作品タイトル不明
05-17 庶民街
ラインハルトと別れた仁、礼子、そしてエルザは庶民街へ来ていた。
仁はこちらの方が興味があった。貴族街は、なんというか生活臭が感じられなかったのである。
また、エルザも来たがった。
「私が見たいと言っても連れていってもらえなかった」
それはそうであろう。子爵令嬢と庶民の接点は普通なら無いに等しい。そもそも貴族に生まれた婦女子はあまり外に出してもらえないのがこの世界では普通なのだ。
「ジン君のおかげ」
そう言いながらはしゃいでいる……ように見える。
端から見ればお忍びの貴族令嬢とそのお付きに見えるだろう。礼子はどう見えるかわからないが。
「あ、あれは、なに?」
露店が珍しいのか、指差して仁に尋ねるエルザ。
「あれは串焼きだよ。ポトロックでも売ってただろ?」
「遠くから見ただけ。ミーネや爺は買ってくれなかった」
まあ、貴族令嬢が食べるものではないと判断されたのだろう。
「食べたいか?」
と仁が聞けば、目を輝かせて頷くエルザ。仁はわかったよ、と言って、
「礼子、串焼き2本買ってきてくれるか?」
と頼んだ。仁の財布の紐は礼子が握っているのだ。
はい、と返事した礼子は串焼きの店へ。そしてすぐに2本を手にして帰ってきた。
その1本をエルザに渡し、もう1本は自分で食べる仁。レストランの昼食はお上品すぎて物足りなかったのだ。
「あー、ポトロックの方が味は好みだったな」
食べながらそんな感想を呟く仁。一方のエルザはお上品に一口ずつ食べている。2人とも歩きながらだ。
「でもおいしい。それにこんな食べ方は初めて」
歩きながら串焼きを食べてるエルザを見たら乳母のミーネから怒鳴られそうだ、と思う仁であるが、一方でエルザが喜んでるからいいか、とも思う。
そんな時、エルザの足元に突き出された足があった。串焼きに夢中だったエルザはその足を踏みつけてしまう。
「いてえ!」
足の持ち主が大声を上げた。仁と同い年くらいの男で、いかにも柄が悪そうである。
「おいおいお嬢さん、どこ見て歩いてるんだよぉ?」
身長はエルザより頭1つ以上大きい。そんなチンピラが上から見下ろしながら凄んでいるのだが、
「ごめんなさい。足を踏んだのは悪かった。あやまる」
いつもの口調で詫びるエルザだった。そんなエルザの態度に男はカチンと来たらしく、
「おうおう、謝って終わりかい? お嬢さんよぅ」
「ほかに何をすればいいの?」
エルザはマイペースである。
「足の骨が折れたかも知れねえ。治療費もらおうか」
だがその言葉を受けてエルザが、
「それなら 癒し(フェルハイレ) を掛けてあげる。怪我を見せて」
と言ったものだから男は慌てて、
「い、いや、金をくれれば自分で治療院へ行くからよ。おう、そっちの小さい兄ちゃん、お前付き人だろ? お嬢様の不始末をどうしてくれるんだよ?」
と仁へ矛先を向けた。
ここらが潮時か、と仁は、
「エルザ、もう行こうか。こいつはたかりと言って、わざと足を踏ませて金をせびる輩だよ」
そう教える。だがたかりと言われた男は怒った。
「ふざけんな! 誰がたかりだよ!」
そう叫んで仁に殴りかかったのである。が。
「バリア」
「いてえ!」
その拳は仁の手前30センチで止まっていた。仁の腕輪の機能である物理防御だ。礼子の攻撃(50パーセントくらい)をも防ぐ障壁、ただの人間に破れるわけもない。
「おい、もう止めとけ。今度は本当に怪我をするぞ」
そう言った仁をにらみ付け、
「お、憶えてやがれ!」
そんな捨てゼリフを残し、チンピラは姿を消したのであった。
「な、こんな事があるから、爺やさんも乳母のミーネさんも、エルザをこういうところに連れてこないんだよ」
エルザに説明する仁。
「ああいう手合いはどこにでもいるんだ。だからもう帰ろうか」
エルザの事を考え、一旦侯爵邸に帰ろうと提案する仁。だがエルザは、
「ジン君からもらった指輪があれば平気。だからもう少しでいいから見て回りたい」
と言う。仁ももう少しだぞ、と言って、辺りを見回す。さきほどの 諍(いさか) いのせいか、人がいない。
まあ適当に歩き廻るか、と決めて、仁は礼子とエルザを連れて大きな通りへと歩き出した。
大通りの両側は商店が多かった。
つるしの既製服を売る店、生活道具を売る店、食材を売る店。
仁はその食材の中に、見なれた物を見つけた。
「これって……ジャガイモか?」
1つ手にとって見る。色と言い形と言い、どう見てもジャガイモである。こっそり 分析(アナライズ) してみたが間違いなくジャガイモと同じだった。
「お、兄ちゃん、買うかい?」
店の親爺さんがそう聞いてきたので、一山買い込む仁。
「はいよ、トポポ一山で50トールだ」
意外と安かった。
入れていく袋がなかったので、それも売ってもらい、合わせて70トール払う。
「ジン君、それ、……食べるの?」
嬉しそうな顔の仁を見て、エルザが心配そうに尋ねた。
「ああ、そうさ。今夜、台所借りてちょっとやってみよう」
「それ、……私の思い違いでなければ、『 悪魔の芋(デビル・バルブ) 』?」
「そんな名前が付いてるのか? これは正真正銘の食用芋だぞ」
「私はぜったい食べない」
なぜか恐がって、仁から距離を取るエルザ。その様子を見て、仁は礼子に袋を手渡した。
それでようやくエルザは仁に近づいて来たのだった。
それから、安物アクセサリーの店や、護身用の武器を売る店なども覗いてみた。
エルザは細身の短剣に少し興味を持ったようだった。が、仁がこっそり 分析(アナライズ) してみると、見かけだけの粗悪品だった。
それで仁はエルザを引っ張って店から出たのである。外でそれを言うと、
「そうなの? 母様がああいう短剣を持っていたからちょっと興味があった」
と言ったのでそれを聞いた仁は、機会があったら作ってやろうか、などと思うのであった。
* * *
「すこし、疲れた」
大通り中程にある広場、そこに点在するベンチにエルザは座っている。大分歩いたので無理はない。
露店で買ってきたシトランジュースを飲み終えたエルザに向かって、
「じゃあ、そろそろ帰るか」
仁がそう言うと、エルザも頷いた。日が傾いて風も冷たくなってきたので頃合いだ。
「エルザ、寒くないか?」
「ん。大丈夫」
「でも風が冷たくなってきたからな、俺ので悪いけどこれを肩から掛けておけ」
そう言って自分の上着をエルザの肩に羽織らせた。
「ありがと。……あったかい」
「風邪引かれたらミーネさんと爺やさんに殺されそうだからな」
そう言うとエルザは笑い、礼子は『お父さまは私がお守りいたします』と言った。
テンプレなチンピラに絡まれることもなく、一行は大通りを貴族街へ向けて歩いていった。