軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-14 謝罪と人形

仁とラインハルトは昼食を食べるのも忘れ、蒸留器作りをしていた。

見かねた礼子が強引に2人を食堂へ引きずって行ったほどである。

大急ぎで昼食を済ませた2人は、走って工房へ戻り、

「ここをこうして、と」

「うん、これで試してみようか」

蒸留器製作に取り組む。少しでも効率を上げ、少しでも短い時間に多くの水を取り出せるように、と工夫、改良、改善。

「礼子、銅を取ってくれ」

「はい、お父さま」

「レーコちゃんは優秀だなあ、ジンが羨ましいよ!」

礼子の助手っぷりにもラインハルトは感激し、益々夢中になる。

仁も、研究心旺盛なラインハルトと一緒なので、妥協しないで突き詰めていく。

試作が2台、3台と作られ、没になる。

結局その日はラインハルトと街を見に行く事は無く、蒸留器作りで終わってしまった。その代わりに高性能な蒸留器が出来たのではあるが。

「…………」

と、いうわけで午後は一緒にボルジアの街を巡ろうと楽しみにしていたエルザはすっかりおかんむりであった。

「エ、エルザ、悪かった」

「しらない」

「ぐっ」

肩を叩こうとしたラインハルトの鳩尾にエルザの肘鉄が綺麗に入った。

「……大丈夫か?」

見ていた仁が心配してラインハルトに声を掛けるが、

「………………」

身体をくの字に折り曲げ、だらだらと脂汗を流すラインハルトは青い顔のまま返事をしない。

仁が 治療(キュア) をかけてやろうかと思いついた頃、ようやく呼吸が出来るようになったようで、

「ぐ、う、効いた……、あれが昔ながらのエルザだ……」

そう言ったのが聞こえたのか、エルザは一瞬だけこっちを見、仁と目が合うと、さっと身を翻して駆けて行ってしまったのである。

「ラインハルト、やっぱり我々が悪いと思うぞ」

「まあ……なあ。理由はどうあれ、約束を破ったのは我々だからなあ」

「謝りに行かないと」

仁がそう言うもラインハルトは、

「う、うむ」

などと言うばかりで歯切れが悪い。おかしいので仁が問いただすと、ようやくラインハルトはそのわけを口にした。

「怒ってるエルザは聞く耳持たないんだよ……」

というのである。

そんなことないだろ、と仁が言うと、ラインハルトはさっきの肘鉄見ただろ、と答える。

「あいつは昔から怒ると手が付けられないんだよ」

そこまで知ってるなら約束破らなければいいのに、と思う仁であるが、その仁だって、ラインハルトが後にしようと言っても製作を止めたかどうかは疑わしい。

「でも、ジンが行けばどうかはわからんが」

「何で俺が?」

ラインハルトがそんなことを言う理由がわからない仁に、君といるときのあいつはちょっと違って見えたから、と返すラインハルト。

「それにしたってなんて言って謝ればいいんだ……」

まだ痛がっているラインハルトを尻目に仁は考える。

エルザの年頃の女の子の事はよくわからないものの、施設にいた際、年少の女の子との約束を図らずも破らざるを得なくなり、謝ったときは……

「よし、やってみよう。ラインハルト、綺麗な生地と糸、それに堅い木材を用意してくれ」

「え? うん、わかった」

そう言ってラインハルトはフィレンツィアーノ侯爵邸の侍女や執事に頼んで回り、短時間で仁の言った材料を揃えた。

「これで何か作るのかい?」

「まあ、見ていてくれ」

と、仁は工学魔法を振るう。

まずは木材に 成形(シェーピング) をかけて成形、部品を作る。それらを 接合(ジョイント) で繋ぎ合わせ、形を整えた。

表面処理(サフ・トリートメント) で色を漂白、滑らかに整える。

次に糸の中から黒糸を取り出し、 結束(バインド) で束ね、 接合(ジョイント) でくっつけた。

「ほう、これは……」

