作品タイトル不明
30-31 直球
「ふむ、フレシアスと、ジダン、か。私は聞いたことがないな。『崑崙君』はどうだ?」
「はい。ジダン、というのはジダン・ケーシー氏のことですか?」
「そ、そうです」
仁(の 分身人形(ドッペル) )が姓まで告げた瞬間、ジックスの目が泳いだ。
「ほう、『崑崙君』が知っているとは、そのジダン・ケーシーという人物は相当の者なのかな?」
「いえ、世間の評価は知りません。ただ、自分の知り合いの友人でして」
「なるほど。そういうことか。いや、世間は狭いな」
事情を知らないセザール王は笑っている。
「は、はあ」
逆に、ジックスは少し顔色が悪い。
ここで仁は、さらに追い打ちをかけることにした。 分身人形(ドッペル) の口を借りて、探りを入れることにしたのである。
「話は変わりますが、『ファントム』の鎧は見たことのない素材でできているようですね」
「ええ、まあ」
歯切れの悪い答えが返ってくる。さらに仁は話題をころっと変えてみる。
「ジックス殿は、何が目的で ゴーレム競技(ゴンペテイション) に参加したんですか?」
「え?」
「飛び入り参加までしたからには、目的があったんだと思いますが」
「……」
主目的は、ゴーレムに技術を習得させることだろうと思っているが、その先が今もってわからないので、ストレートに尋ねてみることにしたのだ。
するとジックスは、ゆっくりと口を開いた。
「……『ファントム』の実力を知りたかったことが1つ。そして『ファントム』の性能を世間に知らしめることが2つめ」
いきなりセザール王の前で片膝を付くジックス。
「それによって、仕官したく思います。これが3つめです」
* * *
「ふむ、仕官目的だったか。それなら、ガラナ伯爵よりセルロア王国の方がいいよなあ」
『 御主人様(マイロード) 、残るは動機ですね』
蓬莱島では 分身人形(ドッペル) を通じてジックスの話を聞いた仁と老君が話し合いをしていた。
『私としましては『ファントム』を売り込んで研究費を稼ぐつもりかとも思ったのですが』
「ああそうか。賞金目当てじゃなかったか」
『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』の賞金はさほど高くない。
仁は興味がなかったから一々覚えていないが、
「ジン兄、優勝は10万トール、準優勝は5万トール、だった」
エルザが覚えていてくれた。
約100万円相当では、研究費としては少ないだろう。
優勝賞金100万トールだった、エリアス王国のゴーレム艇競技と違い、 ゴーレム競技(ゴンペテイション) はどちらかといえば名誉のため、そして有力者とのコネを作るためのものなのだ。
「仕官か……だが、セザール王がジックスを認めるかなあ」
彼の飛び入りを認めた役員や貴族の名を覚えた、と言っていた王である。
仁は成り行きを見届けることにした。
* * *
「ふむ、仕官か。なるほどな」
かつての『アルファ』であるドナルド・カローをも上回る技術者ということで、絶対の自信があるのだろう。
「まあ、それはこういう宴会でする話ではないな。明日、改めて行おうではないか」
セザール王はジックスのぎらついた目をさらりとかわす。
「は、それでは明日、よろしくお願いします」
「うむ。約束は守る。午前9時に迎えをやろう。どこに泊まっている?」
「……実は宿が間に合わず、馬車で寝泊まりしようかと思っておりまして」
これを聞いたセザール王は、そばにいたお付きを呼び、何事かを囁いた。
「この第二迎賓館の客間を貸そう。その者に付いて行くがいい」
「は、ありがとうございます」
ジックスは王のお付きの一人に連れられて宴会場を出て行った。
「さて『崑崙君』」
セザール王が仁( 分身人形(ドッペル) )に向かって言った。
「済まぬが、明日、貴公も立ち会ってもらえないだろうか」
「それは構いませんが、陛下の真意は? 雇うのですか?」
「……それはこの場では言えぬ。だが、目的のために手段を選ばない、というのは好かぬ」
飛び入りと、それを認めた連中のことだろうと仁は見当を付け、それ以上聞くことを止めた。
* * *
一方、ヴィヴィアンたちは和やかに食事をしていた。
「ほう、君は 魔法工作士(マギクラフトマン) ではなかったのかね」
ルコールが少し驚いた顔で言うと、ガリク・アッシュは小さく頷いた。
「本業は錬金術師です。 魔法工学(マギクラフト) も少々齧ってますが」
「そうね。両方できると何かと便利そうよね」
ヴィヴィアンは、自分の知人にも『 魔法工作士(マギクラフトマン) 』と錬金術師がいる、と告げる。
「ほほう! 何という方ですか?」
聞かれたヴィヴィアンは余計なことを言ってしまった、と少し後悔するが時既に遅し。
「えっと、錬金術師はトア・エッシェンバッハ。 魔法工作士(マギクラフトマン) はその奥さんでステアリーナ」
それで仕方なく友人とその旦那さんの名前を教えた。
「それはすごい! ショウロ皇国でも指折りの錬金術師ではないですか。それにステアリーナ……もしかして、かつて『ガンマ』……いや、『ベータ』だった方ですよね?」
ガリクは2人の名前を知っていたようだ。
「ええ、そうです」
「これは、すごい方とお知り合いになれたものです!」
機嫌良くワインをあおるガリク。
そんな彼に、ルコールが爆弾発言をかました。
「つかぬことを尋ねるが、ガンノ・アッシャーという人物を知らないかね?」
「ぶほっ!」
飲みかけていたワインを吹き出すガリク。
気管に入ったらしくげほげほと咽せ、口の周りをナプキンで拭く。息が荒い。
「ど、どこでその名前を?」
少し涙目になっている。
「私の友人にジダン・ケーシーという者がいてな。そいつの弟子だったらしいのだが突然姿を……」
そこまでルコールが喋ったところで、
「あ、急ぎの用事を思い出した。今日はごちそうさま。またどこかで会いましょう」
と言って席を立ち、そそくさと出ていってしまったのだった。
「何だ、あいつは?」
訳がわからない、と首を傾げるルコールと、顔を 顰(しか) め、頭を抱えているヴィヴィアン。
ヴィヴィアンとしても、ここまでルコールが腹芸のできない人間だとは思っていなかったのである。
ヴィヴィアンは『語り部』であるがゆえに、人との付き合いもそれなりにあったため、ガリク・アッシュが怪しいと当たりを付けていた。
それで、どのように探ろうかと考えていたところ、ルコールが直球ど真ん中の質問を口にしたというわけだ。
「……まさかルコールがここまで馬鹿正直とは」
小さく溜め息をついたヴィヴィアンであった。