軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  019 説得

「すごいところですね」

その横穴入口は、幅も高さも4メートルほどあった。

冬の雪や寒さ対策として、初めはここだけに住んでいたのだが、人が増えるに連れ、外にも家を構えざるを得なくなり、今に至る、と説明がなされた。

「さあ、こっちへ」

アドリアナの2体のゴーレムも何の質問もされずに通されたが、それもその筈、中では多くのゴーレムがいろいろな作業を受け持っていた。

洞窟の奥では何か資源を採掘しているような音が響いていたし、またある部屋では、野菜のようなものを栽培しているのが見えた。

奥まった部屋に通されるアドリアナ。

そこは応接間兼会議室のような部屋で、角が丸くなった四角いテーブルの周りに10脚ほどの椅子が置かれていた。

「今、部屋を用意させている。その間、幾つか質問よろしいかな?」

「あ、はい」

「まずは飲み物を飲むといい」

アドリアナたちの前には湯気を立てる飲み物が置かれた。

正面に座った 長(おさ) 、ハーキラーはまずそれを口にした。

続いて、アドリアナの隣に座ったバシャーコも。

それを見たアドリアナも一口飲んでみると甘く、美味しいお茶であった。

「テエエという。南の国から購入しているが、このあたりでも作れないかと試行錯誤中だ」

ハーキラーがお茶の説明をしてくれ、いよいよ本題である。

「さて、ではまず、こちらから質問させてもらおうかな」

「はい、なんでしょう」

「アドリアナ殿、といったか。連れてきた2体のゴーレムだが、あれは貴殿が作ったものなのかな?」

「はい、そうですが」

この答えに、ハーキラーは少し驚いたようだ。

「……なるほど、それが本当なら、貴殿は凄腕の技術者のようだ。で、ここへは何を期待してやって来られた?」

「はい、自分の知識欲を満たすために」

ハーキラーの目を見ながら、直球で答えたアドリアナであった。

なんとなく、この相手には迂遠な言い回しをするよりも、ストレートに思うところをぶつけた方がいいと感じていたのである。

そして、それは正解だったようだ。

「ふ、ははは、面白い! お嬢さん、いや、アドリアナ殿。『森羅』氏族を感服させたという貴殿の技、見せていただこう」

そう言ってハーキラーは2度、手を叩いた。

すると、3体のゴーレムがトレイを持ってやって来た、トレイには夕食が載っている。

「まずは、夕食を食べてくれ」

出されたのは芋のようなものを煮た物、野菜のスープ、それに硬いパンである。

同じ物をハーキラーも食べているので、これが日常的なものらしい。

「食事が貧相なのは済まぬと思っている。だが、この『福音』の地は土地柄、作物があまり育たぬのでな」

「それなら……」

なぜ移り住まないのか、とアドリアナが尋ねると、

「先祖代々住んできたこの地を離れるわけにはいかぬ」

という答えが返ってきた。

「ゆえに、いろいろと工夫をしているところなのだ」

ゴーレムが野菜のようなものを栽培していたのもその一環らしい。

「そうなんですか……」

「貴殿が卓越した技術者であるというなら、この問題を何とかしてもらえぬだろうか?」

などという提案がなされた。

「そうですねえ……」

アドリアナにも、農耕の知識はほとんどないといってよいので、この面では助言できそうにない。だが。

「なら、あるところから買えばいいのではないのでしょうか?」

と、至極当たり前のことを提案してみる。

一笑に付される、と思いきや、そうはならなかった。

「確かにそれも1つの手ではある。が、買うには金が必要だ。そして我等の氏族には『通貨』というものがないのだよ」

「ええー……」

通貨、という意味で金を使わずにすむ生活とはどのようなものなのか、アドリアナには想像がつかなかった。

「そういえば、こちらの大陸では通貨というものがないのですか?」

今更ながらに尋ねてみたアドリアナ。

「うむ、使っていない。物々交換で済んでいるのでな」

「そうですか……」

各氏族は、氏族内で生活が完結するよう、各々役割があるとハーキラーは説明した。

「どうしても足りないものは外部から調達するのだが、通貨は使わない」

ということである。

それで経済が成り立つのかとアドリアナは一瞬思ったが、実際にそれでやって来たのだから、素人である自分の口出しする場面ではないと思い直す。

アドリアナは知らなかったが、彼女が今まで訪れた土地でも、一般庶民は通貨を使わずに物々交換している場合も往々にしてあったのだ。

通貨を使わないならば、別方面から何かできないかと考え、1つの思いつきを閃いた。

「外貨の獲得、といいましょうか、『売れる』ものを用意したらどうでしょう?」

「売れるもの?」

怪訝そうな顔をするハーキラー。

「ええ、そうです。先程少しだけ拝見したところによれば、ゴーレムが資源を採掘していましたよね?」

「うむ。金属や 魔結晶(マギクリスタル) などを掘り出している」

「それを若干でいいので売ればいいのです」

「ふむ、なるほど。だが、誰に?」

「南の大陸に、ですよ」

ここで『南』といっているのは、今アドリアナが訪れた大陸に対して南に位置する、という意味である。

「ふうむ……」

「南の大陸……『ローレン大陸』と住んでいる人たちは呼んでいますが、そこはここよりも温暖で、作物の収穫も多いわけです。そこから買えばいいのでは?」

「……この大陸は『ゴンドア大陸』という」

しばしの沈黙のあと、ハーキラーは口を開いた。

「『ローレン大陸』か……正直いって、そこに住む者たちは好かぬ」

「なぜです?」

自分もそのローレン大陸の出身である。アドリアナは疑問をぶつけた。

「その昔、このゴンドア大陸から逃げ出した者たちが、貴殿のいうローレン大陸に住み着いた、という伝承があるのだ」

「え……」

「いわば分家。しかも、本家を見限った連中だ。そんな者たちから必需品を買うなどできぬ」

「……」

その伝承が正しいかどうかはこの際問題ではない。彼等の矜恃の問題なのだから。

アドリアナは頭を抱えたくなった。

そもそも彼女は、技術者であり、この『ゴンドア大陸』を訪れたのは、北の地には自分の知らない知識を持った人々がいる可能性が高い、と思ったからである。

いや、『思った』というより、『推測した』というべきか。

シュウキから聞いた、ずっと西に住んでいるという人々。

ミツホやフソーという国々。

それらから引き出した推測により、北へ来てみたら、どんぴしゃだった、というだけなのだから。

閑話休題。

アドリアナは、こうした『誇り』に関する感情は厄介なものと経験的に知っている。

かつて、父シュウキと共に旅をしていたときにも、旧弊に囚われている者たちは頑として工学魔法を受け付けなかったものだ。

(本当に、厄介よね……)

心の中で溜め息をついたアドリアナは、なんとかして説得することを考えた。

「必需品を買う、というよりも、必需品を売ってやるんですよ」

「うん? どういうことだね?」

『売ってやる』という言い回しに反応が返ってきた。

「向こうの大陸には足りないもの、欠乏しているものがいろいろあります。そういうものを売ってやるんです。もちろん対価はいただけばいいのです」

「ふむう……」

彼女のこの提案に、考え込むハーキラー。これはいけるのではないか、とアドリアナは思った。