軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  008 山の幸

その後、アドリアナとクルルはお昼を食べに村へと戻った。

「難しい問題ね……」

昼食を村長宅で食べながら、アドリアナはぶつぶつと呟いていた。

「アドちゃん、どうしたの? 美味しくなかった?」

そんな彼女に、2児の母バイセが心配そうな顔で問いかけた。

「あ、ええと、ごめんなさい。ちょっと考えごとしていたもので」

慌てて説明するアドリアナ。

「それならいいけど……何か悩みごと?」

「いえ、ちょっと……」

そこでアドリアナは、今は村長のメウトもいるので、聞くには絶好の機会かと思い直した。

「あの、さっき、クルルちゃんから聞いたんですけど、この村って、女の人が海に出るのを禁じているんですって?」

すると、メウトは少し厳粛な顔になって答えてくれた。

「そうなのだよ。昔から言われていてね。海の神様は男の神様だといわれていてね」

「あ、女が海へ出ると水底へ引きずり込もうとするんですか?」

シュウキから聞かされた昔話のパターンを思い出しながらアドリアナは質問する。だがメウトは笑ってそれを否定した。

「はは、違うよ。海の神様は気が多いらしくて、海に出た女に目移りするもので、焼き餅焼きの奥さんの神様が怒って海を荒らすんだ」

「そ、そうなんですか」

思っていたのと違うので、アドリアナは面食らった。

「もちろん、信じてはいないよ。だがね、昔からの言い伝えというのは馬鹿にできなくてね」

「……漁師の人たちの中にはまだ、本気で信じている人もいるようですからね」

バイセも補足説明をしてくれた。

「実際には、危険な海に女子供を出したくない、という考えから出た優しい嘘ではないかと思うんだがね。だが、村長としては村の者が掟を破ることを良しとできないんだよ」

「……わかりました」

信仰や迷信というものは根が深く、それを撤回させることはやっかいだということをシュウキからも聞いていたし、これまで旅してきた経験からも多少は感じていたアドリアナだったが、こうして実際の例を目の当たりにして、考えさせられてしまった。

(お父さまの話だと、このレナード王国はまだましだって言ってたわね……他の国はもっと酷いのかしら)

