎用ゴーレムだから」
「……」
分身人形(ドッペル) の口を借りて語られる飄々とした仁の言葉を聞き、ジックスとガンノは少々毒気を抜かれたようだった。
しかし、気を取り直したらしいジックスが、感情を押し殺した声でセザール王に告げた。
「陛下、あと一つ、我々がお持ちした技術をお見せ致します。それにて最終判断をなさって下さい」
そしてガンノの顔を見た。それだけで彼は何をすればいいか悟ったようで、そばにいたゴーレムに何事か指示を出す。
そのゴーレムはゆっくりと歩いて行き、馬車に積まれた樽を一つ運んできた。
そしてもう一度。
両脇に2体の鎧を抱えて戻って来たのである。
「では、お見せ致しましょう」
仁(の 分身人形(ドッペル) )をじろりと睨んだあと、ジックスとガンノはそれぞれが鎧を抱え上げて見せた。
「これは単なる鎧です。中は空っぽ。少々特殊な素材で作られてはおりますが」
持ち上げても関節部分が外れないので、その点だけでも特殊であることはセザール王にもわかる。
おまけに、彼等が軽々と扱っているところを見て、軽いのだろうということも推測できた。
「これを、この樽に入っている『液体金属』に浸け込みます」
ゴーレムが蓋を開ける。
その中身こそ、仁が知りたかった『流体金属』であった。