作品タイトル不明
過去篇 肆 アドリアナの冒険 011 さようなら/間奏1
アドリアナはまだ少し余っていたステンレス鋼を用い、スプーンを5つ 拵(こしら) えた。
村長一家用に、である。4人に1つずつ、そしてもう1つはお客用として。
そしてそれらは、早速夕食で使うことになった。
「わあ、使いやすい! アド、ありがとう!」
「ほんと。それにピカピカしてきれいだわ」
クルルとマルルは新しいスプーンとフォークを気に入ってくれたようだ。
その笑顔を見て、アドリアナは作って良かった、と思った。
(……こういう笑顔をしてもらえるように、これからも頑張ろう……)
このことはまた、将来のアドリアナの原動力にもなっていくのだ。
* * *
夕食後、アドリアナは家長であるメウト、その妻バイセ、長女マルル、次女クルルに向かって頭を下げた。
「長い間お世話になりました。明日、旅立とうと思います」
この発言にクルルとマルルは盛大に反応した。
「なんで? アド、行っちゃいやだ!」
「アド、何か気に入らないことあったの? あ、今日、2人だけでクラリーの実を採りに行ったこと? あれはね……」
「ううん、そうじゃないの」
必死に弁解しようとするマルルを押し止め、アドリアナは微笑んだ。
「あたしは、やること、やらなきゃいけないことがあるの。そのために、もっと北へ向かわないといけないのよ」
「北へ……?」
「そう、北へ。そこにはきっと、あたしが欲しいものがある、はず」
そう言ったアドリアナの顔は、クルルとマルルが今まで見たことがない、大人びた顔だった。
「アドの欲しいものって……?」
辛うじてクルルは質問を口にする。
「あたしの欲しいものは、知識」
「なんのために……?」
今度の質問はマルルから。
「お父さまが求め続けた夢を、あたしが叶えるために」
そして一呼吸置いて、アドリアナは言葉を続ける。
「だからあたしは立ち止まらない。遙か高みを目指して、歩いて行く。それがあたしの目的」
「……」
「……そう、わかったわ」
「お姉ちゃん!?」
マルルは母バイセゆずりの柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「アドには譲れない夢があるのね。でも、あたしたちのこと、忘れないでくれたら嬉しいな」
「もちろんじゃない! このお家で過ごした日々、クルルとマルルと遊んだこと、絶対に忘れないわ。忘れてたまるもんですか」
「……なら、いいわ」
「お姉ちゃん!」
物分かりのいい姉に不満を言おうとするクルルを押し止め、
「クルル、お友達の夢を応援してあげようよ、ね?」
「お姉ちゃん……」
今にも泣き出しそうな妹、クルルの頭を撫でる姉マルル。
「マルル……クルル……」
アドリアナも、そんな2人のやり取りを見て、目に涙を溜めていた。
「……うん、お姉ちゃん。わかった。……アド、頑張って……」
最後は消え入りそうな小さな声だったが、クルルもまた、アドリアナを応援する、と言ったのだった。
その夜、アドリアナはクルルとマルルと一緒に眠った。
* * *
「アドちゃん、また来てね」
「アドさん、元気でな」
「アド、いつまでもあたしたち、友達だよ!」
「アド、アドのこと忘れないわ!」
「嬢ちゃん、いろいろと楽しかったぞ」
海岸から船出するアドリアナを見送りに、村長一家と鍛冶屋の親方がやって来ていた。
他にも、道ですれ違っただけの村人や、見知らぬ人たちまで。
「フォーク、ありがとうな」
「気を付けるんだよ」
「ありがとうございます! 皆さんも、お元気で!!」
船の上から手を振るアドリアナ。
ゆっくりと船は沖へと向きを変えていく。
「しかしたいした嬢ちゃんだったなあ」
「いったい何者なんだろうのう」
そんな呟きを漏らす村人に向かって、クルルは大声で宣言する。
「アドは、あたしたちの友達だよ!」
マルルは少し離れた場所で、小さくなっていく船影を見つめていた。
「アドの夢が叶いますように……」
その日の海は青く澄み、波は凪いでいた。
* * *
「……だってさ」
1冊目の日記を読み終えた仁は、顔を上げて一同を見渡す。
「先代は北を目指したんだね」
「……おそらくは魔族のいる大陸」
サキとエルザが推測を述べる。
「だろうな」
それはおそらく正解だろうと仁も同意した。
「寂しかったろうね、アドリアナさん」
ハンナが少し悲しそうな目をしながら呟いた。
「そうですね、ハンナちゃん。お母さまは、そんな悲しみを背負われて、なお工学魔法を高めることを選ばれたのですね……」
礼子が、ハンナの言葉に反応した。
「ジン兄、アドリアナさんは、どうやってスクリューの軸から水が漏れてくるのを防いでいたの?」
エルザから質問が出た。
「マルシアさんもそこを解決できなくて苦労していたはず」
「ああ、そこか」
仁は日記の後ろのページを示した。
「ここに図が出てるな。……なるほど、要するにスクリューを回すゴーレムのいる部屋、つまり機関室だな。そこだけは水が入ってくるようだ」
「え?」
「つまり、水漏れは機関室だけで完結するようにしてあって、その漏れてきた水は水属性魔法で排出している。最悪、ゴーレムたちは水中でも動ける構造のようだ」
当時としては画期的だったのだろう、と思われる。
「 賢者(マグス) シュウキも、スクリューは知っていても水密をどうするかは知らなかったんだろう。それを先代は魔法を組み合わせてとりあえず解決していたんだな」
「……納得。さすが先代様」
「さて、2冊目を見てみるか」
ペリド2にペルシカジュースを持って来てもらい、喉を潤した一同。
仁は本棚から『2』と番号が振られた日記を取り出した。
留め具を外し、ゆっくりと開いてみる。
『北を目指して3日目、大陸と大陸の接点ともいうべき場所に辿り着いた』
「……今でいうパズデクスト大地峡に、先代は辿り着いたみたいだな」
『 自由魔力素(エーテル) の濃度は倍くらいになっている。ゴーレムたちも力が有り余っているようだ。だが無理はできない。慎重に進むことにする』