作品タイトル不明
30-34 再戦
場所は3番目と4番目の壁の間にある練兵場で、ということになった。
『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』の会場も同じく3番目と4番目の壁の間にあるのだが、場所的にはかなり離れている。
最も人家から遠い場所を選んだのである。
「ここは練兵場の中央付近だ。人家からは遠いし、少々のことでは人的被害は出ないだろう」
セザール王が言う。
結局、セザール王、親衛隊隊長のカーク・アット、第一軍事省長官ラゲード、第一技術省長官ラタントらは一緒に付いてきた。
仁(の 分身人形(ドッペル) )は『スチュワード』を、ジックスは『ファントム』を伴っている。
エルザ(の 分身人形(ドッペル) )も一緒だ。因みにドナルドはいない。
「兄貴!」
そこへ馬車が到着した。
「紹介します。弟のガンノです」
馬車には 鈍色(にびいろ) のゴーレムが1体乗っていた。
「まずはごらん下さい。このように、すぐに『ファントム』と同型のゴーレムは用意することができるのです」
「ふむ、わかった。それが利点であることは認めよう」
第一技術省長官ラタントが頷いた。
ジックスは弟ガンノにこれまでの経緯を簡単に説明した。
「兄貴! それじゃあ、この試合に勝てば、悲願が達成されるのかい?」
「まあ、な。まだその第一段階だが、少なくとも我々のゴーレムが採用されることになるだろう」
「頑張ってくれよ!」
「わかっているさ」
顔ぶれが揃い、いよいよ模擬戦である。
「武器は、言われたとおり鉄の棒を用意したが、これでいいのか?」
第一軍事省長官ラゲードが2人に確認する。
「ええ。刃が付いていたらさすがに危険ですし、かといって木製では強度不足ですしね」
仁(の 分身人形(ドッペル) )が答え、念のため『 強靱化(タフン) 』を掛ける。
『スチュワード』と『ファントム』は、それぞれ鉄の棒を手にした。
「危険ですから、最低でも50メートルは離れて下さい」
仁(の 分身人形(ドッペル) )がセザール王たちに告げる。皆揃って頷いた。
開始の合図はセザール王が行うことになった。
「では……始め!」
いきなり飛び出した『ファントム』は、電光石火に一撃を繰り出した。
が、『スチュワード』は余裕を持ってそれをかわした。
だが『ファントム』は模擬戦よりもさらに速い速度で『スチュワード』を追う。
「本気を出したか」
仁(の 分身人形(ドッペル) )が呟く。
だが、『スチュワード』もまだまだ本気を出していたわけではない。
その速度が、見ている者にはっきりわかるほど上昇した。
* * *
「……500年前の技術と、1000年前+現代日本の技術と、どちらが上か試してみようじゃないか」
蓬莱島で 魔導投影窓(マジックスクリーン) を注視している仁が独りごちた。
「『 流体変形式動力(フルードフォームドライブ) 』対アドリアナ式だ!」
仁も、ただ観戦しているだけだったのでストレスが溜まっていたようだ。
「スチュワード、相手の手の内を調べ終わったら『全力』出していいぞ」
それを聞いたエルザは仁に質問する。
「ジン兄、相手に学習されてしまわない?」
だが、それに対する返答は微笑だった。
「大丈夫さ。武技はショウロ皇国の兵士レベルだ。ただし速度とパワーは上げていく。そっちは真似できないだろう?」
「……確かに」
技術は真似できても、身体能力は真似できない。仁は身体能力で勝負を挑んだのである。
* * *
「おおお!」
「陛下! もう少しお下がり下さい!」
50メートルほど離れて見物していたセザール王たちの所まで、2体の戦いの余波が及んできたため、親衛隊隊長カーク・アットはもっと距離をとるよう己が主君に進言した。
「う、うむそうしよう」
それに合わせて仁とエルザ(の 分身人形(ドッペル) )も下がる。
彼等の場合、視認できる距離であれば2体の観察をするにはまったく問題ないので、セザール王たちに合わせているのだ。
一方、ジックスとガンノは、もう1体のゴーレムの陰に隠れるようにして、2体の戦いを見守っていた。
「あ、兄貴、やっぱりすごいな」
「うむ。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』がどれほどの者かと思っていたが、これは侮れない」
「 あれ(・・) を使う必要があるかな?」
「わからん。準備はしておけ」
「わかった」
『スチュワード』と『ファントム』の戦いは熾烈さを増していた。
鉄棒同士がぶつかり合い、火花を散らす。
鍔迫り合いをしたかと思えば、次の瞬間には弾けるように距離を取り合い、またぶつかり合う。
踏み込むたびに細かな砂礫が飛び散り、地面は陥没した。
「ううむ、これで『試合』とは!」
「『模擬戦』が児戯に見えますな」
「上には上があるということですね」
セザール王たちは驚き半分、脅威半分といった顔つきだ。
* * *
「しかし、奴の動力源は何だろう?」
蓬莱島では、仁が首を傾げていた。
『 魔力反応炉(マギリアクター) 』を備えた『スチュワード』とあれだけ長く戦い続けられるなら、最低でも『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』を持っている可能性が高い。
そこへ、エルザが思い掛けない推測を口にする。
「もしかすると、流体金属は 魔力素(マナ) を溜め込めるのかも」
「え?」
一瞬聞き返した仁であったが、その意味するところを悟ると、真剣に考えてみる。
同時に老君も検証を開始した。
そして。
「その可能性はあるな」
『はい、 御主人様(マイロード) 。非常に高いと思います』
「やっぱり?」
「ああ、そうさ。凄いぞ、エルザ」
経験と勘で正解を導き出したエルザを褒める仁。
「役に立てたなら、嬉しい」
魔結晶(マギクリスタル) を魔導的に加工して『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』を作るのは簡単だ。
その結晶構造の隙間と 魔力素(マナ) との相性がいい。まるで珪藻土が水分や油分を吸い込むように、また、活性炭が微粒子を吸着するように、 魔力素(マナ) を吸収し、また放出する。
だが、金属にはこのような性質はない。たとえ『 魔力同位元素(マギアイソトープ) 』だったとしても。
では、何を以てエルザは『 魔力素(マナ) を溜め込める』と言ったのか。
それは、仁が少し前に実験した『アマルガム』からの推測であった。
「そうなんだろう? エルザ」
「ん」
つまり、水銀が他の金属を溶かし込むように、今のところ成分が謎の『流体金属』も、『 魔力素(マナ) 』を溶かし込むというか溜め込めるのではないかと推理したというわけだ。
「『流体金属』が魔力に反応するなら、その可能性があるんじゃないかと、思った」
エルザの直観力は鋭い。
「だが、まずは奴に勝つことだ」
検証は今のところできないので、まずは目の前の戦いに再注目する仁であった。