軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-06 公衆衛生

「さて、この『圧力鍋』は一つの例です」

仁は午後の議題の中心である『 魔力素(マナ) スタンド』へと話を戻していく。

「こういった生活に役立つ魔導具を普及させるためにも、『 魔力素(マナ) スタンド』が必要になるだろうと考えました」

「ふむ、一ついいかね?」

挙手をしたのはセルロア王国のラタント第一技術省長官である。

「 魔力素(マナ) スタンド、というのは、 魔力素(マナ) を販売するのが目的だと思うが、対価はどうやって決めるのかね?」

供給した 魔力素(マナ) の量をどうやって知るのか、という技術的な問題があるだろう、というのである。

列席者のうち、技術的な素養のあるものは頷いている。

だが、そこは検討済み。

「ええとですね、こうした一般向けの魔導具には、『 魔力素蓄石(マナセル) 』を使うといいのでは、と考えてます」

「『 魔力素蓄石(マナセル) 』?」

「はい、こういうものです」

仁は圧力鍋の取っ手部分に仕込まれた『 魔力素蓄石(マナセル) 』を取り出して見せた。直径1センチ、高さ1センチほどの円柱状である。

「これが 魔力素蓄石(マナセル) です。これが空になったら 魔力素(マナ) スタンドで 魔力素(マナ) を充填することになります」

「ふむ、なるほど。そうすると、今後 魔力素(マナ) を必要とする魔導具は、全てそれと同じ大きさの 魔力貯蔵庫(マナタンク) を使えるようにすれば、共通化できるというわけか」

ショウロ皇国のデガウズ魔法技術相は大きく頷いた。

「そのとおりです。 魔力素(マナ) の消費が大きいなら、これを何個も使えばいいわけです」

仁がイメージしたのは乾電池である。1本、2本、4本など使う機器があったので、同じようにすればいいと思ったのだ。

「それでも賄いきれないようなもの……ゴーレムなどはまた別に規格を決めたらどうか、と思っています」

つまりはそれが午後の議題である。

「そうすると、それ1個の充填で幾ら、という風に価格を決めるわけであるな?」

フランツ王国のアーダルク宰相が確認するように質問してきた。

「はい。自分の草案としましては、そういった『 魔力素(マナ) スタンド』は国営にするべきかと思っております。価格の安定化という意味で」

専売公社、というイメージである。

「とはいえ、いずれは民営化するという前提で、ですが」

自由化しての価格競争というわけだ。

「なるほど、面白いテーマであるな」

アーダルク宰相は頷いた。

仁が開発、というか改良した『 魔力素補給機(マナサーバー) 』を使った『 魔力素(マナ) スタンド』。

そこでは、『 魔力素蓄石(マナセル) 』1個あたり定額で 魔力素(マナ) を充填する。

こうして、一般人もこれまで以上に魔導具を使えるようにしていく。

これにより、魔導具が普及するので、需要が増え、また、生活水準の向上も見込める、と、こういうわけだ。

「上手くいけば、魅力的な政策だね」

クライン王国のアーサー王子は乗り気である。

「最初のうちは国が管理するというのは安全性も踏まえてのことだろうからね」

そう、この『 魔力素補給機(マナサーバー) 』を持ち去って一儲け企もうという者が出てこないとは限らないのである。

とはいえ、実際に設置される『 魔力素補給機(マナサーバー) 』はとても人力で動かせる大きさにはならない予定だが。

「そこで働く者の一部は民間から募ることで雇用が発生する、というわけだね」

アーサー王子は察しがいい。

「ジン殿としてはこの圧力鍋に留まらず、いろいろと魔導具を考えているのであろう?」

この質問はエゲレア王国のボイド宰相からである。

「ええ、もちろんです。まず普及させたいのは公衆衛生に関する魔導具ですね」

「公衆衛生?」

「はい。地域全体の健康を守る取り組み、といえばいいでしょうか」

仁が考えていたのは上水と下水の処理である。

アルス世界では、一部の例外を除き、上水は井戸。下水は地下浸透式である。

人口密度の低いアルスであるから、今のところ大きな問題は出ていないが、いずれは破綻するであろうことは間違いない。

先日、『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィの記録にも、赤痢らしき伝染病で全滅した村があったことからも、仁は気にかけていたのである。

