軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  012 蒼穹の氏族

『 自由魔力素(エーテル) の濃度は倍くらいになっている。ゴーレムたちも力が有り余っているようだ。だが無理はできない。慎重に進むことにする』

* * *

アドリアナの船は、大陸の北端らしき場所に辿り着いた。

「でも繋がっているのよね?」

「はい、アドリアナ様」

偵察に出したMー003からの報告によると、南の大陸と北の大陸は細い地峡で繋がっているとのことだ。

「それじゃあ、岸からあまり離れないように注意しながら北上ね」

航法についてはド素人なアドリアナ、常に岸が見える距離を保って航行しているので、船の速度が速くともそれなりに時間が掛かっている。

「でも、安全第一」

今のアドリアナは1人であるし、お伴のゴーレムたちは防水構造ではあるが泳げない。何かあっても助けは期待できないのだ。

細心の注意を払うのは当然といえた。

「波も荒いし、今までより岸に寄った方がよさそうね。……でも、暗礁に乗り上げたらまずいし」

遠すぎず、近すぎず。

幸い、海の透明度は高いので、Fー002に監視させることで、浅瀬は回避しつつ北上を続けることができている。

だが、その速度は遅く、時速20キロ程度だ。

それでも日暮れ前には、後にパズデクスト大地峡と呼ばれる場所を通過し終えたアドリアナたちであった。

「今夜の停泊地が見つからないわね」

付近の海岸は切り立った崖が多く、波も荒い。

砂浜に船を引き上げるのが最も安心なのだが、岩場ばかりである。

「奥まった入り江でもいいんだけどな」

それすら見あたらないため、仕方なく北上を続けるアドリアナ。

次第に空は薄暗くなってきた。

「まずいわね……」

少し焦りが生じてきた、その時。

「アドリアナ様、明かりが見えます」

船の 舳先(へさき) で周囲の確認をしているFー002が斜め前方を指差した。

「本当ね。ゆっくり近付いてみましょう」

近付くにつれ、明かりは一つではないことがわかる。明らかに人工の明かり、それも家の明かりのようだ。

「やっぱり人が住んでいた」

近付くにつれ、その付近の海岸が整備されていることがわかる。

住民が、港として使うために整備したことは明らかだ。

「久しぶりに人に会えるかな?」

もう10日近く、人と会っていないアドリアナは、少し人恋しさが募っていた。

船にも一応、ライトは付いている。反射鏡まで備えた、サーチライトもどきだ。

それを光らせて岸へと近付いていくと、幾つかの人影が見えた。

「あっ、やっぱり人だ」

アドリアナは大きく手を振ってアピールする。

岸の人影は戸惑うような素振りを見せていた。

それもそのはず、アドリアナの船はその後ろに、体長10メートルほどの『 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) 』の死骸を3匹、曳航していたのだから。

* * *

「私はこの村の 長(おさ) 、『 蒼穹(そうきゅう) 』のハムンタスという」

「アドリアナと申します」

港に船を着けたアドリアナは、訝しんで様子を見にやって来た 村長(むらおさ) と挨拶を交わしていた。

ハムンタスと名乗った初老の男は、白髪に黄色い目をしていた。肌の色は白い。

「アドリアナ殿か。して、何用かな?」

「あの、北へ向けて旅をしているんですけど、夜になるので船を着ける場所を探していましたら、明かりが見えたのでやって来たんですが」

「なるほど。……で、あの『 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) 』は?」

「途中で襲ってきたのでやむなく退治したんですが、何かに使えないかと牽いてきました」

正直に答えるアドリアナ。それを聞いたハムンタスは笑い出した。

「わははは、面白いお嬢さんだ。歓迎しよう。今夜は我が家へ泊まるといい。 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) は村の者に捌かせよう」

聞くところによると、 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) は、肉はまずくて食べられないが、皮や骨などは素材として有用なのだそうだ。

「あたしの分を少し残しておいて貰えれば、後は皆さんでお好きに使って下さい」

「おお、それはありがたい!」

アドリアナは念のためにMー003を伴にしてハムンタスの家を訪れた。

そこは平屋だが石造りのどっしりとした家で、広さも十分。

聞けば、4世帯が一緒に暮らしているのだという。

「さあ、どうぞ」

ハムンタスに案内され、立派な玄関に辿り着くと、そこには数名が待ち構えていた。

「お帰りなさいませ、旦那様」

と言ったのは奥さんらしい、初老の女性。

「お帰りなさいませ、お義父さま」

そう言って頭を下げたのは息子のお嫁さんのようだ。20代の美人である。こちらは銀髪に水色の目をしている。

「お帰りなさい、お祖父ちゃん」

これは孫であろうか、5歳くらいの男の子であった。

「お帰りなさいませ、ハムンタス様」

深々と頭を下げたのは、浅黒い肌の、屈強な男である。

「うむ、ただいま。お客人を連れてきた。南からやって来られた、アドリアナ殿だ」

「アドリアナです。よろしく」

「ようこそ、アドリアナさん」

「アドリアナさん、歓迎いたします」

「お姉ちゃん、いらっしゃい!」

「アドリアナ様、ようこそいらっしゃいました」

四者四様? でアドリアナを迎えてくれた。

ハムンタスの妻はソラマリス、嫁はシーラマーリ、孫はランデルト。

浅黒い肌の男は従者で、マグタスと名乗った。

あと一人、ジャンガリスという息子がいるそうだが、今は外出中でしばらく帰らないということだった。

「どんどん食べてね」

「ありがとうございます」

そういった話を、夕食のテーブルを囲みながら聞いていたアドリアナである。

「停泊させていただければそれで良かったのに、こんなにまでしていただいて悪いみたいです」

とアドリアナが言えば、ソラマリスはそれを否定する。

「遠くからのお客さんは歓迎する、これが村の習わしなのよ。 村長(むらおさ) のうちが実践しなくてどうするの」

大きな鍋に、海のものが煮られている。海鮮鍋のようなものだ。

それを各自の取り皿に取って食べる。

季節は夏であるが、このあたりの夜は冷えるので、ちょうどいい。

食事中は必要最小限の会話のみで終わり、その代わりに食後のお茶では話に花が咲いた。

「我等は生まれつき魔法適性が高くてな。ほぼ全員が魔導士なのだよ」

「そうなんですか!」

確かに、この 自由魔力素(エーテル) の高さを見れば、そういうこともありそうだ。

役に立つ魔法を教えてもらえるかもしれない、とアドリアナは期待を持ち、自分のことも説明する。

「そう、魔法技術者なのね」

「ほう、治癒魔法も。それは珍しい」

彼等の中でも、治癒魔法を使える者は少ないようだ。

だが。

「もう少し北の方に、『森羅』という氏族がいる。彼等の知識量は凄い。もしアドリアナ殿が希望するなら、紹介状を書こうではないか」

「是非、お願いします」

渡りに船とはこのこと。

一も二もなくアドリアナはその申し出を受けたのであった。