作品タイトル不明
30-33 復讐者
午前9時、前日の約束どおり、セルロア王セザールはジックスを呼び出した。
場所は第二迎賓館内の小会議室。
同席するのは第一軍事省長官ラゲード、第一技術省長官ラタント、親衛隊隊長のカーク・アット。
それに元『アルファ』のドナルド・カロー、そして仁である。
エルザは別室で寛いでいる。とはいっても、仁もエルザも『 分身人形(ドッペル) 』なのであるが。
「さてジックス、約束どおり、今日はゆっくりと話を聞こうではないか」
正面奥、最も上座に座っているセザール王が口を開いた。
「はっ。……私の願いはただ一つ、『ファントム』と同型のゴーレムを採用していただき、いずれは人間の兵士を無くしていただくことです」
「ふむ。性能のよいゴーレムを採用するのにはやぶさかではないが、人間の兵士を無くすというのは約束できんな」
「……」
ジックスは無言で何か考えていたが、やおら立ち上がって大声を出した。
「勇猛果敢なセルロア王とは思えないお言葉ですな。周囲の国を併呑し、さらに国を広げるためにも、私のゴーレムは必要だと思うのですが、いかが?」
「何?」
「それに、私のゴーレムは、ごらんになられたように、相手の武技を短時間で習得できます。しかもそれを『 複写(コピー) 』の魔法でいくらでも増やせるのです!」
「『 複写(コピー) 』だと?」
仁も初めて聞く魔法であった。
「そうです。ゴーレムの 制御核(コントロールコア) を複製できるのですよ」
『 知識転写(トランスインフォ) 』の劣化版か、と仁は理解した。その他にも制約はありそうだ。
が、ここは口を挟まないでおく。
「王よ! 私の力をお使い下さい! そしてエゲレア王国の併呑を!」
ジックスの言葉がさらに物騒になってきた。
だが、仁もエルザも、その言葉に違和感を覚えざるを得ない。
「待て、ジックス。私はエゲレア王国を併呑しようなど考えてはおらんぞ?」
だが、一番それを感じていたのはセザール王だったようだ。
「ですが陛下! 昨年までは……」
そこまで口を開いたジックスを、セザール王は手を上げて遮った。
「どうやらそなたは勘違いをしているようだ。私は先代のリシャール王とは違い、国を拡大するなどという考えは持ってはいない。国を富ませる、その意志に揺らぎはないがな」
この言葉はジックスにとって青天の霹靂だったようだ。
「そ、そんな……」
さっきの勢いはどこへやら、へなへなと崩れ落ち、椅子にへたり込んでしまった。
「そうか、そなたは先王のつもりでこの国へ売り込みに来たのだな?」
どうにも違和感があったのはそのせいだった、と、ようやく疑問の答えが見つかった。
「……どうしてそこまで戦いを望む?」
脱力したようなジックスに、セザール王が問いかけた。
「……復讐……ですかね」
ぼそりと答えるジックス。
「……私と……弟の家族……いえ、住んでいた村は、10年前の紛争に巻き込まれ、全滅しました。エゲレア王国との国境付近にある、小さな村でした」
「なるほどな」
セザール王は頷いた。10年前頃は、確かに国境付近で小競り合いが多かった記憶があったのだ。
「父は兵士として駆り出され、戦場に出ました。そして帰って来ませんでした」
「そうだったのか」
「戦争をするなら、人間を駆り出さずにゴーレムだけでやればいい、そう思ったのです」
そこまで言うと、ジックスはキッと顔を上げた。
「そのために! 私と弟は! 遺跡を調査したり! 技術者に弟子入りしたり! ……今日のこの日を夢見ていたのに……!」
顔を紅潮させ、噛み付かんばかりのジックス。
「陛下! 私のゴーレムなら量産できます! 周囲の国を圧倒できます! ですから……!」
そんな彼に向かい、セザール王は静かな声で告げた。
「……君の過去には同情する。だが、私のやり方とは合わないな。私は必要のない戦いは好まない」
「……!」
歯を食いしばり、拳を血の出るくらい強く握り締めるジックス。
「それに、目的は手段を正当化しない。そなたのやり方は少々乱暴すぎたようだな」
セザール王は1枚の皮紙を懐から出した。
