軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-14 飛び入り参加

そのゴーレムを、仁は初めて目視で観察することができた。

身長は2メートルを少し超えるくらい。

身に着けている鎧の外観から言って、体格はそこそこ筋肉質といったところ。

例えるならボディビルダーではなく体操選手。

問題はその鎧だ。

(……材質の見当が付かない?)

鈍色(にびいろ) の外見をしたその金属は、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』たる仁の知らない材質。それだけでも驚きの種だが、

(動きが読めない。……やはり『 変形動力(フォームドライブ) 』の上位方式か?)

という、もう一つ驚くべき点が見つかったのである。

会場はざわついていた。

飛び入り参加を表明したのはジックスと名乗る男。自称セルロア王国国民で、ゴーレムは『ファントム』というらしい。

(幻影、か……)

意味深な命名だ、と思っている仁に、大会役員から相談が持ちかけられた。

「ジン殿、あの者たちですが、飛び入り参加を認めるかどうかという話になっておりまして。審査員長としての御意見をお伺いしたいのですが」

「うーん、そうですねえ……自分としては、予定になかったことはしない方がいいと思います。後々におかしな前例を作るのはよくないと思いますし」

あのゴーレムがどうにも怪しい、ということを言いたいが、確たる証拠もないため、断固とした言い方ができずに内心悔しがる仁であった。

そのためか、大会委員長・役員らを交えての多数決で飛び入り参加を認めるという結論が出たのは15分後であった。

〈ただ今の飛び入りについて、協議した結果をお知らせします!〉

大会役員からのアナウンスが始まった。

〈今回に限り、飛び入り参加を認めます。つきましては、ご来場の皆様の中にも、飛び入り参加をしたい方がいらっしゃいましたら奮ってご参加下さい〉

結局、『観客その他からも飛び入り参加を認め』、『参加者を募る』ことにより、ジックスとそのゴーレムの飛び入りを不問にしようという腹づもりらしい。

「馬鹿な! 役員たちは何を考えているんだ!」

こういう点において、セルロア王国には、実力至上主義が未だに根強く残っていることを感じさせられてしまう。

そんな折、仁はセザール王に呼ばれた。

「ジン殿、どう思われる?」

「ええ、こういう前例を作るのはよくないですね」

「いや、そういうことではなく。……まあ、それもあるのだが」

いつになく歯切れの悪いセザール王。

「あの『ファントム』というゴーレムと、ジックスという男のことだ。正直、あれ程の技術者が今まで埋もれていたというのも考えにくい。それに……」

ちょっと言葉を切った後、セザール王は続けた。

「ジックスという男だが、セルロア王国民と自称しているが、僅かにエゲレア訛りがあるのだ。……もちろん、エゲレア王国に長く滞在していた、などの理由があれば不自然でもないのだが、何か気になる」

「なるほど……」

王太子時代に長いこと諸国を巡っていたセザール王だから気が付いた違和感かもしれない、と仁は思った。

「自分としましては飛び入り参加を認めない方がよかったと思うんですけどね」

「それは私も同感だ。だが、この大会は役員たちに任せてあり、王だからと言って強権を発動するのも躊躇われてな……」

そして、観客も沸いており、この事態を歓迎していることがわかる。やはりお国柄なのだろう。

「……だが、賛成した者や役員たちの顔と名前は覚えた」

セザール王は独り言のように小さな声で呟いたのである。

王も違和感を抱いていることを知り、席に戻った仁は礼子と『老君』に、より一層の注意をするよう指示した。

老君は礼子が送ってくる映像と『ウォッチャー』からの映像の両方を使って監視する。今日は晴天なので高空からの監視に影響はない。

そしてエルザにも注意するように小声で言う。

(用心のため、いつでも 障壁(バリア) を張れるようにしておいた方がいいな)

(ん、ジン兄がそう言うなら)

* * *

結局、他に飛び入り参加希望者は現れず、ジックスとそのゴーレムが41番として認められた。

改めて決勝戦は仕切り直しである。

8体プラス1体で計9体がスタートラインに並んだ。

〈5……4……3……2……1……スタート!〉

〈おおっ、41番、速い速い! 速すぎるっ!〉

ファントムは圧倒的な速さを見せつけ、実に4秒という記録を打ち立てた。

2位は40番のドナルド・カロー『 古き戦士(アルトクリーガー) 』、3位はヤルイダーレの『ザーベラー』、4位はエーリッヒ・ジフロの『 鋼鉄騎士(シュタールリッター) 』と、先程と同じ順位となったのである。