少し考え込むアドリアナであった。

* * *

迷信について考え込んだアドリアナであったが、魔導具『 魔導式物質抽出装置(マテリアルエクストラクター) 』のその後が気になり始め、再び海へ行くことにした。

今度はクルルだけでなく、マルルも一緒に付いてきた。

「わあ、大きな船ですね」

マルルもクルル同様の感想を漏らす。

「乗ってみたいけど、駄目ですね……」

「で、でも、中を見るくらいは大丈夫じゃない? 海に浮かんでいないし」

フォローするアドリアナ。クルルだって中を見ているのだから。

「あ、そうですね」

ということで、クルル同様、マルルにも中を案内してあげたアドリアナであった。

それが済んだ後、3箇所に備え付けた『 魔導式物質抽出装置(マテリアルエクストラクター) 』を確認する。

「うんうん、結構溜まったわね」

合計で、クロムが50グラム、ニッケルが40グラムほど手に入った。

「このまま明日までおいておけば十分な量が手に入りそう」

その日の分を手にしたアドリアナはほくほく顔である。

「明日には必要量確保できそうだわ」

いろいろお世話になったこの村を発つ前に、何か贈り物を残していきたいと考えるアドリアナであった。

「おや、クルルにマルル。そっちの子は?」

「あ、デミおじさん。この人はアド、旅をしているんだって」

海岸から戻る途中、幾人かとすれ違う。

そういえば、あまり村人の姿を見ないな、と思ったアドリアナがそのことを聞いてみると、

「昼間は山へ行くか海へ出るかしているからなのよ」

と、マルルが教えてくれた。

このあたりは土地が痩せていて、普通の作物は育たないとも教えてもらった。

そのため、山と海から生活の 糧(かて) を得ているというわけである。

山からは 薪(たきぎ) や木の実、山菜を。海からはもちろん魚を得ているわけだ。

「だったら斧とか鉈、鎌なんかも必要な道具よね」

「まあそうね。そういった物を作ったり直したりしているんで、お祖父ちゃんは忙しいわけよ」

クルルが自慢げに説明してくれた。

「だから昼間、あまり人を見ないのね」

「そう。ついでに言うと、この季節は山で沢山木の実が採れるのよ」

クラリーといって紫色に熟す実だそうだ。

「甘酸っぱくて美味しいの。放っておくと、鳥や動物に採られちゃうから、見つけ次第集めて、食べきれない分は干したりジャムにしたりするのよ」

「なるほどね」

「……とはいっても、お砂糖は高いから、ジャムはたくさん作れないけどね」

こうした会話から、アドリアナは一般庶民の生活についての知識を深めていく。

これまでは、『 賢者(マグス) 』シュウキと一緒であったから、こうした生活感のある人々との交流は、いろいろとためになることが多かった。

後年、彼女が魔導具開発に力を入れるようになる、その原点はこのあたりにあったのかもしれない。

* * *

翌日には、クロムとニッケルの総量はそれぞれクロム150グラム、ニッケル110グラムとなった。

「これだけあればかなり作れるわね」

アドリアナは鍛冶屋の親方、ファイトスの下へと向かった。

クルルとマルルは、朝食後2人で山へ行ったので今日は1人である。

「おお、お嬢ちゃん、また『ステンレス』かい?」

「ええ。いろいろお世話になったお礼に、幾つか作って残していきたいんです」

それを聞いたファイトスは少し寂しそうな顔をした。

「そうか……お嬢ちゃんは旅人だったな。……いいぞ、好きなだけ鉄を使いな」

「ありがとうございます!」

さっそくアドリアナは、手持ちの素材でできる限りのステンレス鋼を作り始めた。

18ー8、つまりクロム18パーセント、ニッケル8パーセント。

クロムの手持ちが150グラムなので、これに合わせ、ニッケルは66.7グラム。鉄は616.7グラム必要だ。

こういった計算を暗算でこなし、アドリアナは合金化していった。

「何度見ても不思議だなあ」

淡く輝く魔法陣が浮かび上がり、鉄塊が形を変えていく様は、工学魔法を見慣れていない者には摩訶不思議に見えるのだ。

「『 変形(フォーミング) 』」

「おおお!?」

本気を出したアドリアナは、一度の変形で、10本のフォークを作り上げていた。

それぞれは細い『ランナー』で繋がっているので、切り離して出来上がり。

それを計3回。およそ750グラムを使い、30本のフォークが完成。

無駄が出ないのも魔法工学の特徴である。

「しっかし、お嬢ちゃんみたいな魔導士がぞろぞろ出てきたら、われわれは失業だな」

感慨深そうな顔をするファイトス。

それに対し、アドリアナは、

「それは当分ないと思います。普通の魔導士は生活用具を作ろうとは思わないでしょうから」

と言った。ファイトスはそれを聞いてはっとする。

「それもそうか。金になることから、だろうな。……だとするとお嬢ちゃんは特別か」

「さあ、どうなんでしょう」

少し寂しげに笑うアドリアナ。己が変わっていることは承知しているがゆえの笑みである。

「これで30本。確か、村の人口は172人って言ってたから、200本くらいは作りたいな……」

このペースではまだ数日掛かりそうなので、アドリアナはさらに『 魔導式物質抽出装置(マテリアルエクストラクター) 』を増やすことにした。

幸い、作るための素材はたっぷりと持って来ているので大丈夫。

「それじゃあ親方さん、また明日」

「おお、気を付けてな」

アドリアナはその足で船へと向かい、5基の『 魔導式物質抽出装置(マテリアルエクストラクター) 』を作り上げ、Fー003に命じ、離れた海中にセットさせたのである。

* * *

「あ、アドちゃん、お帰りなさい」

お昼、アドリアナが村長宅へ戻ると、クルルとマルルも帰っていて、クラリーの実をはじめ、山で採ってきた沢山の木の実を見せてもらったのであった。