「少々気になったので調べてみた。……少し前、エゲレア王国で、一風変わったゴーレムが警備隊のゴーレムを壊したり、ならず者を痛め付けたりしていたようだ」
「それはエゲレア王国での話です! あの国は敵で……!」
セザール王が誰の仕業かとも言っていないのに、自らの仕業と認めてしまうジックス。
「今は友好国だ。言ったろう? 戦争などしている暇はないのだ。世界は変わらんとしているのだから」
「どうやって変わろうというのですか!」
まだジックスは納得していない。その興奮も冷めず、目は血走っていた。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、『崑崙君』だよ。そして彼だけではない。『 懐古党(ノスタルギア) 』という団体もいる。どちらも、世の中を平和に導き、よりよい生活を目指すことを目的としている」
「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ! 懐古党(ノスタルギア) ! それが何だというのですか! 私と弟が 手に入れた(・・・・・) 技術は今よりもずっと進んでいる!」
セザール王は残念そうに笑い、首を横に振った。
「わかってもらえないか……残念だよ」
「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) がなんだというのですか! 昨日は引き分けましたが、あれは模擬戦だったからです! なんでもありの戦闘なら負けはしません!」
「ジックス、ゴーレムの役割は戦闘だけではないのだよ。1日目に彼が見せてくれた、侍女ゴーレムを見ただろう? 彼女たちは家事をこなし、料理も上手い。これからの世になくてはならない存在なのだ」
だがジックスは納得しない。
「違う! 違う! 違う! ゴーレムの存在意義は戦闘で、その本質は敵の殲滅と破壊なんだ!」
セザール王は溜め息をついた。
「……どこまでいっても平行線だな。これ以上話し合っても無駄か」
ここで仁(の 分身人形(ドッペル) )が口を開いた。
「『 複写(コピー) 』という工学魔法を取っても、素晴らしい技術ではないですか。それを広く人々のためになるように使おうとは思いませんか?」
だが、それは逆効果だったようだ。
「うるさい! 貴様に何がわかる! 家族を、友を、故郷を滅ぼされた俺の気持ちがわかるはずはない!」
「……」
「何もかも恵まれた貴様に、俺のこれまでの苦心が水の泡となった絶望がわかるか!」
ジックスはかなり興奮しており、仁(の 分身人形(ドッペル) )も口を挟むのを止めた。
「……陛下、いかがなさいますか?」
少々、いやかなり当初の予定と違ってしまったことに戸惑いを隠せない第一軍事省長官ラゲードと第一技術省長官ラタント。
「うむ、我が国としては、性能のよいゴーレムなら導入するにやぶさかではなかったのだがな」
セザール王が残念そうに呟いた。
それを聞きつけたジックスは再び王に向かい、
「陛下! 今一度、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』のゴーレムとの模擬戦をお命じ下さい!」
「戦って、なんとする」
「『ファントム』がいかに強力なゴーレムか、お見せします! そうすれば、陛下のお考えも変わることでしょう!」
「ふうむ……」
悩むセザール王は、仁の方を見やり、尋ねた。
「『崑崙君』、どうかな? 私としては強制するわけにもいかん。貴公の判断に任せる」
「そうですね……」
こんな展開になるとは思わず、考え込んだ仁の耳に、老君の助言があり、それを元に一言告げる。
「……ジックス殿、その申し出は自分に何の利益もないのだが」
「……では、何が望みだ?」
「もし自分が勝ったなら、貴殿のゴーレムが何を参考にして作られたか、教えてもらいたい」
その要望を聞き、一瞬だけジックスの顔に驚きのようなものが浮かんだが、それはすぐに消える。
「……いいだろう。だが、俺が勝ったらあんたのゴーレムを分解して中身を見てやるが、それでもいいか?」
「いいとも」
こうして、仁とジックスは再戦することとなったのである。