作品タイトル不明
過去篇 弐 18 限界
3日かけてゴーレムは完成した。
「この上の技術として、『 自動人形(オートマタ) 』がある。それはまたいずれ教える」
「ありがとうございました」
どこかほっとした顔でお辞儀をした若い弟子たちであったが、その次のシュウキの言葉を聞いて凍り付く。
「では、諸君らだけでゴーレムを作ってみよう」
「えっ」
「えっ」
「ゴーレムは魔法工学の一つの精華である。頑張りたまえ」
必要な資材は町長が用意してくれていた。
25人の若い弟子たちは顔を見合わせ、気合いを入れ直す。
「うしっ、やるか!」
「やろうじゃないの」
「やるしかないよな」
そんな中、シャトーネは1人、何ごとかを考え込んでいた。
* * *
「お父さん、ちょっといい?」
「どうした、アド?」
「これ、見て?」
「こ、これはっ!?」
そこにはなかなか見事な『少女型』ゴーレムが横たわっていた。
「アド、お前1人で作ったのか?」
「うん、そうだよ!」
シュウキは細かい部分を調べてみたが、まったく問題はなく、むしろ先日弟子たちが総掛かりで作ったゴーレムよりも出来がよかった。
そのことを褒めると、アドリアナは嬉しそうにしたが、その後不満を口にする。
「でもね、まだこれじゃ、ふじゅうぶんだと思うの。どこがかっていうと、どうりょくげんなの」
「動力源か……」
シュウキにも、アドリアナの言いたいことはわかった。
「動力用の 魔力素(マナ) を蓄えておく 魔導装置(マギデバイス) か」
今現在の魔導具全般は、 魔力素(マナ) を多く含んだ 魔結晶(マギクリスタル) をエネルギー源にしていた。
しかしこれでは、一度に取り出せる 魔力素(マナ) が少なく、特に瞬間的な出力が必要な場合にはまったく対応できていない状態だったのである。
「まなをためておける『 魔導装置(マギデバイス) 』を作ればいいだけでしょ?」
至極簡単なことのようにいう娘に、シュウキは苦笑を禁じられなかった。
「それはそうなんだがね、アド。そうそう簡単には……」
「ねえ、こうすればできるんじゃない?」
アドリアナは 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を口にする。
かなり長いものだったが、それを聞くシュウキの顔は、次第に驚きに染められていった。
「ア……アド、お前の言う 魔法制御の流れ(マギシークエンス) に矛盾はない。誰かから聞いたのか?」
「ううん、今かんがえたの」
シュウキがまだこの町に来てから教えていない『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』の作り方であったのだ。
かつての妻、アドリアナが作り出した中でも群を抜いて有益な技術の一つがこの『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』だとシュウキは思っている。
それを、愛娘アドリアナは独力で考え出したのであった。
ふと、娘アドリアナは妻アドリアナの生まれかわりではないか、という考えが頭をよぎるが、すぐにその考えをシュウキは否定する。
(いや、妻は妻、娘は娘だ。安易に生まれかわりなんて思ってはいけないな)
それは命を軽んじてしまうかもしれない思想だ、とシュウキは思ったのだ。
(命は一つ、人生は一回だけだから、本当に大事にできるんだろうからな)
生まれ変わればまた会える、などと思っていたら、妻アドリアナにも、娘アドリアナにも失礼だ、と反省するシュウキ。
(一期一会、だったか。一度限りだからこそ、妻であるアドリアナを精一杯愛したし、娘であるアドリアナも精一杯愛することができるんだから)
「お父さん?」
そんなことを考えていたら、アドリアナがシュウキの顔を覗き込んでいた。
「ああ、ごめん、アド。お前が考えたそれは、『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』というんだよ」
