軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-21 閑話59 留守中の出来事

「何から報告したらいいのか……」

「いろいろあったんですよ!」

夕食後、バロウとベーレが報告のためにやって来て、交互にまくし立てていた。

ご近所の貴族方から何度もお茶会の誘いが来たこと。

高名な商人が、仁を名指しで何かを作ってもらいに訪れたこと。

中でも特筆すべきことは、ショウロ皇国女皇帝陛下が、『ジン君、まだ帰って来ないの?』と聞きに来たことだという(その3日後、世界会議が開かれたわけだが)。

「あと、そうそう、面白い事件があったんです」

「事件?」

「はい。ロイザートの町を守る警備隊詰め所前に、2人の男が裸で縛られ、捨てられていたそうで。調べてみると悪名高い2人組の泥棒だったそうです」

「へえ……」

一通り頷きながら、最後の事件は、絶対に老君絡みだろうと仁は思った。

それで、居室に引き上げた後、 魔素通信機(マナカム) で尋ねてみると、思った通りの答えが返ってきた。

『はい、 御主人様(マイロード) 。世界会議でお忙しい 御主人様(マイロード) を煩わせるほどのこともない些事と判断し、報告を控えておりました。いけませんでしたでしょうか』

「いや、それはいい。今からでいいから、話を聞かせてくれ」

『わかりました』

以下、老君がまとめ、再構成したものである。

* * *

深夜。

『屋敷』に近付く2つの人影があった。

「アニキ、この屋敷がそうだな?」

「そうだ。聞くところによると、新興貴族で、留守がちだということだ。今夜も留守なことは聞き込みでわかっている」

「いるのは執事と侍女だけ、ってことだったな?」

「そうともよ。狙い目だぜ」

2人は最近売り出し中の泥棒であった。

しかし、この『屋敷』を監視している蓬莱島の頭脳、老君はとうの昔に2人のことを探知しており、その会話のほとんどを聞き取っていた。

(『ふむ。かなりの腕を持つ泥棒ですね。無力化して捕まえるのは容易いですが、後学のためにもう少し様子を見ておきましょうか』)

「(塀は高いが、乗り越えられない程じゃない。いくぞ)」

「(おう)」

2人は先に 鈎(かぎ) 爪の付いた縄を塀に向かって投げ上げ、先が引っ掛かったことを確認すると、それを伝ってするすると登り始めた。

(『確かに、借り物の屋敷ですから、塀の周りに結界は張ってありませんね。そこを突かれましたか』)

身軽な動きで塀を乗り越えた2人は、庭に誰もいないことを確認すると、芝生の上に音も立てずに飛び降りた。

「(よし、ここまでは上々だ。横に回るぞ)」

屋敷の横には非常口が備えてあった、2人はそこを目指したのである。

「(ここだここだ。セブ、頼むぜ)」

「(任せておいてくれ)」

セブと呼ばれた男は、扉の鍵穴部に掌を添えた。

「『 分離(セパレーション) 』」

(『なんと、工学魔法ですか。確かに、それなら鍵そのものを分断することができますね』)

老君は感心している。

(『以前、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) たる巨大ゴーレムも工学魔法を攻撃に使ったといいますし、対魔法防御の方法をいくつか追加した方が良さそうですね』)

そんな老君の思惑も知らず、屋敷に入り込む2人。

「(見ろ、あの壁に掛かった絵。誰の肖像画かはしらんが、金になりそうじゃねえか)」

「(でも、でかすぎて持ち帰るのは難しいぜ)」

「(だな。だが、このぶんならお宝はまだまだ期待できるぜ)」

2人にしか聞こえないような小声で会話しているつもりなのだろうが、『屋敷』に仕掛けられた監視装置……『 魔導監視眼(マジックアイ) 』と『 魔導傍聴耳(マジックイヤー) 』の性能は人間のそれを優に上回る。

老君に行動を逐一監視されているとも知らずに、2人は『屋敷』内をゆっくりと進んでいった。

「(ここが居間だ。大したものがあるとも思えないが、覗いておくか)」

2人は1階の南側にある居間へと足を踏み入れた。

そんな2人の前に、黒々とした影が立ち塞がる。

「ひっ!」

「(馬鹿、声を出すな。置物だ)」

「(ああ、びっくりしたぜ……)」

彼等の目の前にあったのは、甲冑を着けた騎士の置物。貴族の家には大抵置いてあるものだ。

だが、これは置物ではない。いざという時は動き出して曲者に対することができるゴーレムである。

(『まだ捕まえるのは早いですね。もう少しやり方を観察するとしましょうか』)

