軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-24 誰の幸せか

「でね、今年はカリスがたくさん採れたの」

春の山菜採りの話を仁にするハンナ。

カイナ村では、半ば行楽として、山菜採りを行う。

ここ数年、ハンナたち女の子は、バーバラが引率して山菜採りに行っているとのこと。

「ちゃんとね、お弁当食べる前には手を洗う、っていう習慣も根付いたんだよ」

「ああ、それはよかった!」

仁が広めた習慣。外から帰ったら、また、食事の前には手を洗うこと。

それだけで、病気になる可能性がぐんと下がるのである。

ポンプや温泉のあるカイナ村であるから、根付くのも早かったようだ。

「カリスって、あのオレンジ色の百合に似た花?」

「うん、そうだよ。エルザおねーちゃん。食べられるのは若芽だけど」

今、仁の家の2階で、仁、エルザ、ハンナはお喋りをしていた。というか、ハンナが仁たちにいろいろと話して聞かせているのだ。

喉が渇くと、炭酸水を飲む。

微炭酸なので、口当たりもよく、砂糖などを入れていないので虫歯にもなりにくい。

とはいうものの、カイナ村には虫歯の者はいない。口内に虫歯菌がいないのかな、と仁は思っており、歯周病に気を付ければいいな、と考えてもいる。

閑話休題。

成長したといってもまだお子様。

午後8時を回った頃、喋り疲れたハンナはこっくりこっくりと舟を漕ぎ出した。

仁は、そんなハンナをそっと抱きかかえると、布団へと運んでいった。

マーサ宅へ送り帰そうかとも思ったが、翌日目が覚めてから拗ねられるのも辛いので、仁の家の客間である。

ハンナを寝かしてきた仁は、エルザの隣に腰を下ろした。

気の早い虫の声が微かに聞こえてくる、静かな夜。

「ジン兄、式を早めたのは、なぜ?」

ぽそりと呟くように、エルザが尋ねてきた。

「秋になると、例の『長周期惑星』が近付いて来るだろう? 忙しくなりそうだしな」

仁も小声で答える。

「私なら、その後でも構わない、けど……」

控えめなエルザの言葉。だが、仁は首を横に振った。

「いや、あのな、『俺、このナントカが終わったら結婚するんだ』っていうセリフって、それを実行できないジンクスみたいなものが俺の世界にあるんだよ」

「そう、なの?」

「そうなんだ。……だから、世界会議が終わった、この平穏な時に、式を挙げたいんだよ」

そう言いながら仁は、エルザの肩を抱き寄せた。

少し身体を硬くしながらも、エルザは嫌がらず、その華奢な肩を仁の肩にもたせかけた。

「そういうことなら、わかる」

少し微笑みを浮かべながら、エルザが言った。

仁はそんなエルザの肩を少し強く抱き、

「きっと、幸せにするから」

と言ったのである。

だが。

「ううん、それじゃあ、駄目」

エルザは首を横に振った。

「エ、エルザ?」

何か気に障ったのだろうか、と、仁は内心首を傾げた。

そんな仁の顔を見つめ、エルザが告げる。

「幸せになるのは、ジン兄も。『二人して』幸せに、なろう?」

「ああ、そうだな。エルザの、言うとおりだ」

カイナ村を照らす月、ユニー。そのそばには、1等星以上に明るく光を放つ星——『長周期惑星』が輝いていた。

* * *

翌朝。

日の出と共に、ハンナは目覚めた。

「あれ? ここ……」

隣を見ると、エルザが寝息を立てていた。それで昨晩の記憶が蘇る。

「おにーちゃんのお家に泊まったんだっけ」

そして一つ大きく伸びをすると、そっと布団を抜け出す。

仁の家の居住区間は2階なので、階段をそっと下り、自分の家へ。

「おやハンナ、お早う。お帰り」

マーサは既に起きていた。

「おばあちゃん、ただいま。お早うございます」

ハンナも、少し大人びた朝の挨拶をする。家族とはいえ、長幼の礼は尽くすものなのである。

「顔、洗うかい?」

「うん!」

ほど近い井戸端へ行き、マーサがポンプを漕ぐ。出て来た水でハンナは口を濯ぎ、顔を洗った。

そこへ、仁も起きてきた。

「マーサさん、お早うございます。ハンナ、お早う」

「お早うございます、おにーちゃん!」

「ジン、お早う」

マーサがついでとばかりにポンプを漕いでやり、仁はありがたくそれを受けた。

「マーサさん、ありがとうございます」

「いいさいいさ。ジンが作ってくれたポンプなんだからね!」

明るく笑うマーサ。今日もいい天気になりそうである。

そこへエルザも起きてきた。

「おやエルザちゃん、お早う」

「お早うございます、エルザおねーちゃん」

「お早うございます」

エルザの分は仁がポンプを漕いでやった、

「ありがと、ジン兄」

口を濯ぎ、顔を洗ってさっぱりとした顔のエルザ。

「今日も、いい天気」

「ああ、そうだな」

仁も微笑みながら頷いたのである。

* * *

朝食後。

「ハンナ、また俺たちと小旅行に行くかい?」

仁はハンナに声を掛けた。『 賢者(マグス) 』の足跡を辿る旅である。

もちろん、ハンナが断るはずもない。

「うん、行く! いいでしょ、おばあちゃん?」

マーサは笑って頷いた。

「ああ、いいともさ。ジン、エルザちゃん、ハンナをよろしく頼むよ」

「ええ、もちろん」

「はい、お任せ下さい」

こうして、ハンナは仁たちと共に『 賢者(マグス) 』の足跡を辿る旅に同行することになった。

バロウとベーレはそのまま休暇である。

「楽しみ!」

上機嫌のハンナであった。