軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-28 対戦、解析

「勝ったか……」

ガリク・アッシュは小さく溜息を漏らした。

「これでなんとか予定どおりだな。あとは手腕次第だ」

その呟きは、『 不可視化(インビジブル) 』で姿を消し、監視を続けていた『エルム』から老君へと知らされた。

それにより、ジックスとガリクに繋がりがあることは判明した。残るは目的である。

* * *

午後3時。

表彰式は終わったが、若干時間が余り気味だ。1回目なのでそのあたりの調整が不十分なのは仕方がない。

「何か余興でもしますか」

大会役員は相談をし、そんな結論を出した。

「『崑崙君』、何かやってもらえないだろうか?」

仁にそんな打診が来た、その時。

「できますれば、『模擬戦』をお願いしたく」

ジックスが申し出た。

これは仁に取って、望んだとおりの展開である。この機会に『ファントム』の解析を行えるのだから。

「では防具を」

「いや、防具はなしでいいでしょう。武器が木剣なら」

「まあ、そうですな」

「採点をするわけではないですしね」

ということで、武器は木剣、防具はなしで『模擬戦』を行うこととなった。

〈皆様! これより、優勝した41番『ファントム』と、今大会審査員長である『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』ジン・ニドー氏のゴーレム『スチュワード』による模擬戦を行います!〉

この告知に、会場は沸き、帰ろうかと腰を浮かした人たちは再び腰を下ろしたのである。

『スチュワード』も『ファントム』もロングソードを手にしている。条件は同じだ。

(さて、『ファントム』の詳細を解析することができるか)

蓬莱島にいる仁も、この一戦に期待している。

(武技は……そうだな、ショウロ皇国の一般兵士レベルでいいだろう。あとは身体能力だけでいこう)

技術は盗めるが、身体能力は盗めない、という判断による仁の指示である。

『では、始め!』

様子見のため、『スチュワード』は待ちの体勢である。

対して『ファントム』はゆっくりと近付いていく。

2体の間合いが2メートルを切った時、『スチュワード』が踏み込んだ。

かあん、という軽い音が響く。ロングソード同士がぶつかり合った音だ。

その音から察するに、2体ともさほど力は入れていないことがわかる。

そして一当てした後、2体は1メートルほど飛び下がって再び対峙した。

〈双方様子見といったところですね〉

〈そのようです。しかし、速度は2体ともかなりのものでした。様子見でこれですと、本気で戦ったらどうなることでしょうね〉

〈楽しみですね!〉

「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』のゴーレムか。これは願ってもないチャンスだ。ジックス、うまくやれよ?」

と、ガリク・アッシュ。

「ジン・ニドー氏か。彼とは以前、エゲレア王国の遺跡で会ったことがあるんだよ。あの頃から卓越した 魔法工作士(マギクラフトマン) だとは思っていたが……」

と、ルコール。

(ジンさん、何か考えていることがあるんでしょうね。だったら見逃さないようにしないと)

そしてヴィヴィアンも、この一戦に注目した。

試合場の2体は、しばらく対峙した後、右回りにゆっくりと回り始めた。

それがかなり速くなった、と見ている者が思った瞬間、があん、という音が響いて動きが止まる。

見れば、横薙ぎに振るった剣同士が衝突し、鍔迫り合いをしていたのだ。

その力は互角に見える。

『 強靱化(タフン) 』と『 硬化(ハードニング) 』を掛けられた剣が 撓(しな) り、どれだけの力が加わっているか、見ている者にも想像がつくほど。

そして、ほぼ同時に木剣が砕け散った。

『止め!』

運営の掛け声で一時停止した2体は代わりの木剣を受け取り、再度向かい合う。

『始め!』

試合再開だ。

今度はいきなり踏み込み、互いに剣閃の応酬。

カカカッ、という軽い音が連続して響く。

「すげえ……」

観客の誰かがふと漏らした言葉。

〈すごい剣撃です! 準決勝、決勝と比べても勝るとも劣らない!〉

〈さすがの一言ですね。……いや、これは双方に言えることです。ジン・ニドー氏は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の名に恥じず、ジックス氏も優勝者として。双方、最高レベルの技術者と言えましょう〉

* * *

「……あの解説者は何を見ているの? あれで最高レベルだって」

蓬莱島では、 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめていたエルザが不服そうな呟きを漏らす。

仁の実力を過小評価されたことへの不満だ。

そしてその言葉どおり、『スチュワード』の出力はまだ30パーセント程度である。

「だが、向こうもまだフルパワーじゃなさそうだぞ」

フルパワーを出してしまうと、木剣が保たないということもあり、2体は互いに加減をしているのである。

「まあまあ。時間を稼げるのは悪いことじゃない。かなりデータが取れたぞ」

その分、相手も『スチュワード』の武技や動きを分析し、身に着けてはいるのだろうが、武技はショウロ皇国の一般兵士レベル、動きは出力30パーセント。

得る物の方が大きい仁たちである。

「ふむ、思った通り、鎧の材質は『欠片』と同じ、発泡させた軽銀だな。そこに流体金属を含浸させているようだ」

鍔迫り合いという至近距離で解析できるのである。かなり詳細なデータが送られてきていた。

「そして動きを見ていればわかる。あの鎧、中は空洞に近い。だから軽いんだろう」

慣性の法則はこの世界でも有効である。重ければ、動いている物体を止めるためにはより多くの力が必要になるのだ。

「それに、重心がやや高いようだ。頭部だけは空洞じゃなく、 制御核(コントロールコア) や 魔力貯蔵庫(マナタンク) が詰まっているのかも知れない」

その場合、頭部が急所となってしまうデメリットがあるが、あれだけの動きができるなら、そうそう頭部に一撃を喰らうこともなさそうである。

「とすると、中に『流体金属』を満たすと重くなる?」

エルザの推測は正しい。仁は頷いて見せた。

「そうだろうな。あとは、その流体金属が何かわかれば言うことはないんだがな」

だが、さすがにそれは難しい。

仮に『 分析(アナライズ) 』を使ったとしても、仁が知らない材質では、結局何もわからないのだから。

「それに、あれだけの動きを生み出す 魔力素(マナ) をどこから得ているのか、それも気になる」

『 魔力反応炉(マギリアクター) 』を搭載した『スチュワード』と同等の動きを維持できるエネルギー源。

たとえ、出力30パーセントであったとしても、これだけもの時間、稼働できるのは評価できる。

「侮れないな」

改めて自戒する仁。

試合場では2体の戦いがますます白熱しつつあった。