「(客間の方へ行くぞ。そっちの方が金目のものがあるはずだ)」

「(2階だっけか? 大丈夫かな?)」

「(お前の工学魔法と俺の体術があれば大抵のことは何とかなるさ)」

そんな会話を小声で交わし、2人はバロウとベーレが眠る部屋を通り過ぎ、階段へと向かったのである。

「(階段もふわふわしてるな)」

「(足音が響かねえから好都合だぜ)」

そして2人は2階に辿り着く。

「(ええと、どっちだっけかな?)」

片方は仁とエルザの居室と寝室である。

「(確か西側だったはず)」

迷った揚げ句、間違った方、つまり仁とエルザの居室方面へ向かってしまう2人であった。

(『まあ、まだいいでしょう。むしろ、警備の厚い方へ来てくれたのですから』)

当然ながら、仁たちの居室であるから、他の部屋の3倍以上の警備体制が敷かれているのだ。

「(……この部屋は、どうだ?)」

鍵は掛かっていない。

そっと扉を開けて中を覗いてみる。真っ暗だ。

「(おい、明かりだ)」

「(わかった。……『 明かり(ライト) 』)」

ぼんやりと周囲が見える程度の明かりを灯すセブ。

「(ほう……?)」

扉を入ったところが、1メートル四方くらいの大きさでちょうど玄関のようになっており、その先は50センチほど床が高くなっていた。

「(面白え部屋だな)」

掘りごたつを置けるように、床を上げて畳敷きにした部屋なのだが、泥棒2人にはわかるはずもない。

「(だけど何もめぼしいものはないぜ?)」

「(だな。隣の部屋を覗いてみるか)」

その判断は正解であった。もしも土足で畳の上に乗ろうとしたなら、問答無用で麻痺させられ、足の骨は砕かれていただろうから。

2人が今度覗き込んだのはエルザの居室。

こちらは、寝室が畳敷きなだけで、居室は普通に靴を履いて歩ける。

「(……いい匂いがするな)」

「(アニキ、こっちは客間じゃなかったんじゃ?)」

「(どうもそうらしい。ここは女主人の部屋らしい。と、いうことはドレスやらアクセサリーやらの金目のものがあるということだ)」

その判断は正しい。但し、その大半は蓬莱島素材なので、闇市場で値がつけられるかどうかは甚だ疑問である。

(『エルザ様のものに手を出したら即処刑、ですね』)

物騒なことを考えながら、老君は2人の観察を続けていた。

「(はあ、いい匂いだな。香水か?)」

匂いの正体は、エルザの好きなシトラン系のアロマキャンドルの残り香である。

シトランの皮から、『 抽出(エクストラクション) 』で香油成分を取りだし、蜜蝋に混ぜたものだ。

蜜蝋とシトランの香油を混ぜ合わせるのにも工学魔法『 添加(アッド) 』と『 均質化(ホモゲナイズ) 』を使っているので、おいそれと人前に出せるものではなかった。

実際には、似た香りのするハーブを使うことが多いのだが、仁はそこまでは知らないので、実際のシトランの皮を使っているため、揮発性がやや乏しかった。

ゆえに、香りが長く残るのである。……前回アロマキャンドルを使ってから1ヵ月以上経っているのに、侵入者がその香りに気が付くほどに。

ということで、試作のアロマキャンドルはエルザの部屋でのみ使われているというわけである。

「(貴族の女ってのはいい匂いがするんだな)」

一つ間違えたら変態と思われそうな感想を抱きつつ、2人はエルザの居室を物色している。

今のところ、手は出さずに、観察だけで、だが。

(『そろそろ頃合いでしょうか。エルザ様のお部屋を汚されでもしたら、 御主人様(マイロード) からお叱りを受けてしまいますし。……『 麻痺(パラライズ) 』』)

「(こっちは寝室みたいだな。貴重品があるかもしれね……え?)」

「(貴族の女の寝室ってヤツを一度見てみたかっ……?)」

その思考を最後に、泥棒2人は静かに意識を失った。

* * *

『……と、いうわけです。奴らが通った場所は、全て念入りに『 消臭(デオドラント) 』、『 浄化(クリーンアップ) 』、『 殺菌(ステリリゼイション) 』しておきました』

老君の報告は終わった。

「なるほど。で、気絶した泥棒は裸にして簀巻きにし、警備隊詰め所前に放りだしておいた、と」

『はい。もちろん、『屋敷』に忍び込んだ記憶は『 強制忘却(アムネジア) 』で消去しておきました』

「え?」

『 御主人様(マイロード) のお部屋とエルザ様のお部屋に忍び込んだのです、当然の処置です』

「ま、まあ、いい。ご苦労だった」

『それから、彼等の『泥棒の知識』も吸い上げてきましたので、以降の警備に役立てたいと思います』

誇らしげな老君であった。