作品タイトル不明
過去篇 弐 20 転移門
シュウキ、彼の高弟たち、そしてアドリアナらは協力して魔法陣の解析を行った。
そして1ヵ月後、ついに転移の要諦を得ることができたのである。
「そうか、ここの 魔導式(マギフォーミュラ) が空間を繋ぐのか」
「2点間を結ぶには正確な『同調』が必要になるのかな?」
「いや、受け入れ側がはっきりと指定できていればいいようだ。魔法陣というものは単独で動作するものだからな」
「でもお父さん、かなりの 魔力素(マナ) をしょうひするね」
「そうだな、アド。魔法陣で 魔力素(マナ) を増幅しているのもその対策だな」
「ここは『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』をつかえばいいんじゃない?」
彼等は協力して新しい技術を作り上げていく。
そして出来上がったのが……。
「よし、この『 転移門(ワープゲート) 』なら実用に耐える!」
「師匠、やりましたね」
以前ミツホで開発した『 転移門(ワープゲート) 』は、まだまだ動作が不安定で、人間を安心して送り出せるものではなかったのである。
だが、これなら。とはいえ、十分な試験をする必要がある、とシュウキは思った。
「まずは短距離でテストを行いたいな。人間は危ないから……」
「こういうときこそ、ゴーレムだね!」
ユルガノの町でアドリアナが作ったゴーレムは、そのままこのカルナグまで運び込んである。
「『 起動せよ(ウエイクアップ) 』」
魔鍵語(キーワード) に反応し、ゴーレムが起き上がった。
「よし。あの 魔導機(マギマシン) の中に入りなさい」
まだ発声装置がないため、アドリアナのゴーレムは右手を軽く挙げて了解の意を示した後、 転移門(ワープゲート) の中へと歩いて行った。
「そこで止まりなさい」
アドリアナの指示に従って停止するゴーレム。
「よし、 転移門(ワープゲート) 作動!」
シュウキの号令により、高弟の1人、テンペスが 転移門(ワープゲート) へと 魔力素(マナ) を接続した。
「おお!?」
転移門(ワープゲート) 内に魔法陣の輝きが淡く浮かび上がるのが見えた。そして次の瞬間、輝きは消え、それと共にゴーレムも消えていたのである。
「先生! こちらにゴーレムが現れました!」
すぐ隣に設置した受け入れ側の 転移門(ワープゲート) 内にゴーレムが現れた。
「成功だ!」
その後、 転移門(ワープゲート) の距離を離していき、実験は続けられた。
「これは素晴らしい!」
その結果、最終的には隣町までの転移を確認することができたのである。
以前作った『 転移門(ワープゲート) 』に比べ、起動までの時間も短く、送り出せる物体にも制限はない。
しかも、以前の試作機の3分の1の大きさ、10分の1のコストで作れる。
まさに『完成型』であった。
シュウキは、いつの日か、ミツホに設置した 転移門(ワープゲート) もこれと置き換えたい、と考えたのである。
そしてそれは、遠い将来、彼の愛娘が果たすことになるのだ。
* * *
「『 賢者(マグス) 』殿! よくやってくれた!」
『 転移門(ワープゲート) 』完成の知らせは国王に届き、シュウキたちは褒詞を受けていた。
「この技術は国内……いや、大陸に革命をもたらすであろう」
今までのような馬や馬車、徒歩での移動とは比べものにならない。
移動時間はほぼ0、 魔力素(マナ) を供給している限りは延々と移動が可能。
人間での安全確認もシュウキたち自身で済ませていた。
「食糧、生活物資、素材などの輸送にも革命が起きるな」
国王の機嫌はいい。
「貴殿を特別名誉国賓としよう」
今まででも破格だった待遇を更に引き上げてくれるという。
だが、さすがにシュウキもこれは辞退した。
