軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-28 残された謎

「……ということが日記に書かれていた」

仁は机の上にそっと日記を戻しながら、静かな声で告げた。

「……この島に、『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィは眠っているんだね」

サキがぽつりと呟くように声を発した。

「シュウキさん、幸せだったのかな」

ハンナも少し涙ぐみながら言う。

「……ん、きっと、幸せ、だった。アドリアナ、さんも」

エルザが涙声でそれに答える。

「お祖父さま、そしてお母さまのことを、また一つ知ることができました」

心なしか礼子の声も、いつもよりトーンが低い。

そして仁が口を開く。

「『 賢者(マグス) 』シュウキの終焉の地がここだったことはわかった。だけど、先代の足跡はここで途切れたわけだな……」

少しだけ残念そうな仁の声である。

「ここは、このままそっとしておこう」

そして、結論を告げる。

「日記の内容は礼子を通じて老君が記録してくれているだろうからな。ここは我々がどうこうしていい場所じゃない」

そして仁は 踵(きびす) を返して、その部屋を後にした。エルザ、ハンナ、サキもそれに続く。

最後まで残っていた礼子は、もう一度ちらりと日記の表紙を眺め、

「お祖父さま、お母さま」

と、誰にも聞こえないような小声で呟くと、仁たちの後を追ったのである。

* * *

仁たちは来たルートを逆に辿って島の外へと出た。仁は2体の 自動人形(オートマタ) に向き直り、

「さて、それじゃあ君たちには引き続きこの島の守護を頼むよ」

と言った。

「はい、お任せ下さい」

「はい、それが私たちの存在理由ですから」

肯(うべな) う2体。

「ああ、それから……」

「あっ、ジン様、エルザ様!」

そこへエドガーとアアルがやって来た。

「ぬ!?」

身構える2体。仁はそれを押し止める。

「ああ、待て待て。あれは味方だ」

「……そうだったのですか」

エドガーはエルザが、アアルは仁とラインハルトが作った 自動人形(オートマタ) である。

その固有魔力パターンは、必然的に仁が作った 自動人形(オートマタ) とは異なる。

つまり、先代の魔力パターンとは異なるので、2体の 自動人形(オートマタ) はエドガーとアアルを当面敵性認定したのであった。

「済まない、放っておいて」

仁は謝った。

その様に、エルザ、ハンナ、サキは苦笑を浮かべたのである。

* * *

「ああ、そうだ。君たちの身体を診てあげよう」

『ファルコン4』まで仁たちを見送るために付いてきた2体に向かって仁が声を掛けた。

「中へお入り」

素直に仁の言うことを聞いた2体。

「そこに横になって」

補助シートを使い、簡易的な作業台にする。支援用でもあるので、ファルコンには 自動人形(オートマタ) やゴーレムを整備するための簡易設備も付いているのだ。

「『 停止せよ(ビホールト) 』」

2体を停止させた仁は、身体各所のチェックに入った。

今回はハンナやサキを待たせているので、本気の全力で、だ。

「骨格は炭素鋼だが、微量元素が添加されているな。……バナジウム、か。もう少しクロムとニッケルを添加してグレードアップしよう」

「筋肉組織の付き方は……礼子と同じ、か。先代の技術は、もうこの頃には完成されていたんだなあ」

「 魔法筋肉(マジカルマッスル) は蓬莱島標準にしておこう。併せて魔導神経も新規に更新しておく、と」

「 制御核(コントロールコア) も内容をコピーして新品と取り替えよう」

「 魔素変換器(エーテルコンバーター) は……ああ、これはまだ初期型だったか。後期型にしておこうか。 魔力反応炉(マギリアクター) にまではしなくていいだろう」

「何かあった時のために 魔素通信機(マナカム) は内蔵した方がいいな……使い方も転写しておくか」

「外被は思ったより劣化していないな……地下にいて、用のないときは停止していたんだろうな。……でも一応張り替えておこう」

「服も劣化が少ないが、蓬莱島標準に交換だ。古い服は先代が作ったんだろうから、大事に保管させるようにしよう」

「整備はやっぱり互いに互いをしていたんだろうかな。それに、用のないときは停止していたんだろうな。だから劣化が少ないんだろう」

こうした独り言を呟きながらも、その手は一瞬たりとも止まらない。

「す、すごい、ね」

「……やっぱり、ジン兄は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 」

「おにーちゃん、すっごーい!」

