作品タイトル不明
30-32 兄弟
飛び出していったガリク・アッシュの後を『 隠密機動部隊(SP) 』の『エルム』が付けていく。
ガリクは自分の馬車を繋ぎ止めてある縄を解き、飛び乗ると急いで発車させた。
もう外は夜。魔導ランプを利用した街灯がぽつりぽつりと立っているだけで、あたりはもう真っ暗だ。
馬車の速度は歩くより少し速いくらい、夜目の利く『エルム』が付けていくのに苦労はしない。
そのまま馬車は郊外へ向けて走っていった。
城壁に突き当たると、そのまま沿って走っていく。方角は南。
セルロア王国首都エサイアは城壁で五重に囲まれた都市である。
最奥、つまり5番目の城壁は王城そのものを囲む壁で、その外側に防壁の役目をする4番目の壁があり、その間がエサイアの町である。
4番目の壁の外、3番目の壁に囲まれたエリアは広く、練兵場がある。また、そこにも町があって人が住んでいる。
今ガリクが馬車を走らせているのはその3番目の壁に沿って、である。
夜は城門が閉まっているので、許可なき者は外へは出られない。
(どこまで行く気でしょうね)
後を付ける『エルム』がそんなことを思った時、人気のない暗がりで馬車は止まった。
「……まいったなあ」
独り言を呟きながらガリクは天を仰いだ。
「まさかガンノ・アッシャーの名前を出されるとは」
そして周囲を見回し、追ってくる者などがいないことを確かめると、荷台へと移動した。
「兄貴と合流できるかどうかわからなくなっちまったな……」
そんなことを言いながら、鎧の1体を引っ張り出した。
その仕草を見ても、鎧が軽いことがわかる。
「さて、まだ不十分だが、1体だけ作っておくか」
ガリクは、積まれていた『重い液体』が入っている樽の蓋を開けると、鎧を中へ押し込んだ。
仁が看破したとおり、鎧は発泡金属であり、流体金属を染み込ませて使うものであることがここで証明された。
『エルム』の視界を通じ、老君はその様子を記録していく。
1体の鎧は、樽半分ほどの流体金属を吸収した。
その色は『 鈍色(にびいろ) 』となる。
「これでよし。『起きろ』」
魔鍵語(キーワード) に従って、鎧が動き出し、自力で樽から出てくる。
「俺は休む。周囲を見張っていろ」
それだけ命令すると、ガリクは毛布にくるまって荷台の隅に寝転がった。
あとは静寂だけが残る。
『エルム』は、そのままじっと待機し、明日を待った。
* * *
『あとはその『流体金属』がどのようなものかわかれば……』
蓬莱島では時差の関係で既に深夜。仁もエルザも眠っている。
だが、老君は眠らない。送られてきた情報を記録し、解析している。
『合法的に流体金属を入手する方法はないでしょうかね……』
今現在のガリク・アッシュは犯罪者ではない。特に、このセルロア王国では。
『国際警備隊』などの国家間に跨る組織がない現在、国境を越えた以上、国際的な指名手配がされない限り、エゲレア王国での犯罪は問われないのだ。
非常時でもないので、老君としても強硬な手段に訴えたくはなかった。主に仁の名誉のために。
『明日になれば、何か動きがあるでしょうしね』
迎賓館にいるジックスと何らかの繋がりがあると思われるガリク。
老君は翌日に期待することにした。
* * *
思いが交錯する夜が明けて、8月1日の朝が来た。
蓬莱島はとっくに夜が明けており、仁もエルザも朝食を済ませ、成り行きを見守っている。
因みに、何があるかわからないため、セルロア王国の方は 分身人形(ドッペル) に任せることにしていた。
まず動いたのはガリク。
時刻はおおよそ午前6時。夏の日はもう既にかなり昇っている。
「ああ、朝か。どうやら追っ手も来なかったようだな」
街道は石畳の部分も多く、重い馬車を走らせても轍の跡が付きにくいのだ。
「さて、どうやって兄貴と合流するか」
手荷物から干し肉を出すと齧り始める。
「……考えて見ると逃げ出したのは早計だったな。奴……ルコールといったか、あいつは問題ないが、手伝いの男がいたからな……」
水筒に入っていた水を飲み干し、口の周りを拭うと、ガリクは再び考え込んだ。
「……とにかく、兄貴と連絡を取り合うには指定の場所にいないとまずいからな」
と独りごちたガリクは、馬車を繋ぎ止めていた綱をほどくとゴーレムと並んで御者台に腰を下ろした。
「いいか、馬車の運転を覚えろよ」
返事を聞かず、ガリクは馬車を発車させた。
そのまま10分ほど走らせると、ゴーレムが動かし方を覚えたと判断し、自分は荷台へと移動、毛布を頭から被る。
「これでちょっと見には俺のことはわかるまい」
そこで馬車は180度転進し、昨夜来た方へと進み始めた。目指すは ゴーレム競技(ゴンペテイション) の駐馬車場である。
* * *
片や、セルロア王国第二迎賓館の『兄貴』ことジックス。
既に起き、身支度を調えていた。
「さて、ガンノの奴、計画どおりに来ているかな」
朝食前の散歩と断って、外に出たジックスは、 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 会場用の駐馬車場へと足を運ぶ。
「おお、来ていたか、ガンノ」
「兄貴。なんとかな。いろいろ面倒事に巻き込まれたが、おおむね計画どおりだ」
「そうか。ならいい。……1体、作ったのか?」
御者をしている鈍色のゴーレムを見て問いかけるジックス。
「ああ。面倒事と言ったろう? その関係で作らざるを得なかった」
「ふん、まあいい。あと10体くらいは作れそうだな」
「ああ。樽も中身も無事だぜ」
ガンノと呼ばれたガリクは樽をぽんと叩いて見せた。
「よし、何も問題はないな。この後、9時からこの国の王と話をすることになっている。その時かその後に、ここへ呼びに来るだろう」
「わかった。それまで待っているよ」
そんな会話を交わしたあと、ガリク……いや、ガンノは注意を促す発言をした。
「わかった。それまで待っているよ。……ああそうそう、例の『ジダン・ケーシー』の友人とかいう奴が来ているから気を付けろ」
「ん、そうか。わかった」
これだけを話し合うと、ジックスは踵を返し、第二迎賓館に戻ったのである。
第二迎賓館では朝食の用意ができたところであった。
仁とエルザ(の 分身人形(ドッペル) )は既に席に着き、半分ほど朝食を済ませていた。そこへジックスもやってくる。
「『崑崙君』、おはようございます」
「ジックスさん、おはようございます」
簡単な挨拶を交わすと、ジックスも席に着き、運ばれてきた朝食を食べ始めた。
(いよいよだ……いよいよ)
その顔には、何やら決意が透けて見えていた。