軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-22 円満退職

翌朝、仁はバロウとベーレを伴い、『コンロン3』でカイナ村へ向かった。

「うわあ、やっぱりすごいです!」

「床が窓なんて! すてきです!」

久しぶりに空を飛んだので、2人のテンションは高かった。

『コンロン3』は時速300キロを出し、カイナ村には3時間で到着。時差3時間と合わせ、時刻は午後2時である。

昼食は船内で済ませたので、一行は二堂城に入った。

「ご主人様、ハンナ様がお見えです」

バトラーBが仁にそう告げた。仁は大急ぎで出迎える。

「おにーちゃん! お帰りなさい!」

仁の姿を見つけ、飛び付いてくるハンナ。

「ああ、ただいま」

仁はそんなハンナを受け止め、違和感を感じた。

「あれ? ハンナ、背が伸びたか?」

よく見てみると、礼子より小さかったはずのハンナの背が、少し大きくなっていた。礼子が130センチであるから、今のハンナは135センチくらいであろうか。

考えてみればハンナは10歳、伸び盛りである。

「うーん、おばあちゃんにも言われた。服が小さくなったから、新しくしなきゃ、って」

「やっぱりか……」

七夕の時は、浴衣だったのでおはしょりをしたため、気が付かなかった仁である。いや、勘が鈍いだけかもしれないが。

仁は反省し、あらためてハンナをまじまじと見つめた。

「……おにーちゃん?」

不思議そうなハンナ。

「ああ、ごめん。いや、ハンナにはどんな服が似合うかと思ってさ」

誤魔化す仁であった。

そこへ、エルザもやってくる。

「あ、エルザおねーちゃん、お帰りなさい!」

「ただいま、ハンナちゃん」

更にバロウとベーレが息せき切って飛んできた。

「も、申し訳もございません!」

「お、遅れてすみません!」

ベーレなどは、滑って転びそうになり、危うくバロウがそれを助けたのである。

「慌てなくていいから」

仁も苦笑しながらそう言わざるを得なかった。

「す、すみません……」

ぺこぺこと謝るベーレの頭をぽんぽん、と叩いて、仁は笑いかける。

「今日は休日にしていいから、好きなことをしていていいよ」

「あ、ありがとうございます……」

休みをもらえたのに、元気がないベーレを、バロウがやや強引に引っ張って行くのを、苦笑混じりに見つめる仁であった。

「おにーちゃん、今日はお願いがあるの」

珍しいハンナの『お願い』。仁は内容が気になった。

「何だい? 言ってごらん」

「うん。あのね、お城の図書室にあるご本、みんな読んじゃったから、新しいご本を増やして欲しいの」

「え?」

あれから少しずつ増やして、今では300冊はある蔵書を、ハンナは皆読んでしまった、と言ったのである。

「ほんとか……すごいな、ハンナは」

中には、現代日本の中学生レベルの内容もあったはずである。それを全部読破してしまったというハンナ。

先代『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、アドリアナの若い頃にそっくりだというハンナ。

(ハンナは……アドリアナの再来になり得るのか?)

最近、そんなことを考えるようになった仁である。

でも、答えは一つ。『否』。

ハンナには魔法の才能がなかったのである。

(でも、だからこそ、ハンナの才能を伸ばしてやれたら)

『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』にはなれなくとも、『 賢者(マグス) 』にはなれるのではないか。

そこまで考えて、仁は頭を振った。

ハンナの未来はハンナのものだ。仁がどうこうするものではない。

(俺はただ、ハンナが真っ直ぐ未来へと歩いて行けるように見守ってあげればいいんだ)

無邪気に笑いかけるハンナの顔を見つめながら、仁はそんなことを思っていたのである。

* * *

「おにーちゃん、これ、美味しいね!」

この日のおやつは『ラスク』である。

パンを2度焼きしたもので、2度目にアイシング(卵白と粉砂糖を混ぜたもの)を塗り、焼いたもの。

水分をほとんど含まないので日持ちがし、さっくりとした食感が特徴だ。

ノーマルな砂糖味と、メープル風味とを用意した。

もちろん、5色ゴーレムメイドのペリドたち苦心の作だ。

「ジン兄、この味、好き」

エルザはメープル風味が気に入ったようだ。

「ジン様、ご一緒して本当によかったんですかあ……」

「き、恐縮です……」

バロウとベーレも一緒に誘って食べている。

「みんなで食べた方が美味しいものね!」

いつの間にか、抜けた乳歯の後に永久歯が生えてきていたハンナは、美味しそうにラスクを食べている。

飲み物はクゥヘ。

ココアによく似たこの飲み物は、甘いラスクとマッチしていた。

「そうだ、ちょうどいい機会だから聞くけど」

バロウとベーレに向き直った仁。

「2人は、まだロイザートの『屋敷』で働きたいかい?」

「え?」

「いやな、留守にすることが多いし、なんだか申し訳なくてな。もし他の仕事をしたいなら……いや、使用人よりももっといい仕事をした方がいいじゃないかと思ってるんだ」

仁としては、 二十歳前(はたちまえ) の2人を、執事や侍女として縛り付けることに済まなさを感じていたのである。

だが、2人はそうは受け取らなかったようだ。

「く、くび、ですか……!?」

「お、お役に、た、たてませんでしたか……?」

今にも泣き出しそうな2人に気づいた仁は、慌てて否定する。

「違う違う、首にするんじゃない。言うなれば『円満退職』かな?」

「……『円満退職』……?」

「そうさ。2人が何か商売とかしたいなら応援する。退職金も2人合わせて100万トール出そう」

「……厄介払いですかあ……?」

しかし、落ち込んでいるベーレは悪い方へ悪い方へと受け取ってしまう。

「ああもう、違うって言ってるだろう?」

「……先生、というのは?」

エルザが横から助言をしてくれた。

「先生?」

「そう。2人はもう読み書き計算、礼儀作法に料理、家事などを一通りこなせる」

「ああ、なるほどな」

「……僕らが、先生ですか……」

ようやく、バロウも実感が湧いてきたらしい。

「それに限らず、やりたいことをしていいんだぞ」

仁は柔らかな笑みを浮かべながら2人に告げたのである。