作品タイトル不明
30-29 乾杯 一
〈すごい! すごい攻防です!〉
〈決勝戦もすごいと思いましたが、これはさらにすごいですね〉
〈まったくです。これぞまさしく究極の試合! 至高の戦いです!〉
試合場には、打ち合っては離れ、離れては接近し、接近してまた打ち合う、を繰り返す2体の姿があった。
その踏み込みの強さに、修復した敷石はひび割れ砕け散る。
それは石つぶてとなり周辺へと撒き散らされていた。
そして何度目かの打ち合い。
「あっ」
観客席からの声。
またしても木剣が砕け散ったのである。
『止め!』
運営の掛け声で動きを止める2体。
「……どうします?」
これは大会委員長だ。
どうします、というのは試合場のこと。2体が縦横無尽に駆け回ったため、ぼろぼろなのである。
「そうですねえ、あくまでも余興ですから、これでいいのでは?」
「同感ですな。どちらが勝っても負けても、名誉に傷が付く。ならばここで止めておくのが利口でしょう」
『ファントム』が負ければ、優勝にケチが付く。
『スチュワード』が負ければ、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の名に傷が付く。
こうしたことを踏まえて、大会委員長は、余興の対戦をここで終わらせることにした。
『2体の模擬戦は引き分け! 引き分けとします!!』
若干消化不良は否めないが、十分にエキサイトした試合であったため、観客も拍手を贈ってくれた。
こうして、セルロア王国第1回 ゴーレム競技(ゴンペテイション) は終わりを告げたのである。
ゴーレム競技(ゴンペテイション) は終わったが、付随する行事はまだ続く。
つまり、晩餐会である。
これは労いの場であると共に、出場者が有力者とのコネを作るための場でもある。
こういう場が嫌いな仁であるが、審査員長という立場上、断ることはできない。
幸い、セルロア王国にいるのは『 分身人形(ドッペル) 』なので、そのまま任せる仁であった。
* * *
「さて、外にいるガリク・アッシュがどう動くかな」
もう一つの懸念事項の確認に入る仁。
老君からの指示により、『 隠密機動部隊(SP) 』の『エルム』が姿を消して張り付いている。
「さて、計画の半ばまではうまく行っている、か」
小声で呟いたガリクは立ち見席を後にした。ジックスと連絡を取り合う様子はなく、そのまま自分の馬車へと戻って行くようだ。
その馬車のところで、ヴィヴィアンとルコールにばったりと出会う。
ゴーレム競技(ゴンペテイション) が終わって、皆帰り支度をしているのだから不思議ではない。
「おや、もう大丈夫なのですかな?」
「え、と、あなたは?」
ルコールの問いかけに首を傾げるガリク。ずっと気を失っていたから、彼等の顔を知らないのだ。
逆に、ヴィヴィアンとルコールは彼の顔を知っている。
「私はルコール、こちらはヴィア。昼過ぎに馬車事故を起こした相手ですよ」
「ああ! あなた方がそうでしたか!」
ルコールにそう言われて納得したガリク。
「あれはどちらが悪いとも言えないような事故でしたからね。互いに無事だったようですし、恨みっこなし、でよろしいですか?」
気絶したガリクの方からそんな提案をしてきた。ルコールにもヴィヴィアンにも、これ以上事を荒立てる気はない。
「もしお急ぎでなかったら、このあと食事でもご一緒しませんかな?」
「……いいですね」
ルコールからの提案に、わずかな逡巡のあと承知するガリク。
「実はこの先にいい食事処があると聞きましてね」
手伝いの2人のうち、1人に探させ、予約を取ってあるのだ。
ゴーレム競技(ゴンペテイション) のような催し物があった後は、こうした店が軒並み満席になるということを手伝いの男は知っていたのである。肝心な調査以外には有能なようだ。
「なるほど、そうでしたか」
「我々が先行しますので、付いてきてください」
「わかりました」
こうして3人は、それぞれの馬車に乗り出発した。
ガリクの馬車は転倒したにも関わらずほとんど壊れていない。あれだけ重い荷物を積むためなので当然だろう、とルコールは1人納得していた。
一方、ヴィヴィアンとルコールが乗る馬車は、転倒した際に車体が少々歪んでしまっていた。走行には問題ないのが救いだ。
……と思ったら、しばらく走ると車輪がガタゴトいいはじめた。
「ねえ、大丈夫?」
御者をしている手伝いの男に聞くと、
「あとで直しますが、今はなんとか保たせます」
という言葉が返ってきた。
そして振動を気にしつつも、馬車はなんとかかんとか目的地に辿り着いたのである。
そこは繁華街から少し外れた場所にある店だった。
「ああ、こっちですぜ」
予約のため残った男が一行を誘導する。
ちゃんと駐馬車場もある、立派な店だった。
「一人増えたけど大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫ですぜ」
5人用の席がちょうど空いていたので予約したのだという。ガリクを入れてちょうど5人。
「運がよかったわね」
「さあ、行きましょう。こっちですぜ」
手伝いの男が店の中へ案内する。
「いらっしゃいませ」
「おう、予約したルコールだ」
「はい、ルコール様、5人様ですね。こちらです」
そこからは店の人間に、仕切りで区切られた席へと案内された。
そこには大きめの丸いテーブルが一つ。周囲に椅子が5脚配置されていた。
なるほど、とヴィヴィアンは思う。四角いテーブルだとしたら5人、という数が半端だな、と思っていたからだ。
メニューは店側お任せということらしい。
5人が席に着くと、手回しよく給仕たちが料理を運んでくる。
もう作ってあったか、あるいは同じメニューを大量に作っているかだろう。
「ここは、メニューが少ないですが、その分味は保証付きですぜ」
手伝いの男がそう言ったところを見ると、少ないメニューで手間を減らした分、値段と味に反映させているようだ。
「では、乾杯といきますか」
ルコールがそういうと、ガリクが首を傾げる。
「それはいいですが、何に?」
「そうですね、出会いに、でいいのではないでしょうか」
とヴィヴィアンが言ったので、一同異議はなく、
「では、出会いに」
「乾杯」
「乾杯」
グラスではないのが無粋であるが、ワインの入ったコップを掲げて乾杯する3人であった。
なお、手伝いの2人は隅っこで静かにちびちびワインを飲んでいた。