軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-16 教会にて

冷蔵庫が仁の作だと知ったラインハルトは、

「ジン、いつこれを作ったんだ? この街に来たことは無いって言ってただろう? そうすると別の街でということになるが……」

あまり嘘を重ねると抜き差しならなくなりそうだったので、仁は正直に話すことにした。

「えーとな、ブルーランドで、だ」

「ブルーランドか! そこはこの先通る予定だ! ジンはブルーランドには行ったことがあったんだな!」

そこで仁は、町中には入った事は無い、と説明した。城壁の外しか知らない、と。

「ふうん、でもそうするとだ、どうやってブルーランドに行ったんだい?」

前回、ポトロックでの事件を推理したラインハルトに下手な隠し立ては出来ないと思い、

「……ブルーランド郊外に 転移門(ワープゲート) の出口があったんだよ」

「ほほう、そうすると、ブルーランドへ行けば、もしかしてジンの家に行けるということかい?」

来た、と仁は思った。いつかはこういう日が来ると思っていた。

「 転移門(ワープゲート) には人を選ぶ結界があると言うことだったが、調整可能なのかな?」

ずんずんと鋭い質問を投げかけてくるラインハルト。仁は、『崑崙』が上手いこと開発出来ていることを祈るばかり。

「うーん、そのへんは試してみないとわからないが、多分俺と一緒なら何とかなると思う」

今はそう答えておくことにする。

ラインハルトも、それでとりあえず納得したようで、次へ行こう、と外へ出て行ったのである。

一行は馬車に乗り、大通りへ。中央通りは石畳で舗装されていたので埃っぽさが少ないようだ。

「この通りも魔導大戦以前からのものさ。『硬化』と『強化』が掛けられているからこれだけ長持ちしているんだな」

鉄の輪をはめた馬車が走っても傷まない石畳、確かに魔法で強化されているようだ。

そしてその中央通りの先にあるのは。

「あれがこの国最古の教会だ」

盛んではないとのことではあったが、やはり無くなることはないのが宗教である。

その教会は全て石造りで、仁はいつかTVで見た世界遺産の教会を思い出していた。

「中は自由に拝観できるんだ」

そう言ってラインハルトは馬車を停めさせ、仁を手招きした。教会と言うより観光名所的なものになっているようだ。

「見てもらいたい物もあるしな」

入り口で幾ばくかの喜捨をして、門をくぐる。幅5メートル、高さ10メートルはあるアーチ状の門。

中に入れば顔が映りそうなくらいに磨かれた床、彫刻や壁画が施された壁。天井のところどころには色ガラスで出来た明かりとりが。

「はあ、すごいものだな」

「私も初めて。興味深い」

仁とエルザはそれぞれに感想を短く口にする。

「だろう? あの色ガラス一つ取っても、今の技術じゃ再現できないんだ」

ラインハルトが指差す先にあるのは花をかたどったと思われるステンドグラスが。

「魔導大戦のせいか?」

「そうだ。忌むべきは戦争、だな」

それについては仁も同感である。この世界は魔導大戦のために文化・文明が足踏みどころか後退してしまっているのだ。

長い廊下を進むことしばし、一行は奥の間、礼拝堂に着いた。

「ほら、あれを見てくれ」

ラインハルトは天井に描かれた絵の一つを指差した。

「!」

仁は驚愕の目を見開いた。そこに描かれているのは、大きな丸の回りを回る小さな丸。そしてその小さな丸の回りを更に小さな丸が回っている図。

すなわち恒星と惑星、衛星の図である。

「君にはこれが何かわかるかい?」

問われた仁はゆっくりと口を開く。

「……太陽と、この世界、そして……月、だろう」

その答えを聞いたラインハルトも驚愕する。

「ジン! 君は初めてここを訪れたんだったよな? にもかかわらず、歴代の研究者がようやく出した結論をどうして知っているんだ!?」

ラインハルトの大声に、他の観光客がいぶかしげな視線を送ってきた。それに気が付いたエルザは、

「ライ兄、声が大きい。その話は別の場所でしたほうがいい」

そうたしなめた。ラインハルトも納得し、その場をはなれることにしたのである。

* * *

ちょうど昼時だったので、近くのレストランに入った。折良く個室も空いていたのでそちらに席を取る。

「さて、ジン、さっきの質問の答えを聞かせてくれ!」

息せき切ってそう尋ねてくるラインハルトに仁は、

「その前に1つだけ聞かせてほしい。……さっき言った俺の考え方は、異端なのか?」

これは大事なことであった。かつて地球でも、天動説を否定し、地動説を唱えた人々……コペルニクスやガリレオといった名前を仁は思い出していた。

「うん? 別に、そんなことはないぞ?」

だが、ラインハルトの返事は仁の予想外だった。

地面が丸い、という事は船に乗る者ならすぐに納得した、と言った。また、なぜ四季があるのか、という事についても納得のいく説明が出来る、とも。

確かに、この世界の水平線は丸く見えた。仁は多分地球よりも小さい惑星なんだろうと思っていたのである。

「まあ、世界は平らだ、という者もいる、といったところか」

丸く見えるのは目の迷いだ、と言う説もあるという。

どっちでも俺達の生活には関係ないよ、と言う者が大半だけどな、と締めくくる。

「で、ジン、君の方の答えは?」

別に異端で無ければあまり心配する事は無い。肩の力を抜く仁。最悪、ここから礼子と共に逃げ出す事も考えていたのだから。

「あー、先生からそう教わったんだよ」

微妙な線であるが、嘘ではない。学校の先生から習ったわけであるから。

「先生が誰から教わったかは聞いていない」

だが、ラインハルトとエルザは仁の思惑通りに誤解してくれた。

「ふーむ、君の師匠はすごい人だったんだな」

「ほんと。その説は、ショウロ皇国でもここ10年くらいで広まったというのに」

説自体はもっと昔からあったらしいが、この図を見ていろいろな現象を説明することが出来ることに気が付いた学者がいたそうだ。まあ大したものではある。

「失礼致します、お食事をお持ちしました」

その時、料理が運ばれてきたので、話は一旦置いて昼食となった。

鳥の胸肉のソテー、魚の香草焼き、肉のステーキ。飲み物は軽い果実酒。

それぞれ鳥、魚、肉、果実の種類は仁にはわからなかったがそれなりに美味かった。

デザートにはシトラン。エルザはシトランが大好きなようで、個室なのをいいことにラインハルトの分までもらって食べていた。

「あー、エルザ、俺のも食べるか?」

「いいの?」

嬉しそうな顔で尋ねてくるエルザに、仁は肯いて、

「礼子の分もいいよ」

怪しまれないように礼子の分も、少量ではあるが注文していたのである。

結局全員のシトランを1人で食べたエルザは満足そうだった。

「さてジン、実はこの後、僕は外交官として最後に挨拶回りをしてこないといけないんだが」

食事を終えた後にラインハルトがそう言った。

「どうする? 侯爵邸へ戻るか、それともこのままエルザと回るか」

その提案に仁は疑問を憶え、エルザは挨拶回りしなくていいのか、と聞くと、

「ああ。エルザは非公式だから」

と言われた仁は、

「それじゃあ、エルザの判断に任せる」

と答えた。そう言われたエルザの答えは、

「私は、ジン君と一緒に見て回りたい」

であった。