傍(はた) で見ている者たちにもその凄まじさはよくわかる。30分で仁は2体の整備を終了した。

「これで、よし。……『 起動せよ(ウエイクアップ) 』」

起き上がる2体。

「どうだ、調子は?」

「はい、上々です」

「はい、とてもいい調子です」

そして2体揃って『ありがとうございました』と頭を下げた。

「 魔素通信機(マナカム) を内蔵したから、何かあったら連絡をしてくれ。こちらは『老君』という者が対応すると思う」

「はい、承りました」

「最後に、俺の拠点からここへ来ることのできる 転移門(ワープゲート) を備え付けたいんだが」

「はい、どうぞ」

「ええ、どこにでも」

2体は即答する。

「ありがとう。じゃあ、場所はこのあたりにするかな」

航空機が着陸できる広さもある。

仁は、平地部の外れにある大きな岩山を候補地に決めた。

「それじゃあ、あとで作業部隊を送り込むから」

職人(スミス) たちも仁の魔力パターンを受け継いでいるから、敵対されることはない。

こうして、仁の『 賢者(マグス) 』の足跡を辿る旅は終わりを迎えたのである。

* * *

「ああ、そうだ。この島に名前はあるのか?」

立ち去り際に仁は、ファルコン4へのタラップから振り返って尋ねた。

「いえ、特には」

「それなら、『ツェツィ島』というのはどうだろう? で、あの岬は『マグス岬』として」

「いいと思います」

「はい、承りました」

2体ともそれを諒承した。

「で、君たちにも名前を付けようと思う。男性型には『ナギ』、女性型には『ナミ』」

『 凪(なぎ) 』と『波』。海に因んだ名前である。日本神話のイザナギ、イザナミも少し意識したようで、仁としては破格のネーミングかもしれない。

「ありがとうございます。私は『ナギ』ですね」

「ありがとうございます。私は『ナミ』ですね」

2体、『ナギ』と『ナミ』が仁に向かって頭を下げた。

そして、今度こそ仁はファルコン4に乗り込む。

「『ナギ』お兄さま、『ナミ』お姉さま、また、いつか」

一番最後尾の礼子が2体に向かって挨拶をした。

「うむ、礼子、それではな」

「ええ、礼子、またね」

そして礼子が乗り込むと、ファルコン4は空へと飛び立った。

ツェツィ島を見下ろす。岬とツェツィ島の間にあったという小島は影も形もない。1000年という月日で浸食され、海中に没してしまったのであろう。

「……いろいろと収穫があったな」

「ん、 賢者(マグス) の生涯について、これではっきりした」

仁の呟きに同意するエルザ。だが仁はまだ少し難しい顔をしている。

「でも、まだ謎はのこっているけどな……」

「くふ、そうだね。先代のその後のことがわからないものね」

察したサキが仁の言葉を先取りする。

「……申し訳もございません、お父さま」

「ん? どうした?」

いきなり礼子が謝ったので面食らう仁。

「わたくしの記憶がないばかりに……」

礼子は、1000年間、後継者である仁を捜し続けた揚げ句にぼろぼろになって一度壊れてしまったのである。

その際、頭脳に当たる 制御核(コントロールコア) も破損してしまい、仁はできる限りの復元を試みたのだが、最も負担の多かった『異世界検索』と『時空間を超えての召喚』についての部分は復元できず、失われた技術となっている。

その失われた部分に、先代の最期についての記憶もあったらしく、礼子は先代の最期について、覚えていないのである。

ただ『全てを託せる誰かをなんとかして見つけておくれ』という遺言を守った、その事実だけが残っているのみ。

「考えてみると、先代が蓬莱島へ渡ったのも船のはずなんだよな」

その船は、1000年という歳月の間に朽ちたのか、はたまた波に流されたのか、影も形も残っていない。

「先代がどうして蓬莱島に引き籠もったのか、その理由もはっきりしないんだよなあ……」

知りたいと仁は思う、同じ轍を踏まないためにも。

「おにーちゃん、その『先代』さんは、蓬莱島に何も残していないの?」

ハンナが不思議そうに尋ねた。

「ああ、そういえば、先代の書斎、この世界に来て初めて呼ばれたとき以来、訪れていないな……」

「え?」

それもまた、少々不可思議な話。

「魔法に関する情報は引き継いだけれど、それ以外の記録はあの部屋に残っているかもしれないな」

「というか、そう考えるのが自然」

「だよなあ……」

エルザにも言われてしまった。

「帰ったら調べてみるか」

先代の書斎と居室はできるだけそのままに残してあり、ときたま清掃のためにゴーレムメイドが入るくらいのはずだ。

「お父さま、それがよろしいかと」

『コンロン3』に乗り換えた仁一行は真っ直ぐ蓬莱島を目指したのである。

青い海、青い空。空と海の間を行く『コンロン3』。

世界は平穏であった。