軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  013 森羅の氏族

蒼穹の氏族の下で一夜を過ごしたアドリアナは、ハムンタスとシーラマーリからの紹介状を持ち、再び北を目指した。

『お父さまによろしくね』とは、シーラマーリの言葉である。というのも、彼女は『森羅』の氏族から嫁に来たということだったのである。

今日の海は凪いでいたので、順調に北上できる。

「確か、海に突き出た大きな岩が目印だったわね」

上陸するための海岸、その目印として、目立つ岩の形状を教えられていたのだ。

「いい人たちだったな……」

あくびを噛み殺しながらアドリアナは独り言を呟いた。

昨夜は話が弾んでしまい、遅くまで話し込んでいたのである。

おかげで、いろいろと勉強になった。

(一番の収穫はゴーレムの方式ね。……こっちのゴーレムは『 変形(フォーミング) 』に似た魔法で動いているなんてね。『 変形動力(フォームドライブ) 』と名付けましょうか)

(有り余る 自由魔力素(エーテル) を使えるからこそよね。でも、劣化がほとんどないというのはいいかも)

この『 変形動力(フォームドライブ) 』最大の利点は、劣化がほとんどない、つまり完全なメンテナンスフリーにできるということである。

素材そのものの寿命が来るまで動き続けることができるのだ。それこそ、何千年も。

(その分繊細な動きは難しいけど、用途によっては有利よね)

遠い将来、蓬莱島の地下で資源を採掘するゴーレムたちはこの時の認識により、『 変形動力(フォームドライブ) 』方式が採用されるのである。

(それに、食糧もいっぱい貰ったし……)

凶魔海蛇(デス・シーサーペント) 3匹分の素材というのは、彼等『蒼穹』の氏族にとって、かなりの物だったらしい。

乾物限定であるが、大量に食料が船に積み込まれている。

(向こうとは味付けも違うし、有り難かったわ)

レナード王国とは味付けが違っていたので、交互に食べれば飽きも来にくいだろうとアドリアナは思ったのである。

そうこうするうち、船はかなり北上をし、目印の岩が見えてきたようだ。

「あれみたいね。船を岸に向けるわよ」

ゆっくりと船を岸へと近づけていくアドリアナ。

「この辺は暗礁がありそうだから要注意ね」

岸に岩場があるということは、そういうことである。

歩くほどの速度で、慎重に船を動かし、およそ午後3時、アドリアナの船は岩場と岩場の間にある小さな砂浜に着いた。

ゴーレムに船を浜の中程まで引き上げさせるアドリアナ。

「これなら少々の波が来ても流されないでしょうね」

船の見張りとしてMー002とMー003を置き、Fー002とFー003をお伴に連れ、アドリアナは内陸を目指した。

手荷物などは2体のゴーレムに持たせている。

「内陸に向かって道があるって聞いたけど……ああ、あれかしら」

踏み跡程度の小径が、浜辺に草の中に続いていた。それを辿っていくと、少しずつ明瞭になっていく。

「間違いなさそうね。30分くらいで着くらしいけど……」

背の高い草と灌木の茂る中に、道は細いながらもはっきりと続いている。

やがて、小さな林を抜けると、アドリアナの目の前に金色に色づいた麦畑が広がった。

「わあ、きれい」

収穫を待つ麦の穂は少し重そうに風に揺れていた。

「あの林が防風林ってわけね」

同時に塩害からも防いでいるのだろう、と、シュウキから習った知識を思い出す。

「お前さんは誰だね?」

そんな思いに耽っていたアドリアナは、5人の男たちに囲まれていた。

「見ない顔だな。ゴーレムまで連れて」

5人のうち3人は若く、2人は初老の男であった。若い男たちの中には浅黒い肌をしている者もいた。

これが『森羅』の氏族だろうと思ったアドリアナは、慌てて自己紹介をする。

「あたし、アドリアナっていいます。『森羅』の氏族さんでしょうか?」

「うん? ……そうだが?」

一番年上に見える男が、 訝(いぶか) しげな顔でアドリアナを見つめる。

「ええと、『蒼穹』のソラマリスさんとシーラマーリさんから紹介状を貰っているんですが……」

と言い掛けると、その男が驚いた顔をした。

「娘から? そうか、お嬢さんは『蒼穹』のところから来たのかね」

「あなたは?」

「私は『森羅』の 長(おさ) 、サイトスという」

サイトスは銀髪に水色の目をしていた。

「私はバシャーコ」

サイトスの娘婿だそうだ。

もう1人の森羅氏族はメラルドスといい、浅黒い肌をした2人はやはり従者で、フロルタス、テンペロトスというそうだ。

「2人からの紹介状を持っているなら我が家へ来るといい」

そう言うと、サイトスはくるりと向きを変え、麦畑の中に続く道を歩き始めた。少々ぶっきらぼうであるが、悪い感情は持っていないように感じたアドリアナである。

サイトスの娘婿、バシャーコと名乗った壮年の男が愛想よくアドリアナに声を掛けた。

「私の妻はサイトスお義父さんの長女でして、アドリアナさんが会ったのは妻の妹になります」

バシャーコは人当たりのいい感じのする男であった。

「それじゃあ、俺たちはあと少し、見回りをしてから戻るからな」

「ああ、頼んだ」

メラルドスはバシャーコに声を掛け、従者2人と一緒に、アドリアナたちとは反対方向へ歩き始めた。

「じゃあ、行きましょう」

「はい」

サイトスはもう大分先を行っていた。その後を追うように、バシャーコに連れられアドリアナは歩いて行く。最後尾には2体のゴーレムたち。

麦畑の中を10分ほど進むと、集落が見えてきた。

「あそこが、『森羅』氏族の村です」

『蒼穹』と同様、石造りのがっしりした家が建ち並んでいる。住まいと畑は完全に分離しているようだ。

そして、その家々の中、中央部に1軒だけ2階建てとなっている家があった。

「あれが 長(おさ) の家です」

予想どおりといえば予想どおりである。アドリアナはバシャーコに案内されて家々の間を抜け、 長(おさ) の家、いや屋敷へ向かった。

「いらっしゃいませ」

一足先に帰ったサイトスにより、従者や家の人たちがアドリアナを出迎えた。

「ようこそ、アドリアナさん。娘は元気にしてましたか?」

そう尋ねたのは、シーラマーリによく似た顔立ちの女性。

「義母のザミアです」

と、バシャーコが教えてくれた。

「はい、それはもう。それにお孫さんもお元気でしたよ」

そう言いながら、アドリアナは紹介状を手渡した。それを受け取ったザミアは満面の笑みを浮かべる。

「まあまあ、嬉しいこと。さあさあ、中へどうぞ」

「お世話になります」

ザミアに手を取られたアドリアナはそのまま屋敷の中へ。

「わあ……」

外見は『蒼穹』の建物に似ていたが、内装はかなり異なる。

『蒼穹』が明るい感じであったのに対し、こちらは重厚で落ち着いた雰囲気がある。

床もあちらは板張りだったのに対し、こちらは毛皮が敷かれており、足音もしないほど。

「このお部屋を使ってね」

一家の主婦、ザミア自らが案内してくれた部屋は、南向きの明るい、広い部屋であった。

寝心地のよさそうなベッドが置かれ、広さは10畳くらいか。

付いてきたFー002とFー003を入れても十分過ぎる広さがある。

「ありがとうございます」

礼を言って荷物を置くアドリアナであった。