作品タイトル不明
28-29 第2の日記
「うーん……」
ミロウィーナがぼそりと言った。
「遺跡ってこんなに小さかったのね」
仁は、気持ちは分かる、と思った。
鳥居もどきの門も高さ2メートルもないし、祠に至っては礼子の身長くらい、つまり高さ130センチほどしかないのである。
狛犬もどきの石像は1メートルあるかないかだ。
遺跡のイメージとしては小さすぎるだろう。
それはそれとして。
「……この遺跡、どうしようか」
中に仕舞われていた 魔結晶(マギクリスタル) を仁がもらってしまったならば用済みである。
このまま放置すればいずれ朽ち果てるか、風化するか、あるいは何者かに壊されるか。
いずれにせよ、無事では済まないだろう。
「よし、移築しよう」
「……え?」
「蓬莱島の庭の隅に再整備して安置しよう」
『 御主人様(マイロード) 、承りました。早速工兵を送り込みます』
聞いていた老君は即反応した。
工兵……つまり 職人(スミス) 部隊を送り込むというのである。
「わかった。そちらは任せる」
この、日本を思い出させ、かつ1000年を超える過去から存在した遺跡をこのまま朽ちさせるのは惜しすぎると仁は思ったのである。
* * *
他にめぼしいものもないので、一行は蓬莱島へ戻ることにした。
来ようと思えば転送機を使い一瞬で来ることができるのだから、問題はない。
「……ごめんなさいね」
「何がですか?」
謝るミロウィーナに、仁は疑問符を浮かべながら聞き返した。
「1000年前の遺跡だなんて言っておいて、結局大したものじゃなかったみたいだから……」
「いえ、これは貴重なものですよ。何せ『 賢者(マグス) 』が遺した記録ですから」
「『 賢者(マグス) 』……ねえ。そんなにすごい人なの?」
「ああ、そこからですね」
ミロウィーナは『 賢者(マグス) 』のことをよく知らないらしい。
蓬莱島に戻る『コンロン3』の中で、仁は己の出自と、これまで『 賢者(マグス) 』についてわかったことを説明することにした。
「……そう、ジン君って、別の世界からこちらにやってきたの……」
ミロウィーナはあまり驚いていないようだ。それを指摘すると、
「ふふ、現実というものは時として物語よりもとんでもないことが起きるものですからね」
と、のたまった。
「それに、物語というものは、実際に起こったことを下敷きにして作られることが多いものですしね」
ずっと閉じられた世界にいたミロウィーナは、そういった物語を沢山読んできたらしい。
「私にとっては、このアルスという世界そのものが物語の中のものでしたからね」
「そういうもの、ですか……」
そこへエルザがお菓子と飲み物を持ってやって来た。
「3時を少し過ぎたので、どうぞ」
「お、ありがとう」
「あら、ありがたいわ」
喉が渇いていたのでちょうど良かった。
仁には微炭酸のシトランジュース。ミロウィーナ用にはペルシカジュースだ。
お菓子はトポポチップスとせんべいであった。
ちょっと塩気のあるものが食べたいと思っていたところだったのでちょうどいい。
「食べ過ぎないように」
蓬莱島に戻れば夕食の時間なのでエルザが釘を刺した。
* * *
蓬莱島に帰り着いたのは蓬莱島時間で午後7時。
『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 、エルザ様、ミロウィーナ様』
老君が一行を出迎えた。
そしてエルザが言ったように、夕食の準備が整えられていた。
『大根粥だそうです』
移動が続き、体力的に疲れたであろうミロウィーナを慮っての献立らしい。
大根の葉っぱが鮮やかな緑を保っているあたり、ペリドの苦心が窺える。
「あら、美味しいわね」
「……ん、美味しい」
「美味い」
完全無農薬大根なので葉っぱの彩りが嬉しい。
塩をかけただけで十分美味いのだが、好みに応じて梅干しや煮干し、佃煮などと一緒に食べることで味に変化が出る。
「ごちそうさま」
ミロウィーナも満足してくれたようだ。
『 御主人様(マイロード) 、報告してよろしいでしょうか?』
食後のほうじ茶を飲んでいると、老君が話しかけてきた。
「ああ、かまわない。あの狐の像についてだな?」
『はい。あれは間違いなく情報を蓄えた 魔結晶(マギクリスタル) でした。『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィの遺した記録です』
「やっぱりな。それで?」
『はい、面白いことに、初めの方はごくあっさりと、事務的な記録でしたが、後半は以前の日記のように詳しく書かれていました』
それを聞いた仁は、シュウキ・ツェツィに何があったのだろうと思う。
『面白いことに、これはシュウキ・ツェツィ自身が記録しています』
「え? 彼は魔法を使えなかったんじゃ?」
『はい。ですので『 書き込み(ライトイン) 』用の魔導具を作ったようです』
「面白いアイデアだな……」
とはいえ、今はそれどころではない。
『この場で報告させていただいてよろしいでしょうか?』
老君の言葉に、仁は待ったをかけた。
「待て、せっかくだから、ファミリーメンバーにも声を掛けてからにしよう」
『わかりました。ではそのように手配します』
こうして、仁ファミリー全員に、『 賢者(マグス) 』の新たな記録が見つかったことを伝えたところ、ラインハルト、トア、ステアリーナ、サキ、ヴィヴィアンが聞きたい、と言ってきた。
マルシア父子は手が放せない依頼を抱えており、ビーナとクズマ伯爵は、伯爵が首都アスントに招集されており、今回はパスとなった。
欠席者には後ほど書面で伝えることを考える。
* * *
ショウロ皇国との時差は5時間20分もあるので、彼等は全員その日のうちにやってきた。
蓬莱島時刻で午後9時のことである。
仁はミロウィーナを紹介したあと、老君に始めるよう伝えた。
『それでは始めます。まず、前半部分は非常に簡潔でした』
最愛の人アドリアナを亡くした後のシュウキ・ツェツィの日記はひどく事務的で要点しか書かれていなかったことを皆、思い出した。
『2339年12月3日にシュウキ・ツェツィは今のショウロ皇国に入りました』
当時はまだショウロ皇国は建国されておらず、無国籍の集落がぽつぽつと存在しただけであったようだ。
『2340年2月5日、シュウキ・ツェツィは弟子5名らと共に古代ディナール王国と思われる土地に入りました。今のセルロア王国に当たる地ですね。当時何と呼ばれていたかは記録にありませんでした』
そこの住民たちには、『 賢者(マグス) 』の思想は受け容れ難かったようで、シュウキ・ツェツィは足早にディナール王国を横断した。
小群国でシュウキが無名なのはこのためのようだ。
そして彼等が向かったのはレナード王国だった。
そこで彼は、2度目の『運命の出会い』を果たすことになったのだ。