軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-14 交流の場

仁とフリッツが脱衣所に入ると、そこには先客がいた。

なんと、セルロア王国の者たちだ。

「おお、ジン殿、それにフリッツ殿」

護衛のカーク・アットが声を掛けてきた。

かつて、セルロア王国で繰り広げられた国王の交代劇以来だろうか。

「やあ、これは崑崙君ではないか。いいお湯だなあ!」

浴室では、セザールが既に湯船に浸かり、身体を伸ばしていた。

大浴場には浴槽が3つあり、順に湯温が温くなるように設定されている。

熱いお湯は摂氏45度、中間は42度、温いものは38度となっていた。

身体を流した仁はもちろん摂氏45度の浴槽だ。

「おお、ジン殿は熱い湯が好きなのだな!」

他の3人が感心したように言う。因みに、3人とも38度の湯船に入っていた。

「おや、お歴々が」

と言うセリフと共に入ってきたのはクライン王国のアーサー第2王子であった。

更には、エゲレア王国のガルエリ宰相とブルーノ近衛騎士隊副長、それにエリアス王国のゴドファー侯爵。

最後にフランツ王国のロターロ・ド・ラファイエット国王までやって来たではないか。

「部屋の風呂もよかったが、広い風呂は快適だと聞かされてな」

誰かがそんなセリフをいうと、

「まったくもって、同感ですな」

と返す者がいて。

仁としては、こういう『裸の付き合い』をして欲しいと思って作った大浴場が無駄にならなくてよかった、と思えたのである。

先程の諍いのことを話そうかとも思ったが、この場の雰囲気にはそぐわないだろうと、口には出さない仁であった。

「肌あたりが柔らかな湯であるな」

「同感です。これはやはりお湯に何か秘密があるのでは?」

「聞いた話では、地面を掘るとお湯が出てくることがあって、それは場所によって違うという話です」

などという会話を耳にした仁は、会議という重責を終えて、開放感があるからこそこっちにやって来たのかも、などと考えている。

「ジン殿、妹は貴殿に相応しい子だろうか?」

物想いに耽っていた仁に、フリッツが話しかけてきた。

見れば、42度の浴槽に浸かり、顔をこちらに向けている。少々熱そうな表情だ。

「は? どういう意味ですか?」

意味が今一つ掴めず、聞き返す仁。

「い、いや、貴殿はこのような島を所有し、飛行船や熱気球を開発し、素晴らしいゴーレムも多数所有している。その気になれば、大勢の夫人や妾を侍らせることも可能だろうし、もっともっと権力を蓄えることだってできるだろうに、それをしていないから、少々気になったのだ」

「ははあ……」

軍人であるフリッツには、仁の思考が理解しきれないようだ。

それは無理もないかもしれない。仁とて、権力を欲し、世界を手に入れたがるような連中の思考は理解できないのだから。

「エルザはこの上ないパートナーですよ」

仁としてはそれが本音である。

「そう、か。そう言ってもらえると安心できる」

フリッツは柔らかな微笑を浮かべ、

「……熱い!」

と言いながら42度の浴槽を出ていった。

仁もそろそろ温まったので、一度浴槽を出た。

* * *

女性用の浴室も賑やかなことになっていた。

ショウロ皇国女皇帝をはじめ、フィレンツィアーノ侯爵、リースヒェン王女。

グロリアにフローラ、ライラ、 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) のリアンナとケイト、そしてエルザが一緒にお湯に浸かっていた。

