作品タイトル不明
28-28 祠
「……鳥居?」
折れて倒れたと思われる遺跡の『門』。
それは、仁が見た限りでは、神社の鳥居によく似ていた。
「でも、ちょっと違う部分もあるか……?」
横の棒が1本しかないようなのだ。鳥居なら2本あるはずである。
「……まあ、いいか」
鳥居との類似点は置いておくことにし、仁は遺跡らしきものの調査をするよう、ランド21に指示を出した。
そして待つこと30分。
とはいえ、ランド21から送られてくる映像を見ているので、退屈することはない。
「あ、あれは何だろう?」
と声を出せば、それを老君が中継するので、ランド隊もそれをよく見えるようにしてくれるのだ。
そのようにしてわかったことが3つ。
1つめは、門の左右に、動物の形をした石像が建っていたらしいこと。
破片を拾い集め、組み立ててみたらそうらしいことがわかったのである。
2つめは、門の色は赤かったということ。
折れた門の基部が発見され、その部分はまだ劣化・褪色が進んでいなかったためにわかったのだ。
そして3つめ。
折れた門らしきものは小さい。元の高さは1メートル前後ではないかだろうかと思われる。
「……神社? いや、祠か」
仁は、折れた門と両脇の動物の像から、鳥居と狛犬を連想したのである。
「とすると、奥の建物らしきものは石の祠にでも相当するんだろうな」
そんな独り言をエルザとミロウィーナが聞きつけたようだ。
「ジン兄、祠って?」
「ジン君、遺跡に何か心当たりがあるの?」
「えーと……」
仁はどう説明したものか、と少し考え込んだ。
「……俺の故郷の教会……みたいなものかな? そう、無人の教会、といえば近いかもしれないな」
「ジン君の故郷って……?」
「あ」
ミロウィーナには話していなかったことを思いだした仁である。
「ええと、あとで詳しく説明します」
と今は言っておく。それよりも遺跡が優先だからだ。
「ジン兄、あれ」
エルザが画面を指差した。
ランド隊が積み重なった岩をどけると、そこに小さな『建物』があったのだ。
岩が何のために積まれたのかわからないが、おかげでこの『建物』の傷みは少なかった。
「……やっぱり、祠か」
それはどう見ても、石造りの祠にしか見えなかった。
* * *
周囲に危険がないということを徹底的に調べさせ、仁たちが祠の前に立ったのは1時間後。
「どこからどう見ても祠だな……」
仁は懐かしいものを見る目をしていた。
「ジン君、これが教会なの?」
あまりに小さいその佇まいに、ミロウィーナは疑問の言葉を発した。
「ええ、これは『祠』といいまして、神様を祀るための建物といいますか。例えていうと、神像を雨ざらしにしたくないので小さい建物の中に安置した、といえるでしょうかね」
「それなら、わかる」
エルザも、今の説明で『祠』の存在意義をおおよそ理解してくれたようだ。
神道の場合、神像というより御神体が多いのだが、そこまで仁も詳しいわけではなかった。実際に天神様(菅原道真公)や八幡神の場合は神像が祀られることもあるのだ。
「と、それより、中に何が祀られているか気になるな」
祠に手を伸ばした仁であったが、礼子に遮られた。
「お父さま、何が起きるかわかりません。わたくしが開けます」
「そ、そうか」
少し残念そうな顔をして、仁は手を引っ込めた。
礼子は祠にゆっくりと近付き、その扉を開けたが、その瞬間火花が飛んだように見えた。
「お父さま、やはり結界が張られていました」
「そのようだな」
仁では扉に触れることすらできなかったろう。
しかし礼子は、結界など存在しないかのように扉を開いてしまった。
「中には……本、じゃないのか」
形状からいって、日本人、つまり『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィが作ったものだろうと思っていたので、中に本、というか日記か記録が入っていなかったことに少しがっかりする仁。
「だが……あれは?」
仁が直接触れることは礼子が許してくれないので、少し離れたところから祠の中を覗き込んだ仁は、中に収められていたものに首を傾げた。
「……何かの像、か?」
やや透明度のある、白い貴石でできているらしいその像は、見たところ動物を模したものに見える。
四つ脚で、鼻面が細く尖り気味で、三角形の耳がぴんと立っている。
犬のようでもあるが、尻尾は太く大きい。
「……やっぱり、狐、だよなあ」
御稲荷さまに奉納されている狐の像によく似ていたのである。
「礼子、取り出してみることはできるか?」
「はい、お父さま」
仁の指示に、礼子はあっさりとその狐の像を取り出してしまった。
もうトラップはないようだ。
「何も起こりません。危険はないようです」
礼子はその狐の像を仁に手渡した。
「ふむ」
受け取って、色々調べる仁。
「……ジン兄、それ、動物? 見たことない」
「面白い造形ね、ジン君」
仁の知るところによれば、このローレン大陸に狐はいない。ゴンドア大陸に 霜降狐(しもふりぎつね) というのがいるが。
そういう意味でも、『 賢者(マグス) 』が意図して作ったものであろうと思われるのだ。
「これ、貴石じゃなくて 魔結晶(マギクリスタル) だな」
質は悪いが、全属性の 魔結晶(マギクリスタル) のようである。
「『 精査(インスペクション) 』」
魔結晶(マギクリスタル) が何を内包しているのか、簡単に調べてみる仁。
「これは……?」
仁が何かに気づいた、それと同時に礼子から声が掛かった。
「お父さま、扉の内側に文字が」
「何?」
仁はまずそちらを覗き込んでみた。
「なになに……『これを……読む……のできた者……像……託す』……? 日本語か……」
そして最後にシュウキ……ツィと書かれていた。
「間違いなくシュウキ・ツェツィの遺した遺跡だな」
結界が張られていたというが、かなり劣化していたようだ。
「この像は記録装置だったからな」
「ジン兄、読めたのだからジン兄がもらってかまわないということ」
「そうね。それはジン君のものだわ」
エルザとミロウィーナにも言われ、仁は手の中の狐の像を見つめたのである。