「いえ、それは遠慮させていただきます。私はまだ道半ば、もっともっと世間に魔法工学を広めていきたく存じます」
「ふむ、そう言うと思っておったよ。だが、それならば尚のこと、受けてもらいたい」
王の横に控えていた宰相が詳しい説明を引き継ぐ。
「シュウキ様、『特別名誉国賓』となれば、この国のどこへいらしても上級貴族に準じた扱いがなされます。それは貴殿の目的にも叶うのではありませんか?」
確かに、レナード王国内に魔法工学を広める旅をするにあたり、余計な手続きなどの手間はないに越したことはない。
「……わかりました、有り難くお受けします」
こうして、シュウキ・ツェツィはレナード王国の特別名誉国賓となった。
「お父さん、なーに?」
そんな、講義が休みのある日。
シュウキはアドリアナをカルナグ郊外に連れ出していた。
「今日はアドに頼みがあってな」
「えっ? なになに? あたし、何でもやるよ!?」
気追い込むアドリアナ。
「うん、今日はこの絵のようなものを作って欲しいんだ」
シュウキは1枚の皮紙をアドリアナに差し出した。
「ふうん、面白いたてものだね。大きさは小さくていいの?」
「ああ。この奥、『祠』っていうんだが、1メートルちょっとくらいでかまわない」
材料は事前に運び込んであった。
「よーし、張り切っちゃうぞ!」
アドリアナは既に高弟たちをも凌ぐ 魔法工作士(マギクラフトマン) になっていた。
「ええと、石をこの形に『 成形(シェーピング) 』して、『 融合(フュージョン) 』でくっつけて、と……」
「ああ、いい感じだな」
「ねえお父さん、この動物みたいな像ってなあに?」
『 変形(フォーミング) 』を行いながらアドリアナが尋ねた。
「それは『狛犬』っていって……うーん、狐でも狛犬っていうのかな? ……ま、まあ、要は門番みたいなものだよ」
「ふうん、これが門番なんだ……『 変形(フォーミング) 』」
祠、狛犬(?)、そして鳥居が完成した。
「面白いかたちの門だね。『 強靱化(タフン) 』」
「ああ、いい出来だ。ありがとう、アド」
シュウキは礼を言ってアドリアナの頭を撫でた。
「ねえ、とびらを付けたけど、何か入れるの?」
祠なので御神体などを入れるために扉が付いているのだ。
「ああ、そうさ。これをね」
シュウキが取り出したのは小さな狐の像だった。
「あれ? それもこまいぬ?」
「ああ、かたちは狐だけどね。……見てごらん?」
シュウキはその像をアドリアナに手渡した。
「あれ? これって、 魔結晶(マギクリスタル) ?」
「そうさ。『 読み出し(リード) 』をかけてごらん」
「うん。『 読み出し(リード) 』」
すると、魔法陣が浮かび上がり、無数の文字が浮かんでは流れて消えていった。
「これって……記録なの?」
「そうだよ。今日までの……日記みたいなものかな。もしかして、私と同郷の者や、アドに匹敵する魔導士なら読めるように、ここに封印しておくつもりなんだ」
「ふうん……」
シュウキは祠の扉を開け、その狐の像を安置。そして扉を閉め、
「アド、封印をしてくれないかな?」
「うん、まかせて!」
封印とは結界である。固体を通さない結界を祠の周囲に張ることだ。
結界のための 魔石(マギストーン) は祠の扉に取り付けてあった。
「これでよし。一定以上の魔導士でなければ取り出せないはずだ」
シュウキ自身にももう取り出すことはできない。
「いつの日か、この祠に興味を持った者が、中の記録を見て、後世に伝えてくれたら、と思うよ」
記録には、日記だけでなく、魔法工学に関連した情報が詰め込まれている。
「お父さん、その誰かは、きっとお父さんに似た人だと思うな」
遠くを見つめるような目をしたシュウキの横で、無邪気に笑うアドリアナ。
魔法工学は発展期に入ろうとしていた。