作品タイトル不明
29-18 遊覧
「余興とは……」
昼食後の休憩後、各国からの客たちは、3つのグループに分かれた。
それぞれ仁、エルザ、マキナが案内役となって崑崙島をそれぞれのやり方で楽しむことになる。
因みに、仁のグループにはショウロ皇国女皇帝、エゲレア王国第3王子アーネスト、クライン王国第3王女リースヒェン、クライン王国近衛女性騎士グロリア、ショウロ皇国近衛女性騎士フローラ、エゲレア王国宰相ボイド、魔法相ケリヒドーレ、 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) のリアンナとケイト、その他。
エルザのグループにはエリアス王国のフィレンツィアーノ侯爵、ショウロ皇国魔法技術相デガウズ、ショウロ皇国中佐フリッツ他数名。
マキナのグループにはセルロア国王セザール、フランツ国王ロターロ、クライン王国第2王子アーサーなどが参加している。
「では、こちらへどうぞ」
エルザに案内されたグループは、『コンロン3』へと乗り込んだ。
空から崑崙島周辺を遊覧するのである。
「足元に気をつけて下さい」
マキナは『シャーク10』へと人々を導いている。
「もう少しお待ち下さい。……ああ、来ました」
「な、何だ、あれは!」
「馬もなしに……」
「……ジン君、あれ、『自動車』よね!? でも、大きい……」
仁が呼び寄せたのは『自動車』。こういう時のため、つまり島内の移動用に新たに作ったいわば『バス』である。
(役に立つとはな……)
30人乗りの大型車で、上部は石英ガラス張りなので見晴らしがいい。最も参加人数の多い仁のグループだからちょうどいい。
運転するのはアンである。
「さあ行きますよ」
「発車オーライ」
運転手であるアンが言うのには違和感を感じる仁であったが、自分が言うのはあまり気が進まなかったので口を噤んだのである。
滑らかに発進する『バス』。
「お、おお、動いた!」
「揺れがほとんど感じられませんな」
「ジンの作った馬車と同じだね。アクティブゴーレムアームサスペンション、だっけ?」
教えた覚えはない名称をアーネスト王子が口にしたので、仁も少々驚いた。
「えーと、そうです。ゴーレムの腕を応用して、地面の凹凸による揺れを緩和しています」
「よくわからないけど、凄い技術よね……」
女皇帝も感心している。
窓の外を景色が流れるように後ろへと飛んでいく。およそ時速50キロを出していた。
道路は簡易舗装(工学魔法で整地、『 接着(ボンディング) 』)されているので、これだけの速度が出せるのだ。
「どこへ向かっているのかしら?」
との問いに、仁は答える。
「崑崙島の観光ポイント巡りです」
その言葉どおり、バスは小高い丘、いや小山の頂に登り着いた。
「ここは展望台です。崑崙島の様子がわかるかと思います」
バスを止めると、全員が外に出た。そして、眺めを堪能する。
「おお、これはいい眺めだ!」
「海が見えていますな」
「……あれ? ジン、あそこに見える建物は?」
アーネストが指差したのは仁の『館』。崑崙島に建てたダミーの研究所である。
「あれが研究所で、自分の拠点です」
「へえ。……見せてもらってもいい?」
「ええ、他の人がそれでよければ……」
アーネストの問いに、仁が言いかけると、
「是非見てみたいわ!」
「そうですな、『崑崙君』の拠点ともなれば、名所どころではない」
「 妾(わらわ) も興味があるのう」
と、反対する者が誰一人いないばかりか、皆見たがる始末。
仁は苦笑しつつ、承諾する。
「面白いかどうか、保証はしませんよ……」
再びバスに乗り込み、一行は出発した。
* * *
フィレンツィアーノ侯爵らを乗せた『コンロン3』は優美な軌道を描き、崑崙島の中心に聳える崑崙山の周りを巡っていた。
「これは素晴らしい眺めね……」
侯爵が感極まったような声を漏らす。
「ううむ、これほどまでに揺れないとは、熱気球とは根本的に違う。ジン殿の技術力はいかほどのものなのか……」
デガウズ魔法技術相も別の意味で感心していた。
「おや、あれは……」
フリッツが、眼下に何かを見つけたようだ。
それは、崑崙島の西方にある小山。その麓を、何かが動いている。
「あれは、ジン兄が作った、大型自動車。ジン兄はあれでお客様を案内している、はず」
「なるほど! 大型自動車か! 2〜30人は乗れそうだな」
軍人のフリッツは、兵を輸送することを考えているのかもしれない、と、エルザは少し苦々しく思う。
元に戻った兄は好きだが、軍人としての考え方には、時々付いて行けないことがあるのだ。
しかしそれも仕方のないこと、と割り切ろうとは思う、だが、頭でわかっていても、心はなかなかいうことを聞かないものなのだ。
「フリッツ殿はいつも軍事的なものの考え方をするのですね」
そんな時、女性の声がエルザの物思いを破った。フィレンツィアーノ侯爵だ。
「はい、自分は軍人ですので」
他国の侯爵ということで、フリッツはいつもより固い言葉で返事をした。
「それはわかっています。ですが、今回の会議は世界平和を目指し、実現へ向けて努力するための集まり。思うのは仕方ないですが、あまり無粋な言葉を口にするものではありませんよ」
「……はい、確かに仰る通りですね」
恐縮し、頭を掻くフリッツ。
エルザは、自分が言いたいことを代わって告げてくれた侯爵に、心の中でお礼を言うのだった。
* * *
「お、お、お」
「思った以上に揺れますな」
『シャーク10』は最大定員8人、操縦士のマリン201とマキナを除き、乗り合わせているのは6名。
「気をつけて下さい。この船は客船ではないのですから」
マキナの言葉に、セルロア王セザールが頷く。
「うむ、確かに。だが、建国記念式典で見かけてから、ずっと気になっておったのだよ」
「しかし、本当に木造船なのだな」
アーサー王子が感心したような声で言う。
『シャーク』シリーズは、外側に軽銀の微粒子を混ぜた漆を塗って仕上げているため、やや褐色がかった銀色をしている。そのため、遠目には金属製にも見えるのだ。
「そうですよ。ジンは、木造船の可能性を見せたいと言っていました」
「なるほど、木造船の可能性、か。なかなか深い言葉だな」
セザールが感心する。
「本当に、この速度で海上を疾駆できるとは夢にも思いませんでしたからなあ」
とは、フランツ国王ロターロのセリフである。
「さあ、もうすぐ崑崙島の北西側です。先刻、 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) を迎え撃った海域が近いですよ」
「ほほう、興味深い」
「少し緊張しますな」
とはいうものの、こういう事態を見越し、『シャーク11』から『シャーク13』までの3隻が当該海域にまだ残っているのである。
「ほら、見えてきました」
速度を落とす『シャーク10』。
彼等の目の前には、 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) の 骸(むくろ) が浮かんでいた。
「こ、これは……」
「近くで見ると不気味ですな」
初めて目にする魔物に、少々引き気味の乗客たちであった。
(やはり、『崑崙君』の力は脅威だ……)
幾人かの首脳陣はそんなことを思ったという。