作品タイトル不明
30-07 動き出す諸々
『……以上の報告がありました』
7月22日朝、工房にいた仁は老君経由で『 懐古党(ノスタルギア) 』からの報告を聞いた。
『 御主人様(マイロード) の御意見は?』
「うーん……『教育』のためという意見は賛成だが、その先の目的が不明すぎる」
『その先、ですか? つまり、最終目的、ということでしょうか』
「ああ、それでいい」
老君は、仁の考えを推測した。
「つまり、『ゴーレムに戦闘教育をしてどうするのか』ということだな」
どんなに強力なゴーレムでも1体あるいは数体では大したことはできない。もちろん仁は除いての話である。
『そうですね。戦略級になるのは礼子さんくらいのものです』
仁の横で礼子が胸を反らしたようだ。
「だとすると、考えられるのは純粋な興味と……売り込み、かな」
研究者として高みを目指すあまり、非合法な手段を取るということはままあることだし、強力なゴーレムを作り上げれば、貴族や国家が買ってくれるだろう。
『そうなりますね。残念です、ホホドの町に 第5列(クインタ) がいなくて』
「それは仕方ないな」
世界の各地に派遣され情報を集めている 第5列(クインタ) ではあるが、町毎に駐在させる、というのは現実的ではない。
「だが、ちょっと気になるな。その 重鎧(じゅうよろい) のゴーレムが」
仁は手を止めずに呟く。
『 第5列(クインタ) を手配しておきますか?』
「そうだな、そうしておいてくれ」
「さて、もう少しで完成だ」
今作っているのはセルロア王国から依頼された『モノレール』である。
試作として2両編成とし、王城からどこか特定の場所を往復するデモ軌道を作る計画だ。
軌道の方は数メートルだけをサンプルとしてこちらで作り、あとは現場で作製する予定。
それよりも、車両本体が大きくなるので、どうするか考えているところであった。
「やっぱり分解組み立て式にして、向こうで組み立てるしかないな……」
「それがいいでしょうね、お父さま」
『コンロン3』でなら完成した車両も運べるが、それはちょっとやり過ぎだろうから、何回かに分けて部品を運ぶことにした。
「明後日には運び出せるな」
セルロア王国でも同じものを作れるように、と腐心しているため、いつもの10倍、20倍の時間が掛かっているのであった。
* * *
「ああ、意外と面倒だった」
作業をほぼ終えた仁は、『家』の縁側に寝そべり、寛ぐ。
そこへエルザがやって来た。
「ジン兄、そっちは終わったの?」
寝っ転がっていた仁は身体を起こし、答える。
「ああ、エルザ。そっちは?」
「ん、大体、終わった」
「ご苦労さん」
「ジン兄も、ご苦労様」
仁がモノレールの試作を作っている間、エルザは結婚式の草案をまとめていたのである。
「簡単に説明してくれるか?」
「……ん」
自分たちのことではあるが、少し照れながらエルザは頷いた。
「まず、挙式は、蓬莱島で。出席してもらうのはファミリーの人たち」
仁とエルザ以外には、ミーネ、ラインハルトとベルチェ夫妻、トアとステアリーナ夫妻、サキ、ヴィヴィアン、マルシア、ロドリゴ父娘、そしてミロウィーナ。
「それにハンナちゃん、ルイス様とビーナ」
「うん、異議なし」
やはり仁にとって『始まりの地』である蓬莱島で挙式というのが1番しっくり来るというものだ。
「あとは、報告を兼ねて各国を回るんだけど、その順番で少し悩んだ」
「だろうな……」
今の仁は、小群国全てに知己がいる。それも、皆貴族以上、王族まで。
「1番文句が出ないだろうという順番で回ることにした」
「ああ、やっぱりそうなるだろうな」
どっちの国が先だったか、などで優劣をつけたくはないので、仁も悩むところである。
「で、どういう順番だい?」
「ジン兄が出会った順」
「え?」
てっきり、縁の深い順かと思っていた仁。
つまり、最初はエルザの母国、ショウロ皇国からだと思っていたのだ。
「そうじゃなくて、時系列。だから、最初はカイナ村」
「そういうことか……」
「次が、エゲレア王国かエリアス王国かでちょっと悩んだけど、ビーナとルイス様は式に来てもらっているから、エリアス王国で」
もちろん、ポトロックではなく、首都に行く、と付け加えたエルザであった。
「だからその次がエゲレア王国、セルロア王国、ショウロ皇国、クライン王国、フランツ王国、の順で巡ることになる。カイナ村を除き、3日は滞在することになる」
「マジか……」
6つの国掛ける3で18日。半月以上も疲労宴、いや披露宴に費やすことになるというのだ。
「それも、有名税」
「……」
がっくりと項垂れる仁に諭すように言っているが、エルザ自身も嫌そうな顔をしていた。
「……いっそ『 分身人形(ドッペル) 』に任せるか……」
「あ、それ、いいかも」
面倒臭い場面、例えば貴族たちへの挨拶とか、夜会やダンスなどには『 分身人形(ドッペル) 』を使って入れ替わろうというのだ。
「……じゃあ、面倒臭い場面では『 分身人形(ドッペル) 』に任せよう」
「ん」
* * *
第5列(クインタ) には担当地域を持たない者、つまり『別働隊』が存在する。
彼等は各地を 経巡(へめぐ) ったり、手が足りない地域に助っ人として赴いたりして活動しているのだ。
そして、エゲレア王国には、レグルス22、通称『デリック』がいた。
『ホホドの次はブルーランドではないかと推測しています』
という老君の推測により、ブルーランドに向かった。
同じく、ブルーランドの担当としてレグルス4、通称マークと、レグルス5、通称ビートもおり、3体は協力し合って周辺も含めた地域を警戒するのだった。
そして、老君の推測は的中する。
ブルーランドに、その謎の男と謎のゴーレムは現れたのである。
が、予想外なこともあった。
その1人と1体は、白昼堂々とクズマ伯爵の屋敷を訪れたのである。
「何用かな?」
ちょうど在宅だったクズマ伯爵が応対した。
「これは伯爵様、私は市井の 魔法工作士(マギクラフトマン) で、ジックスと申します。これは私が作り上げた最新型のゴーレム」
ジックスは、新型ゴーレムを売り込みに来た、といった。