軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 弐  19 首都カルナグ

2349年になった。

シュウキの弟子たちも成長を遂げ、『 自動人形(オートマタ) 』を独力で作れるまでになった。

「うむ、これで教えることは全て教えた」

ある日シュウキは弟子たちへ向かって満足げに言った。

「……そろそろ私は旅立とうと思う」

「先生!」

「先生!!」

25人の新弟子たちは驚いて叫び、シュウキを引き止めようとした。

が、シュウキの決意は変わらない。

「皆、わかってくれ。私はまだまだ世界を回り、工学魔法を広めたいのだ。……そして、辿り着くべき頂は遙かに遠い」

「……」

結局、25人の新弟子のうち、4人がシュウキに付いてくることになった。

その中にシャトーネはいない。

彼女は町長の一人娘であり、町の外に出すわけにはいかなかったのである。

シュウキがもたらした工学魔法と治癒魔法に感謝する人たちで町外れはごった返していた。

「先生、お名残惜しいです」

シャトーネ、19歳。弟子入りした時は少女だったが、この4年間で女性として成長していた。

「私がいなくなっても精進しなさい。君なら、きっと立派な技術者になれる」

「……はい、頑張ります」

涙で潤んだ目を指で拭い、シャトーネは無理して微笑み、シュウキを見送った。

「 賢者(マグス) 様、お元気で。いつでもまたお越し下さい」

町長センテイムも名残惜しそうに別れを告げた。

「 賢者(マグス) 様、いろいろとありがとうございました」

「 賢者(マグス) 様、お達者で」

ユルガノの町の人たちは、『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィ一行が見えなくなるまで見送っていた。

「……」

アドリアナは、泣きそうな顔を見られたくないと、馬車の中で毛布を被って突っ伏していた。

そこへシュウキがやってくる。

「アド、泣いているのかい?」

「……ううん、泣いてないもん」

強がったアドリアナの返事を微笑ましく思いながら、シュウキは毛布の上からアドリアナの背を撫でた。

「済まないな。私の我が儘で、一つ所に定住できなくて」

すると、アドリアナはがばっとばかりに起き上がって、シュウキに向かって叫ぶように言った。

「ううん、お父さんは悪くないもん! お父さんは、魔法工学の完成っていう目的があって、一所懸命やってる。あたしは、そんなお父さんが大好き。だから謝ったりしないで」

シュウキはそんな娘を抱きしめた。

「……ありがとうな、アド」

「うん」

アドリアナは真っ直ぐに育ってくれている。シュウキはそれを知って嬉しかった。

* * *

シュウキ一行が向かったのは、街道を馬車で5日のところにある、首都カルナグである。

『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィの噂を聞いた時の国王、ガルドレイク・ドラゴル・レナードから招待を受けていたのである。

「王様かあ……興味ないなあ」

そんなセリフを言う娘に、シュウキも苦笑せざるを得ない。良くも悪くも『我が道を往く』性格に育ったようだ。

レナード王国は治安がよく、賊も現れなければ魔獣の類もいない。一行は予定どおり5日後、首都カルナグに着いた。

「城壁とかないんだなあ」

シュウキは、今まで見てきた他国の首都と比べ、ここの首都は開放的であると思った。

町を囲む城壁がないのである。

もちろん、町の中心部にある王城は高く丈夫そうな塀で囲まれてはいるが、町の中と外を分ける壁というものが存在しない。

それは、今もこの町が膨張を続けているためでもあった。

「ようこそ、『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィ様とそのご一行様」

シュウキ一行がカルナグまであと1キロくらいの所まで近付いた時、騎士の一隊が彼等を出迎えたのである。

「我が王より命じられまして、ここにてお待ち申し上げておりました」

隊長格の男は、馬から下りて一行に礼をした。部下もそれに倣う。

こうして騎士隊に守られ、一行はカルナグ入りしたのであった。

* * *

「貴公が『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィ殿か」

「は、左様でございます」

翌日、シュウキは国王ガルドレイク・ドラゴル・レナードに謁見していた。

「聞くところによると貴公は我が国において、魔法工学なる学問を広め、ゴーレムや 自動人形(オートマタ) なる魔法人形の作り方を教えているとか」

「そのとおりでございます」

「まことに以て大儀である。余もできうる限りの支援を行うゆえ、このカルナグでも弟子をとり、導いてやって欲しい」

「光栄の至りにございます」

……と、そんなやり取りがあって、シュウキはカルナグに何度目かの拠点を置くことになった。

王が支援しているのだから、すぐにその名は広まり、講義を聞きに来る者が出始めた。

そんなある日。

カルナグでの弟子も順調に増え、間もなくきちんとしたカリキュラムを作ろうかという段階になった、そんな頃。

「……転移、魔法陣?」

初めて聞く単語がシュウキたちの耳に入ってきた。

その情報をもたらしたのはカルナグでできた弟子の1人、ラノス・シーコー。

「はい。いつの頃かわからないほど古い時代から伝わっているものということなんです」

「ふうむ」

シュウキは昔、妻アドリアナの実家、ティエラ一族が『まれびと』の子孫だと聞いたことを思いだした。

『まれびと』は高い文化水準を誇っていたという。

「その転移魔法陣とやらも『まれびと』が遺したものかもしれないな」

「先生?」

シュウキの独り言を聞きつけたか、ラノスが訝しげな視線を送った。

「ああ、いや、すまん。ちょっと考えごとをしていた。……で、その魔法陣はどこに行けば見られるのだね?」

* * *

ラノスの案内で、シュウキと高弟3名、それにアドリアナは古い『教会』にやって来ていた。

「こちらです」

お布施をして教会に入り、奥へ。

一番奥の部屋……礼拝堂の更に奥の部屋にそれはあった。

天井一杯に描かれた魔法陣。床全面に刻まれた魔法陣。

「……これはすごい」

シュウキは目を輝かせた。

「だが……ここが不完全だな。このままだと転移に時間が掛かる」

魔法制御の流れ(マギシークエンス) を解析に掛かるシュウキ。アドリアナも一緒に考え込む。

「ねえお父さん、これって、離れた場所と場所をトンネルでつなげるものかな?」

「ん? ……ああ、そうだな」

(昔、アドが言っていたっけ。世界……宇宙は、もっと大きな空間に浮かんでいる泡のようなものだって。となると、この魔法陣は、上位か下位の空間にトンネルを通して、時間のロスなく2点間を繋げるものなんだろうな)

『 賢者(マグス) 』の知識は伊達ではなく、魔法が使えないとはいえ、シュウキ・ツェツィはまさしくこの世界で一番の魔法技術者であった。

「そうか! 少ない 魔力素(マナ) でも動かせるように、何度も繰り返し循環させて力を溜めているんだね、お父さん!」

そして愛娘アドリアナ・バルボラ・ツェツィもまた、父に迫る魔法技術者になりつつあった。