作品タイトル不明
30-08 組み立て
7月23日、仁は『コンロン3』でセルロア王国王城を訪れた。
もちろん、『モノレール』の試作を引き渡すためである。
国王セザールは自ら『崑崙君』を出迎えた。
「『崑崙君』、さすがに仕事は早いな」
「はい、陛下。お約束のモノレール、試作が出来ましたので持って来ました。丸ごとは無理なので部品にして、数回に分けて運んできます」
「おお、なるほど。それでは資材置き場を設定しよう」
「助かります」
依頼主である国王との謁見が簡単に叶ってしまったので、この機会に仁は、試験用軌道の設置も提案することにする。
王城の執務室に通された仁は、持参した計画書を手渡した。
「なるほどな……」
セザールはざっと目を通すと、難しい顔をした。
「試験用に軌道を作るのは必要だな。その際、国民へのアピールというのもわかる。問題は費用だ」
セルロア王国は、小群国一の大国と言われている。その国家予算は、クライン王国の10倍とも15倍とも。
が、それは国民に多大な負担を強いての結果であり、長々と続けてよいものではなく、セザール王が即位してからは税率が引き下げられていた。
加えて、前王の時に起こした不祥事への賠償や、この春の飢饉対策などもあって、国家予算にはそれほど余裕がないというのもまた現実であった。
そういう事情が分かっている老君は、対策プランを立てていた。
「費用に関してはこちらで持ちます。その対価として、アヒ鉱山の採掘権を一時的にいただければ」
「アヒ鉱山? 確か、廃鉱に近い古い鉱山だったと思うが……」
アヒ鉱山は、セルロア王国西部にある鉱山で、古い歴史を持つ。
だが、その分、主要な鉱脈は掘り尽くされてしまっており、廃鉱同然なのである。
「いえ、おそらくもっと深いところにも鉱脈があるはずです」
自信たっぷりに言い切る仁。
それもそのはずで、 第5列(クインタ) であるデネブ23、通称レアリスが予備調査をして報告してきたのである。
実はその付近にはボーキサイトの大きな鉱脈があるのだ。
アルミニウムの原料であるボーキサイトは、残念ながら蓬莱島ではほとんど採れない。
月『ユニー』にはそこそこ備蓄があるようだが、仁としてはこの機会に手持ちのアルミニウムを増やしておきたいと思っていたのだった。
もちろん、必要量を確保した後は、セルロア王国にも通知し、利用してもらう予定だ。
「ふむ、『崑崙君』なら可能かもしれんな。貴殿がそれでよいなら、そうしよう」
早速書類を準備するセザールであった。
* * *
「うまくいったよ、老君」
蓬莱島に戻った仁は、老君の計画どおりにいったことを話した。
『それはようございました。今のところアルミニウムの用途は少ないとはいえ、備蓄しておくにしくはないですからね』
人間より長い寿命を持つ老君が、超長期的な視点をもつのは当然といえた。
「だな。純アルミやジュラルミンだけでなく、アルミナとしての用途は広そうだ」
アルミナは酸化アルミニウムの通称で、耐熱材としての用途がある。
また、ルビーやサファイアも、その主成分はアルミナであった。
一般に、アルミニウムの精錬には電気が必要であるが、工学魔法を使えるこの世界では、簡単に精錬できるのだ。もちろん、それ相応の知識があることが前提になるが。
『アヒ鉱山には、『コンロン3』を使って 職人(スミス) 部隊を送り込むのがいいでしょう』
職人(スミス) は技術系のゴーレムで、その名の通り職人であり、また『工兵』でもあるのだ。
『20体くらい送り込み、鉱石は小型の 転移門(ワープゲート) で送らせればいいでしょう』
「だな。まあともかく、アヒ鉱山の使用許可が出るのはモノレール本体を完成させてからだがな」
『承知しております』
* * *
仁は、翌日、翌々日と、計3日掛けて部材を運び終えた。
そしていよいよ車両本体の組み立てである。
まずは、台座となる軌道から製作開始。
一連の作業は、セルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 立ち会いで行われる。
この後、実際の軌道設置を行うのは彼等なのだから。
「礼子、頼む」
「はい、お父さま」
仁は礼子を助手に、軌道を組み立て始めた。
「……おお……!!」
見ている 魔法工作士(マギクラフトマン) たちから驚きの声が漏れる。
それもそのはず、小さな少女姿の礼子が、何トンもある鉄骨部材を軽々持ち上げたのだから。
「よし、それはこの辺に立ててくれ」
礼子を助手にした仁の作業は早い。
鉄骨を『 融合(フュージョン) 』で接合していけば、たちまち台座となる軌道が出来上がりだ。
軌道とはいっても長さ15メートル、高さ1メートルほどのモノレール用軌道である。
見た目はでかい平均台だ。
「よし、こんなものか」
続いて仁は車両本体の組み立てに取りかかった。
見ている 魔法工作士(マギクラフトマン) たちは顔面蒼白である。
「『 融合(フュージョン) 』『 融合(フュージョン) 』……よし、礼子、その部材をここへ」
「はい、お父さま」
仁が作業を開始したのが午前8時。
そして、正午になる前に、デモ用のモノレールは完成してしまったのであった。
「ほほう、ジン殿、これはすごい!」
様子を見に来たセザール王は上機嫌だ。
「なるほど、模型は見ていたが、実物はやはり見応えがあるな」
試作なので2両編成。1両の長さは約7メートルなので、2両合わせて14メートルとなり、15メートルの台座に収まっている。
「中をご覧になって下さい」
「おお、もちろんだ」
お付きの親衛隊隊長カーク・アット、第一技術省長官ラタントらと共にセザール王は仁の後に続いて車両内へと乗り込んだ。
「ほほう……!」
今回の座席配置は特急列車風。つまり、進行方向を向いて2人掛けの座席が左右に付き、中央に通路がある形だ。
「座席の座り心地もいいですな」
クッション性のある素材を中に入れてあるので、長時間座っていても疲れにくい、と仁は説明。
「ほうほう」
「窓は安全のため、全開にはできません」
身体が通るほどには開かない窓。
「天井には魔導ランプが取り付けてありますので、車内が暗いということはないはずです」
「ふうむ、至れり尽くせりだな」
「さて、運転席ですが」
丈夫な壁で隔てられており、乗客が運転手へ干渉できないようになっている、と説明する仁。
「乗客には、別に世話係を乗せましょう」
車掌、といっても通じないだろうから、ここは世話係、と言い替えた仁であった。
「さて、運転の仕方ですが……」
基本は発進と停止。レバーで操作できるようになっている、と説明。
「ああ、早く走るところが見たいものだ!」
しみじみとした声音でセザール王は呟いたのだった。