地下に染み込んだ汚水は、自然が持つ浄化機能を超えてしまえば、地下水と混じり、それを汚染する。

それは病気の温床となり、伝染病の感染経路ともなりかねないのだ。

「ええと、ここ崑崙島のトイレは皆さんお使いいただけたことと思います」

仁がそう切り出すと、

「おお! あれは素晴らしい!」

「是非に我が国にも!」

との声があちらこちらから巻き起こる。

「はい。あのトイレは、『 消臭(デオドラント) 』『 浄化(クリーンアップ) 』『 分解(デコンポジション) 』『 殺菌(ステリリゼイション) 』という工学魔法を組み合わせております。その発動のための魔力源として……」

「なるほど、『 魔力素蓄石(マナセル) 』を使うのだな」

「そうです。消臭能力がなくなったら取り替えてもらえれば十分ですね」

設定により、 魔力素(マナ) が減ってきた場合に消臭能力が最も早く停止するようにしておけばいいわけだ。

「これは興味深いですな」

ショウロ皇国のデガウズ魔法技術相は身を乗り出してきた。

「後は上水ですね。まずは『 浄化(クリーンアップ) 』と『 殺菌(ステリリゼイション) 』の効果がある魔導具で水を汲む、というようにしたらどうかと思うのですが」

「なるほど」

仁としては蛇口に取り付ける、いわゆる『浄水器』型にしたかったのではあるが。

「翡翠館、でしたかな。ここの水は全部?」

「ええ、そうです。蛇口、といいますが、水の出口にそういった効果を持たせてあります」

「うむむ……」

各国首脳陣は考え込む。そんな中、フランツ王国のアーダルク宰相が質問してきた。

「仮に、井戸に毒を流されても浄化できますか?」

「できます」

即答する仁。

「もちろん、ちゃんと魔導具が働いていての話です。 魔力素(マナ) が切れる前に 魔力素蓄石(マナセル) を交換すれば大丈夫です」

「それは当然ですね」

この回答を聞き、一同更に考え込む。そんな中、

「……問題になるのは導入の費用だと思います」

と、エリアス王国のフィレンツィアーノ侯爵が口を開いた。

「有益なのは分かります。ですが、只というわけにもいかないでしょう。購入費用をどうするか、ということですね」

各国間で異なってしまってはそれこそ不満の元にもなる、という。

「ですが、有益なのは間違いないでしょう。これも、王城、貴族、富裕層、一般庶民、と順に浸透させていけばいいのではないでしょうか?」

と、フランツ王国のアーダルク宰相が言う。

それに対して仁の意見はというと。

「それは仕方ないことでしょうね。ですが、これにより、病気が減ります。そして病気は貴賤を問いません」

これにはショウロ皇国女皇帝が反応した。

「そうですね。民衆から病気が発生して、それが国中に蔓延する、という例も聞いたことがあります」

仁は知らなかったが、過去にそういうことがあったらしい。そこで、

「ですので、同時には無理でも、できるだけ短期間で行えたらいいですね」

と、フォローする仁。

「一例ですが、一時的に税を上げ、その分で魔導具を作り普及させ、普及し終えたら元に戻す、というやり方もあります」

「我が国は難しいかな……」

「我が国もですね」

「我が国もだ」

エゲレア王国とクライン王国、そしてフランツ王国は、事情こそ違え、財政難を抱えている。

「でしたらこうすれば……」

それに対する意見が出る。

その光景は、仁が望んでいた世界会議そのものであった。