軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  020 年齢差

氏族としてのプライドを保ったまま、交易を行わせようと、アドリアナは心を砕いていた。

「向こうの大陸にない物、または足りない物……って何かしら」

食事後、そのまま話し合いになってしまったため、一旦頭を冷やしてから改めてじっくり行おうということになった。

アドリアナは客間に案内され、そこでベッドに寝転がって考え込んでいたのである。

「勢いで口にしちゃったからなあ……」

元々アドリアナは一般庶民の暮らしには疎い。

父である『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィとの生活は、どうしても上流階級との接点が多くなり、当然、他のことは見えにくくなるのだ。

「『人々の役に立つ魔導具』なんてこれじゃあ夢のまた夢ね」

考えが負のスパイラルに入ったのか、だんだん気が滅入ってくるアドリアナ。

「あー、止め止め! 今夜はもう寝ましょう!」

部屋の明かりを消し、毛布を被ったアドリアナは、旅の疲れもあってすぐに眠ってしまったのであった。

「……うーん、どうするかなあ」

一晩寝て起きたが、やはりいい考えは浮かばない。

「おめざめですか」

声のする方を向くと、ゴーレムが立っていた。

ゴーレムに案内され、洗面所で顔を洗って食堂へ行くと、ハーキラーとバシャーコもちょうど今来たところだった。

朝食は麦粥。

中には香草や刻んだ野菜が入っている。

大振りのスプーンでそれをすくって食べようとしたアドリアナの脳裏に閃いたものがあった。

食後に出てきたのは少し変わった味のお茶であった。ハーブティーのようだが、何の葉かはわからない。

爽やかな香りとほんのりと感じる甘味をアドリアナは気に入った。

「えと、考えをまとめてみました」

実際にまとめたのは今さっきであるが、そんなことは関係ない。

「こちらには軽銀がありますよね?」

「うむ、豊富にあるな」

ハーキラーが答えた。

「向こうの大陸の海岸部にはなぜか軽銀が少ないんです。ですので……」

「なるほど、軽銀を売る、というのか」

アドリアナの言葉に被せるようにハーキラーが言った。だが、アドリアナは首を振る。

「違います。もう一手間、掛けるのです」

「もう一手間、ですと?」

バシャーコが聞き返す。

「そうです。軽銀で食器を作って売るのですよ」

軽銀=チタンは、熱伝導率が低く、熱いものを食べても持つ手が熱くなりにくい。

また、鉄や銅、銀などよりも軽いので扱いやすいという利点があるのだ。

ただ、アドリアナが見てきた限りにおいては、北部では軽銀の使用が見られなかったのだ。

それを思い出し、軽銀を取引することを思いついたわけだ。

同時に、付加価値として、食器に加工して売ることを提案したというわけである。

「なるほど、食器か……」

「食に関するものは大きいですよ。貴族王族から一般庶民まで、食べずにいられる人間はいませんから」

つまり、市場が大きいと言うわけである。

これはかなり説得力があった。

「ふむ、考えてみる価値は十分にありますな」

ハーキラーも、この案には少々考えさせられるものがあったようだ。

「とにかく、アドリアナ殿は私の提案に一つの明確な答えを返してくれた。なら、こちらも協力をしよう」

昨日、ハーキラーがアドリアナにした提案は、半分は本音、もう半分は彼女の人となりを確認するためだったようだ。

提案に対し真摯に取り組み、意味のある回答をしたということで、ハーキラーもアドリアナを信用できる、と判断したのであろう。

「ありがとうございます」

食事後、アドリアナとバシャーコはハーキラーに案内され、同じ洞窟の一角にある倉庫へとやって来た。

「ここは、氏族に伝わる魔導具類を置いてある倉庫の一つだ。まずはここを見てもらおうか」

そこは20畳くらいの広さがある部屋で、大小様々な魔導具が置かれていた。

「アドリアナ殿、ここは比較的保存のいいものが置かれているようです。まずは貴殿の腕試し、といった意味合いもあるのでしょう」

バシャーコが助言をくれた。

とはいえ、初めて見る魔導具も多く、アドリアナは目を輝かせてそれらの解析に取りかかったのである。

「……ふんふん、ここの 魔導式(マギフォーミュラ) はまだ改良の余地がありそうね……でもこっちは凄い完成度ね……」

「こんな使い方があるなんて……盲点だったわ」

「これは旧型ね。『森羅』で見たものの方が進んでいたわ」

独り言を呟きながらの解析は、バシャーコにはお馴染みのものだ。

そのバシャーコが気が付くと、隣に若い男がやって来ていた。

「貴殿は?」

アドリアナの邪魔をしないよう、小声で尋ねるバシャーコ。

「僕はレーベルトといいます。ハーキラーの孫に当たります」

レーベルトと名乗ったその若者も、魔法技術を研究しているということだった。

「南から来た技術者がどれほどのものか見てこい、と祖父に言われまして」

と、ここに来た理由を説明する。

その間にもアドリアナは解析を進めていた。

「なるほどね。この 魔導式(マギフォーミュラ) はこちらの部材の制御を受け持っているわけね」

「うーん……どう見てもこの使い方はないわ。無駄が多すぎるものね」

「あ、そうじゃないか。ここをこうしてみると……そうか、裏と表で位相を反転させているわけで……」

黙々と、いや、独り言を呟きつつ解析を進めているアドリアナを見て、レーベルトは目を見張った。

「すごい人ですね。……南の人ということは、おそらく20歳から40歳程度なのでしょう? なのにあれ程の知識を持つなんて……」

その呟きは小声ではなかったため、ちょうど一区切りしたアドリアナの耳に届いた。

「……失礼ね! あたしはまだ18ですけど」

「あ、す、済みません」

アドリアナの剣幕に怯むレーベルトだった。

北の大陸=ゴンドア大陸に棲む彼等の寿命は長く、南の大陸=ローレン大陸に棲む者たちの5倍程度ある。成長・老化の速度もそれに見合ったものであった。

ゆえに、レーベルトがアドリアナの年齢がよくわからないのも無理はない。

アドリアナにしても、ハーキラーやバシャーコの年齢を言い当てられないだろうからだ。

……というような説明と言い訳をしたレーベルトに、アドリアナは頭を下げた。

「ごめんなさい。確かに、あたしにもあなた方の歳はよくわからないわ。ハーキラーさんは60歳前後に見えるし、バシャーコさんは35歳くらい。……レーベルトさん、でしたっけ? あなたは20歳くらいに見えます」

「はい、それでもいいと思いますよ。実際、祖父は300歳、僕は100歳ですから、5倍という寿命を考えると、60歳と20歳になりますからね」

「私は170歳だから34歳相当になるのかな」

「えええー……」

アドリアナは呆れた顔になった。

「どうしてそんなに長生きなんですか?」

聞かずにはいられなかった。

……もう、過ぎてしまったことだとしても。

父、シュウキ・ツェツィに、あと少し、生きていて欲しかったアドリアナとしては。