(うーん…… 古き戦士(アルトクリーガー) も6秒そこそこなのに、あれは速いな……)

因みに、測定は大型の砂時計であるので、秒以下の測定はできず、また、誤差も大きいことを付け加えておく。

〈すごい! いや、すごすぎる! 他を圧倒する実力! 我がセルロア王国には、まだこのような傑物が隠れていましたっ!〉

「セルロア王国万歳!」

「セルロア王国は世界一!」

興奮気味の司会。そして観客席も沸き返っていた。

〈次は『高跳び』です!〉

〈これも性能差がはっきり現れる競技ですねえ〉

高さ目盛りの付いた特製の 櫓(やぐら) が用意されている。高さは8メートルくらい。

ジャンプして手で触れた高さを記録とするルール。

もちろん、ゴーレムが手を上に伸ばした高さ分は補正される。

仁としては、見ている分には地味な競技であった。

主な結果だけを述べると、

『1位:ファントム(8メートル超) 2位: 古き戦士(アルトクリーガー) (8メートル超) 3位:ザーベラー(5メートル) 4位: 鋼鉄騎士(シュタールリッター) (3メートル) 5位: 蒼天の騎士(ブルーナイト) (1.5メートル)』

となっている。

同じ8メートル超で1位と2位の差ができているのは、同じ8メートル超でも、明らかに見た目の高さに差があったからである。

おそらくファントムは10メートル、 古き戦士(アルトクリーガー) はぎりぎり8メートル超くらいであったろう。

(うーん、やっぱり性能がいいな。しかし、何が目的なんだ……?)

腕試しか、売り込みか。仁としても、ジックスの目的を今一つ掴みかねていた。

会場では、午前中の最終種目が始まろうとしていた。

〈それでは、第3種目、槍投げです!〉

〈飛び入りの41番、高性能ですねえ。楽しみです〉

槍投げは、20メートル、40メートル、60メートル、80メートル、100メートルの距離を空けて、直径5メートルの輪になった的が設置されている。

的の中を通らないと得点にはならない。もちろん、遠い的の方が得点は高く、100メートルは100点、20メートルは20点と、距離に応じた得点となっていた。

また、槍は共通で、長さ2.5メートル、太さ4センチ、重さは3キロである。

〈今回は、ゼッケン番号と逆の順に試技を行います。3回投げて、より得点の高い2回を合計して順位を決めます。1位から5位までは入賞ポイントも加算されます〉

〈41番が槍を持ちました。どうするでしょうね、楽しみです〉

「ああっ!?」

会場のそこかしこから、戸惑ったような声が漏れた。

「なに?」

「なんだ、あれは?」

それというのも、41番『ファントム』は、槍をまともに投げられなかったのである。

結果は、20メートルの的にも届かず、当然0点。

〈解説のトルフさん、これはどう考えればいいでしょう?〉

〈そうですね、単純な力を競う競技と違って、槍投げは『器用さ』が要求される競技ですからね〉

〈なるほど、ゴーレムの向き不向きがある、と言っていいのでしょうか〉

〈そういう解釈でいいと思います〉

(……それにしてもあの槍投げは酷すぎる。まるで生まれて初めて槍を持った子供のような……まてよ? やはりそういうことか……)

仁も観客同様、最初は呆れたが、それが理由なくして行われたことではないという前提で原因を考えてみたのである。

(やはり、あのゴーレムは生まれたばかり……まだ成長中、なのだろうな)

その後は、順調に進んでいく。

〈おお、 古き戦士(アルトクリーガー) 、40メートルで的を通過です! 40点!〉

〈 鉄戦士(アイアンウォリアー) 、みごとに40メートルの的を通過! 40点です!〉

〈29番、着実に20メートルで成功! 20点獲得です〉

〈26番、惜しい! 的をはずしました!〉

ベテラン勢は40メートルをクリアしていく。やはり事前に練習もしているのだろう。

また、20メートルで確実に的を通す考えのものもいる。

いずれも投擲姿勢は上半身だけ。もっというなら腕だけで投げている。

(助走したりするとコントロールが狂うからかな? ゴーレムの力があれば、腕だけで十分だろうしな)

(……納得)

仁も観戦しつつそんな分析をし、ほとんどエルザだけに聞こえる小声で解説もしていた。

〈さあ、一巡しました。最高記録は40点、皆、まだ本気を出してはいないようです〉

そして、飛び入りの41番が槍を構えた。