「ああ、いいお湯ねえ。疲れが取れるわ」

女皇帝がのんびりした声で呟く。

「なんとなく滑らかなお湯ね。何か秘密があるのかしら?」

フィレンツィアーノ侯爵がエルザに尋ねた。

「いえ、ここのお湯は地下300メートルから引いていまして、そのためか 塩(しお) と重曹を含んでいるの、です」

「塩? ということはしょっぱいの?」

「ごく僅か、です。ですが湯冷めしにくくなるよう、です。それから重曹は肌をつるつるにして、くれます」

「じゅうそう、というのがよくわからないけど、お肌がつるつるになる、というのはいいわね」

「ほんとにね」

年配の女性たちには特に好評なようである。

だが、ライラ・ソリュースは、皇帝陛下や王女、侯爵と一緒なのですっかり萎縮して無言のまま。

そんなライラに、エルザが話しかけた。

「ライラさん、お久しぶり」

「あ、エ、エルザ様、お、お久しぶ……っ」

湯船の中でお辞儀をしたものだから、もろにお湯に顔を突っ込んでしまうライラ。

「緊張しなくて、いい。ここでは、みんな身分はないのと一緒。……ジン兄は裸の付き合い、といっていた」

「あらあ、その言葉、いいわね! さすが崑崙君だわ!」

女皇帝がお湯の中を近付いて来て、エルザに微笑みかけた。ライラは突然のことでまたしても緊張。

「へ、陛下、こんな格好で失礼します!」

だが、女皇帝はやんわりとその発言を 窘(たしな) めた。

「『こんな格好』っていうのはどういう意味かしら? 裸がいけない、というのなら、私も侯爵も王女殿下も失礼なことをしているのかしら?」

「あ、し、失礼しました! そ、そういう意味ではございません!」

お湯の中で青ざめるライラ。そんな彼女を見かねて、リースヒェン王女がその頭を撫でた。

「……殿下?」

「まあ、落ち着いたほうがよいぞ。この『崑崙島』にいるということは、そなたもこの場にいる資格が立派にあるということなのじゃから」

「そ、そうなのですか?」

そこへエルザも助け船を出した。

「そう。ライラさんもお客様。だから、寛いで欲しい」

「あ、ありがとうございます……」

ようやく、ライラも緊張が少し解けたようであった。

そんな彼女を、リアンナとケイトは苦笑混じりに見つめている。

「殿下付きになっても変わらないわね……」

「あれがライラらしくていいのかもね」

その表情は妹を見つめるようなものであった。

一方で、リースヒェン王女はグロリアに話しかけていた。

「グロリア、傷も癒えてよかったのう」

「はい、姫様。これもエルザ殿のおかげです」

「ふふ、そうじゃのう。……ところで、髪を伸ばし始めたのは何か心境の変化があったのか?」

「と……特には……ありませんが?」

否定したグロリアだったが、目が泳いでいる。リースヒェン王女は訳知り顔に頷いた。

「そうかそうか。 妾(わらわ) としては、意中の殿方がおるのかと……」

「めめ、滅相もない!」

ばしゃっ、と水音が立つほどに、狼狽したグロリアはお湯の中で手を振った。

「私は忠誠を国に捧げた騎士です! ゆえに恋愛など滅相もない……!!」

「……それほどわかりやすい反応を返しておいて否定もなにもないと思うがのう……。まあよい、これ以上は聞かぬ」

苦笑するリースヒェン王女であった。

「ねえ、フローラは好きな人っていないのかしら?」

女皇帝は女皇帝で、護衛のフローラに尋ねていたりする。

「いえ、特には……あ、でも、フリッツ中佐はなかなか素敵だな、と……」

「え」

「ええ!?」

エルザとグロリアがほぼ同時に声を上げた。それを聞いて女皇帝は微笑みを浮かべた。

「あらあら、中佐は人気があるようね」

「エ、エルザ殿、彼女は?」

グロリアが小声でエルザに尋ねてきた。護衛同士は自己紹介などをしていないので、顔は知っていても名前は知らない、という場合が往々にしてあるのだ。

「フローラ・ヘケラート・フォン・メランテさん。ヨルゲンス・ヘケラート・フォン・パドック子爵の長女で、ショウロ皇国近衛女性騎士。ライ兄……ラインハルト男爵の奥さんのベルチェさんのお兄さんのマテウスさんの奥さんのお姉さん」

「……すまん、最後の部分はよくわからなかった」

とはいえ、どういう身分の人かは察しがついたようだ。グロリアと、そう立場が違うものでもない。

「失礼、フローラ殿と仰るか。私はグロリア・オールスタット。クライン王国の近衛女性騎士隊副隊長を務めている」

「あ、これはご丁寧に。私はフローラ・ヘケラート。ショウロ皇国近衛女性騎士だ」

どうぞよろしく、と、2人の女性騎士はお湯の中で挨拶を交わした。

「2人とも硬いのう。お湯の中ではもっと砕けた方がよいぞ?」

「そうよ、フローラ? もっとリラックスしなさい?」

2人の上司、女皇帝と王女から声を掛けられ、2人は少し面食らう。

「く、砕けたと言われてもどうすればいいのか……」

「こ、これが私の地でありますからして……」

戸惑う2人を見て、フィレンツィアーノ侯爵は微笑む。

「まあまあ、2人とも若いわね。臨機応変、という言葉も知らないと、この先苦労することもあるかもね」

「そ、そういうものでしょうか?」

「……任務のためには、そうした対応も必要と言うことですね!」

どうにも融通が利かない2人を見て、女皇帝と王女は密かに溜息を漏らしたのであった。