軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-04 生体由来・鉱物由来

『 御主人様(マイロード) 、ヴィヴィアンさんが面白い発見をされたようです』

7月20日の朝、老君は仁へ報告を行った。

「面白い発見?」

『はい、およそ500年前の研究施設です』

「へえ。それは凄いな!」

500年前といえば、今まで謎だった時代である。

『ですが、少々残念なことに、そこは個人の研究施設だったようですが、廃屋になっていたようです』

それを聞いて、仁はがっかりした。

「それは本当に残念だな。何もなかったのか?」

『そこを一足先に調査した人がおりまして、ジダン・ケーシーというそうですが、その人が何か発見されてはいたようです』

「『いたようです』?」

『はい。訪れたヴィヴィアンさんや友人のルコールさんにも話さなかったので』

「ルコール? どこかで聞いたような気が……」

「お父さま、ケウワン遺跡で出会った研究者ですよ」

「ああ、ギガース騒動の時の、あの人か」

考古学者だと名乗っていたことを思い出す。

「いつの間にかいなくなっていたと思ったら、ひょんなところで接点があったものだな」

「ですね」

仁と礼子は頷きあった。

「だが、500年前の研究施設か……資料が散逸していたにしても、1度調べてみたいな」

『 御主人様(マイロード) 、そう仰るだろうと思いまして、『 第5列(クインタ) 』のレグルス20、通称ロッドを派遣しました』

「おお、さすが老君」

これで、なにがしかの情報が入ってくるだろうと、仁は期待したのであった。

『ところで 御主人様(マイロード) 』

「うん、どうした?」

『最近の『 懐古党(ノスタルギア) 』の活動につきまして、報告したいと思います』

懐古党(ノスタルギア) の活動は、蓬莱島の方針とぶつからない限り自由にやってもらっているのである。

それを老君がまとめ、時期を見て仁に報告しているのだ。

「よろしく頼む」

『はい。最近は、活動の場を地方に移しています。その理由は、中央から目の届かないような地方は、生活が苦しいことが多いためです』

「なるほど、そういう地方を支援しているんだな?」

『はい。より正確には人たちを、です。中央に比べ地方は対応が遅かったり、腐敗していたりすることが往々にしてありますので』

「なるほど。具体的には?」

『公衆衛生と医療ですね』

特に下水処理と、治癒師の派遣、養成だという。

『下水処理には、『 消臭(デオドラント) 』『 分解(デコンポジション) 』『 浄化(クリーンアップ) 』といった効果のある 魔石(マギストーン) や 魔結晶(マギクリスタル) を浸透槽に投入する方式です』

以前、仁が考案した方式である。『 消臭(デオドラント) 』の効果がなくなったら取り替え時、ということで新しいものを投入すればいい。

『資金は、こちらからも援助していますし、 懐古党(ノスタルギア) 自体、かなりの資産を持っていますので』

仁の資産は増える一方なので、こうした影の公共事業にも寄付している。

とはいえ、それをせずとも、 懐古党(ノスタルギア) はその前身である 統一党(ユニファイラー) 時代にとてつもない額の資産を保有するに至っており、それを社会に還元するため、こうした活動を行っていたのである。

『あとは治安ですね。やはり地方は治安がよくないことが多いので、私設という形にはなりますが、警備隊を派遣しており、徐々に受け入れられているようです』

「それはよかった」

* * *

「あまり収穫はなかったですね……」

「うむ」

ヴィヴィアンとルコールは、ジダンの小屋に顔を出してからニカライの町へ向かい、下っていった。

宿に戻ると、手伝いの2人はもう戻っており、何も収穫はなかった、と告げて自室へと引き上げていった。

「……あまりやる気が感じられませんね」

2人の後ろ姿を見送りながらヴィヴィアンが言うと、ルコールも頷いて同意を示した。

「うむ。だがまあ、本当に『手伝い』と割り切っておれば腹も立たん」

「そんなものですか」

「ただ、この文は気になるな。ジダンも読んでおるだろうし」

「ですね……」

ルコールと2人でメモした皮紙に、ヴィヴィアンはもう一度目を通してみる。

「『生体由来*は*く、全てを鉱物性*素材で作り**ること*意義が*る』……『生体由来ではなく、全てを鉱物性の素材で作り上げることに意義がある』、でしょうね」

数箇所の文字が読めなかったが、補完は簡単である。

「しかし、そんなことができるのか? そもそも何を作り上げるのか? ……私は考古学者だからよくわからんが、ジダンは何かをつかんでいたようでもあったな」

「私の知り合いにも 魔法工作士(マギクラフトマン) がいますから、今度会ったら聞いてみます」

「うむ、そうしてくれ。とにかく、この文は何か過去の技術について書いたものであることは間違いないだろう」

* * *

その内容は、その夜のうちに仁の下にもたらされた。

それを仁は、エルザと共に研究所地下の司令室で聞いたのである。

「エルザ、どう思う?」

「『生体由来ではなく、全てを鉱物性の素材で作り上げることに意義がある』……正直、思い当たることといえば……」

エルザはちらと、横に立つエドガーに視線をやった。

その仕草で仁は、エルザが自分と同じ認識を持っていることを察する。

「 自動人形(オートマタ) 、あるいはゴーレム、だよな……」

「ん」

礼子を例にとれば、筋肉と皮膚、そして髪の毛が生体素材である。

骨格、目、神経線、 制御核(コントロールコア) などは鉱物系だ。

「そもそも、どうして生体系の素材を、使うの?」

当然の質問がエルザから出た。

だがこれには、仁も明確な答えを持つわけではない。

「1つには、優秀……だからだろうな」

礼子の皮膚に使った、古代竜の抜け殻。

合成物質では同等どころか、足元にも及ばない。

「だけど、手に入りにくい」

エルザがその欠点を口にした。極寒の北の大陸、雪の中を『カプリコーン1』で彷徨った記憶はまだ鮮明だ。

「そうなんだよな……礼子みたいなワンオフの製作にはいいが、量産には向かないんだ」

「お父さま、でもわたくしの最初期は、皮膚も髪も筋肉も、『 地底蜘蛛(グランドスパイダー) 』の糸から作られていたと記憶しておりますが」

そう、当初の素材は、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸を元に、魔法で加工・合成したものを使っていたのである。

「確かにな。『 魔法外皮(マジカルスキン) 』や『 魔法筋肉(マジカルマッスル) 』は合成物を使って直した覚えがあるよ」

合成物とはいえ、無からの合成ではない。やはり元になる素材はある。蓬莱島の場合、それは『 地底蜘蛛(グランドスパイダー) 』の糸であった。

「プラスチックだって、元は石油や石炭だからな。有機物の方が優秀なことは往々にしてあるさ」

複雑な化学物質にしても、微生物が作り出したりもする。

生体素材というと脆弱なイメージを持つ人もいるかもしれないが、それこそピンからキリまで、ということだ。

とはいえ。

「だけどな、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) はそこらにいる魔物じゃないからな……」

蓬莱島の地下にいる 地底蜘蛛(グランドスパイダー) は、特別優秀な種のようであるし、と仁は締めくくった。

「だから、鉱物系を使おうと、した? でも……」

「エルザの言いたいことはわかる。鉱物系だって、アダマンタイトのような稀少な素材も多いからな」

要は一長一短がある、と仁は議論をまとめた。

「だが、何か新しい発見があれば、わからないかもな」

先代より後、魔導大戦より前。

そんな空白期間に何が開発され、消えていったのか。

仁は少し気になってきたのである。