そして礼子には、綺麗な生地の中から1枚選り抜いて渡し、何やら指示を与えた。自分は自分で、また別の色の生地を使って見なれない形に縫い上げていった。

「最後は、足袋か」

白い生地を捜し出し、足袋の形に 成形(シェーピング) 。

仕上げとして目には黒い石を入れ、唇には紅を差して完成。

そう、仁は日本人形を作っていたのである。

「着物をこう着せて、っと」

お雛様が欲しいと泣く年少の子供たちのために。和服の構造から博多人形、京人形、市松人形まで、ざっと勉強しておいたのが役に立った。

「変わった人形だな。その服はどこかの民族衣装なのかい?」

感心するラインハルト。

「それに、どことなくレーコ嬢に似ているなあ」

黒目黒髪、おかっぱ。もう少し髪が長ければ礼子そっくり、と言えなくもない。

「まあ、な。昔見た人形に似せて作ってみたんだ」

材料は違うが、一応日本人形、それも市松人形っぽい人形である。着物が洋風の生地ではあるが、意外と似合っていた。

仁は完成したばかりのその人形を持ってエルザの部屋へ行こうと……して、

「ラインハルト、エルザの部屋ってどこだ?」

ということで、ラインハルト、仁、礼子の3人は連れ立ってエルザの部屋へと向かった。

まずはラインハルトがドアをノックする。

「はい?」

顔を見せたのは乳母のミーネ。

「ラインハルト様、何があったんですか? お嬢様ったら、駆け込んできて、そのままお部屋に閉じこもりっきりで……私がいくらお呼びしてもドアを開けて下さらないのですよ」

心配そうにそう言う。そして仁の姿を見つけると、

「ジン様、まさかあなた様が……」

まだミーネには多少のわだかまりが残っているようだ。

すると礼子が仁の前に出、

「言いがかりは止めて下さい。お父さまをそれ以上侮辱するとただではおきませんよ」

「ひいっ」

さすがに礼子の実力を目の当たりにしていたミーネの顔が青ざめた。

「やめろ、ミーネ」

「よせ、礼子」

ミーネと礼子の2人をラインハルトと仁がそれぞれ 宥(なだ) めて、

「ジン、それじゃあ僕らはここで待っているから、君が行ってみてくれ」

仁はわかった、と肯き、部屋へ。もうミーネは邪魔しなかった。

そして更にその先にあるドアをノック。返事がないのでもう一度。

「エルザ? 仁だけど、開けてくれないか? 謝りたいんだ」

そう言いながらノックすると、少ししてドアがわずかに開いた。そしてぼそっと、

「……なに? ……べつに謝ってほしくなんかない」

とりつく島もないような言い方をするエルザに、仁は人形を差し出す。

「うん、謝るのもそうだけど、これ、お詫びなんだ。受け取ってくれ」

一瞬、きょとん、とした顔でその差し出された人形を見つめたエルザだったが、良く見えないのでもう少しドアを開けた。そしてその顔が少しほころぶ。

「かわいい。……これ、くれるの?」

そろそろと人形に手を伸ばすエルザ。仁はすかさずその人形を押しつけるように手渡し、

「今日はごめんな。明日、きっと埋め合わせするから。な、ラインハルト!」

振り返ってラインハルトに念を押す仁。ラインハルトも大慌てで首を縦に振り、

「あ、ああ。そうとも!」

「な、ラインハルトもああ言ってる。だから機嫌治してくれ。それからその人形、大事にしてくれよな」

そう言って戻ろうとする仁の上着の裾をエルザはつまんで引き止める。

「まって。…………この子の名前は?」

「え? 名前か。うーん、そうだなあ……」

仁義礼智信。咄嗟に仁は信子と言う名を思い浮かべたが、この世界には似合わなそうだったので、

「名前は……ノンだ」

本来ならノンとかノンノンと呼ばれるのはどちらかと言えば『のりこ』の筈だが、仁にネーミングを期待してはいけないし、別に問題はない。

「ノン……ありがとう。……かわいい」

そう言ってノンを抱きしめるエルザを見て、一同胸を撫で下ろしたのであった。