「えー……もうあったの?」
「まだ教えていない技術だったんだ。悪かったな」
娘に謝るシュウキ。だがアドリアナは首を横に振った。
「ううん、それじゃ、もっともっとすごいものをかんがえるからいいもん!」
その言葉どおり、後に彼女は、シュウキが作ったゴーレムや 自動人形(オートマタ) の 魔力貯蔵庫(マナタンク) システムを、己の作った『 魔素変換器(エーテルコンバーター) 』システムに交換することになる。
「さて、そうしたら」
シュウキはアドリアナに向き直った。
「 魔力貯蔵庫(マナタンク) に 魔力素(マナ) を充填する方法も考えなければ駄目なんだぞ?」
「うん、わかってる! それはね、こうすれば……」
きちんとそこまで考えていたアドリアナに、シュウキは舌を巻いたのであった。
* * *
結局、若い弟子たち25人が作ったゴーレムは、アドリアナ1人が作ったゴーレムに及ばなかった。
ただ、シャトーネは25人とは別に、自分1人でゴーレムを作っていた。
このあたりは、町長の娘であるという立場を生かして、ということではあるが、それだけでは終わらないのが彼女である。
シャトーネはシュウキと高弟たちを己の工房に招き、作品を見せた。
「おお、これは見事だ」
「うむ、素晴らしい」
「本当ですか? ありがとうございます!」
そのゴーレムを見たシュウキは手放しで褒めた。
簡単な初期動作をさせた時の滑らかな動きは、熟練技術者の域に達していたからだ。そして外見。
見事なまでに整ったバランス。外装部品の接合部は髪の毛一筋も入らないほどの『合い』を見せていた。
「……!!」
アドリアナは立ち上がると、工房の外へと走りだした。
「ア、アド!?」
シュウキは驚いて娘の後を追った。そして高弟たちやシャトーネも。
アドリアナは、シャトーネが作ったゴーレムの外観の素晴らしさに感銘を受け、『負けた』と思ってしまったのである。
いかにアドリアナが才気溢れていたとしても、まだ7歳。魔法工学に打ち込んでは来たものの、それとは縁遠い分野……デザイン関係ではまだまだ未熟であった。
ゆえに、洗練されたシャトーネのゴーレムを見て、ショックを受けたとしても無理はない。
「はあ、はあ、はあ」
7歳の少女らしく、何も考えずに走りだしたアドリアナは、自分のゴーレムを置いてある工房へとやって来ていた。
「……」
横たわるゴーレムを眺める。
先程見た、シャトーネのゴーレムとは比べものにならない。
(まだまだべんきょうぶそくだった)
シュウキは褒めてくれたがそれはアドリアナの年齢を加味してのことだろう。
確かに弟子たちが作ったものよりは出来がいいかもしれない。だが、シャトーネの作ったものと比べたら。
「……細部の作り込みが甘い。腰回りの曲線がおかしい。手足の長さが、微妙にバランスが取れてない」
「!?」
自分のゴーレムを批判する声にアドリアナが振り向くと、そこにはシャトーネが立っていた。
「内部は見えないからわからないけど、外観はまだまだね」
「……」
唇を噛みしめるアドリアナ。
「でも、1人でこれだけ作ったんでしょう? 誇っていいと思うわ」
「……でも、かなわない」
絞り出すように呟いたアドリアナの言葉に、シャトーネは苦笑を漏らした。
「……私のゴーレムね、外観を調整するために、美術工芸をやっている先生に見てもらったのよ」
そして、アドリアナが驚くことを告げたのである。
「だからね、外観がうまくできていて当たり前なの。アドリアナちゃんは何も恥じることないわ」
「そう、かな……」
「ええ、アドリアナちゃん。私と違い、あなたは本当の意味で1人で作ったんでしょう? それはとても凄いことよ」
「……でも、だいじなのは、けっか」
「そう思ったなら、誰かを頼る事を覚えなさいな。私でよければ、いつでも相談に乗らせてもらうわ」
「……うん……ありがと」
この日、アドリアナは、1人でできることの限界を悟ったのかもしれない。