作品タイトル不明
30-06 懐古党本部にて
「何だと? 汎用の警備ゴーレムがやられただと?」
『 懐古党(ノスタルギア) 』本部にとある報告が入り、それは内容的にTOPへと回されていた。
「ううむ、確かに、国有の警備ゴーレムや戦闘用ゴーレムと戦えば負けるだろうが、あの町にそんな相手がいたのか?」
「は、ドナルド様。それが、相手は小型のゴーレムだったということです」
「うむう……」
『 懐古党(ノスタルギア) 』のナンバー2、ドナルドは超一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) である。
仁たち蓬莱島勢を除けば、この世界でもトップクラスだ。
その彼が作ったゴーレムが、量産品とはいえ、易々とやられたというのが信じられないのである。
「その時の様子はわかるのか?」
「はい。それにつきましては詳細な報告が来ておりますので」
仁が『 懐古党(ノスタルギア) 』に援助した『 魔素通話器(マナフォン) 』。イメージは大型のトランシーバーである。
特定の2台の間で通話が可能な魔導具である。
全員に行き渡ってはいないが、主要な都市……今回はブルーランドの支部に置かれていて、それを通じて詳細な報告が成されたのであった。
「なになに、謎のゴーレムは身長1.8メートルほどで、兵士が着るような重鎧を着ていたというのか……」
* * *
謎のゴーレムと警備ゴーレムが激突した。
体格は警備ゴーレムが上、当然、有利である……と思われた。
が。
「なんだと!?」
謎のゴーレムは、警備ゴーレムを弾き飛ばしたのである。
仁が見ていたなら、3倍から5倍の重量差がないと不可能、と判断したであろう。
警備隊員2人は、まだ身体がいうことを聞かず、見ていることしかできない。
とはいえ、警備ゴーレムは、世界的に見ても高性能なゴーレムである。すぐに起き上がり、背に負った警棒——『 硬化(ハードニング) 』を掛けられた、直径5センチ、長さ80センチの鋼鉄製——を手にした。
警備用なので、殺傷力の高い武器は携行していないのだ。
だが、鋼鉄の棒は、十分な威力を持つ。それを振るう者が強力なゴーレムならば尚更だ。
「おお、そうこなくては練習にならん」
謎の男が嬉しそうに笑った。
その言葉の意味を警備隊員が考える間もなく、警備ゴーレムは警棒を振るい、謎のゴーレムに襲いかかった。
があん、という金属音。
謎のゴーレムは為す術もなく警棒に左肩を殴打されていた。
当然、着ている 重鎧(じゅうよろい) は凹む……と思いきや、無事。
全くの無傷、というわけではないが、とにかくさほどのダメージにはなっていないようだった。
「いいぞいいぞ、どんどんやってくれ!」
少し離れたところから、謎の男が声を放つ。
その内容だけを聞いていると、どちらの味方かわからないほどだ。
謎の男のいうことを聞いたわけではないが、警備ゴーレムは警棒での打撃を二撃、三撃と加えていく。
だが、謎のゴーレムは黙って殴られるまま。
「……だが、何だ? この違和感は……」
地に伏したまま、警備隊員はゴーレム同士の戦いを見、違和感を感じていたのである。
十撃以上をその身に受けているのに、謎のゴーレムは平然と立っている。
「よし、そろそろ動け!」
またしても謎の指示が飛ぶ。
謎のゴーレムは、繰り出される警棒に対し、ガードを試み始めた。
が、その技術は稚拙。さらに数撃をその身に受けてしまう。
その時、警備隊員は、違和感の原因に気が付いた。
「警棒で殴られているのに、動いていない……!」
この表現は稚拙だが、彼としては、この状況では他に言いようがなかったのだろう。
そう、謎のゴーレムは、警棒の打撃を受けても、その身体をほとんど揺らすことがない。
先程の激突時と同じく、謎のゴーレムはかなりの重量がある証拠だ。
見れば、地面も凹んでいる。警備ゴーレムと比較して、その体重は5倍はありそうだ。
それを察し、警備隊員は恐れを感じた。
(5倍……1トンの重さだと!? それでなおあの動き……)
「よしよし、いいぞいいぞ。……そろそろ反撃だ!」
謎の男の声。
途端に謎のゴーレムの動きがよくなった。
警棒を腕で捌き、逸らす。そして一気に踏み込み、体当たり。
最初の激突と同じく、吹き飛んだのは警備ゴーレムの方だった。
だが、そこは高性能なゴーレム。すぐに起き上がり、立ち向かっていく。しかし、その手に警棒はなかった。
謎のゴーレムが奪い取っていたのである。
「よし。試してみろ」
謎の男からの指示を受け、謎のゴーレムは警棒を振り上げた。
「なん……だと……」
警備隊員は目を見張った。
謎のゴーレムは、警備ゴーレムに勝るとも劣らない技術で、警棒を振り回していたのだ。
しかも、もっと速く、もっと軽々と。
この時点で、警備隊員はようやく悟った。
謎のゴーレムは、警備ゴーレムの技術を盗み覚えるために、最初はわざとその身に攻撃を受けていたのだと。
(だが、並の頑丈さではない……)
あれだけの攻撃を平然と受け、なおかつ反撃することができる、というのは並大抵のことではかった。
しかも、相手の技術を短期間で習得する、というのも、並の処理能力で成せることではない。
結論として、謎のゴーレムの基本性能はとてつもなく高いということがいえた。
「……!!」
どがあん、という音がして、警備ゴーレムの胴体がひしゃげた。その頭部も歪み、動作が不安定になりつつある。
「よし、 止(とど) めだ」
謎の男からの指示により、謎のゴーレムは警棒を放り出し、拳で殴りかかった。
「何と!」
その動作は洗練された拳士のようであった。
轟音と共に吹き飛ぶ警備ゴーレム。
10メートル以上吹き飛び、そのまま動作を停止した。
この頃になると、深夜とはいえ、戦いの物音に気が付いた野次馬が集まってくる。
中には、警備隊の仲間もいた。何ごとか起こったことを察し駆けつけてきたのだ。
仲間に助けられた警備隊員が辺りを見回すと、もう謎の男も謎のゴーレムも消えていたのである。
* * *
「……」
ドナルドは、 懐古党(ノスタルギア) のマスコットであり、顧問でもある 自動人形(オートマタ) 、『エレナ』と共に報告を読み、出来事を再構成していた。
「ふうむ、俄には信じられんが、事実は事実なのだろうな」
懐古党(ノスタルギア) のTOP、ジュール・ロランも同席していた。
「ええ、事実ですわ。謎の男の目的は、おそらく『教育』でしょうね」
「うむ、間違いないだろうな」
エレナの意見に、ドナルドも賛成した。
「おそらくは、できたばかりのゴーレムに、手っ取り早く戦闘訓練をさせるためだと思うわ」
「同感だ。だが問題はそこではない。謎のゴーレムの性能と、謎の男の真の目的だ」
「そうね。おそらくだけど、謎のゴーレムは全部が金属なのだろうと思うわ。それもかなり重い金属ね」
「エレナのいうとおりだな。警備隊に供出している我々の汎用ゴーレムはおよそ200キロある。その5倍というなら、それ以外に考えられん」
「だがドナルド、そんなことができるのか?」
ジュールの疑問ももっともである。重さイコール強さ、ではない。重いことは利点にもなるが、動きが鈍くなるという欠点も併せ持つことになるのだ。
「できるかできないかでしたらできますね。ですが、これまでの常識では、利点がみつからないのですよ」
首を捻るドナルドを見て、エレナが言った。
「これは、報告すべき事案ですわね」