作品タイトル不明
28-23 カイナ村訪問
6月28日、仁は、本人たっての希望でミロウィーナをカイナ村へ連れて行くことにした。
移動手段は『コンロン3』である。操縦は、今回はエドガーが行っている。
「できるだけ低空を飛びますから」
「ええ、楽しみだわ」
はしゃぐミロウィーナ。
仁、エルザ、礼子そして介護ゴーレム『カイ』も一緒だ。
「ああ、空から見下ろすとまた違うわねえ」
高度100メートル程を飛行する『コンロン3』。時速は300キロくらいだ。
カイナ村までは800キロ弱くらいであるから、2時間半程度の空の旅である。
「あら、陸が見えてきたわ」
「ええ、もうすぐ、旧レナード王国の上に差し掛かりますよ」
「そう、なの……」
はしゃいでいたミロウィーナの顔が引き締まった。
高度を少し落とす仁。地表の様子が手に取るように分かる。
「……本当に、何も残っていないのね……」
その声は、仁が思っていたよりは湿っぽさが感じられなかった。
「ええ。去年でしたっけね、仲間と旧首都に行ってみたことがありまして、そこの地下室にメッセンジャーという魔導頭脳がありまして、住民が伝染病を避けて月へ転移した、という話を聞いたんですよ」
「そうだったのね」
それきりミロウィーナは口を噤み、地表を眺め続けていた。
『コンロン3』は旧レナード王国とクライン王国を隔てる山脈を越えるため、高度を上げた。
山脈を越えると、眼下にはシャマ大湿原が見えてくる。この季節は緑で溢れている。
「あらあ、きれいね」
ミロウィーナが明るい声を上げた。
湿原の一角が、白い花で覆われていたのだ。
仁の知るミズバショウに似ている。
「確か白カイウ、って言ってたかな?」
ミツホで教わった植物名である。
「そう、白カイウ、っていうのね。きれいねえ」
故国を通り過ぎ、ミロウィーナも元の調子を取り戻したようだ。
「もうすぐカイナ村ですよ」
「ジン君の領地、だったわね」
「ええ、そうです」
シャマ大湿原をかすめるように飛び、トーゴ峠を越えればカイナ村。
二堂城の天守閣が見えてきた。
「まあ、あの建物は?」
アルスには無い様式の建物に、ミロウィーナは目を見張った。
「二堂城です。俺の城ですよ」
「まあまあ、珍しい様式だこと」
ミロウィーナは興味を持ったようである。
『コンロン3』は二堂城前の広場に着陸した。
五色ゴーレムメイドのナンバー101たちが出迎える。
「ご主人様、お待ちしておりました」
「ご苦労さん。この方がミロウィーナさんだ、優先してお世話するように」
「心得ましてございます」
正午少し前だったので、昼食とする。
二堂城の2階、応接間へ食事を運ばせることにした。
ここは洋間なので椅子に座って食事ができる。
献立はお粥、梅干し。それに海苔と昆布(もう言い切ることにした)の佃煮。
ミロウィーナの好みに合わせたメニューである。
「このお粥って、美味しいわねえ」
「消化もいいんですよ」
「あら、尚のこと私向きだわ」
お茶はほうじ茶。
「このお茶も美味しいわ」
ゆっくりと食事をしたなら、村の見物に行くことになった。
ずっと歩いて行くのは大変なので、仁が前日に用意しておいた特製の人力車である。日除け用の幌が付いている。
牽くのはバトラーCだ。
「まあまあ、面白い乗り物だこと」
ミロウィーナは人力車を面白がる。気に入ってくれたようだ。
サスペンションとダンパー、それにゴムタイヤで振動吸収しているので乗り心地はいい。
急がず、ゆっくりと牽いていくバトラーC。
「あ、ジンにーちゃん」
「おう、ジンか。お客さんかい?」
「リヤカーとも違うし、面白い乗り物だな」
すれ違う人たちは様々な反応を示す。
「あ、おにーちゃん!」
ハンナが駆け寄ってきた。
「お客さま?」
「ああ、そうだよ。ミロウィーナさん、っていうんだ」
それを聞いたハンナは、にっこり笑ってからお辞儀をした。
「はじめまして、ハンナです。ようこそいらっしゃいました」
「まあまあご丁寧に、可愛らしいお嬢さん。私はミロウィーナよ」
「ハンナ、一緒に行くか?」
「うん、案内してあげる!」
元気よく答えるハンナ。
「あっちがむぎばたけ。この前しゅうかくしたから、まだ植えてないの」
「これ、ポンプっていうの。おにーちゃんが作ってくれたの」
「あそこがそんちょうさんのおうち。サリィさんっていう、ちゆしのおばさんがいるの」
などと、一所懸命に説明するものだから、ミロウィーナは終始にこにこしてそれを聞いていた。
「おー、ジン、お客さんの案内かい。ハンナも偉いな」
「お客人、なんにもねえ村だけど、のんびりできることは請け負うぜ」
「お客様、ゆっくりしていって下さいな」
野良仕事をしている村人が、仁やハンナ、それにミロウィーナを見て挨拶をしてくる。
ミロウィーナはにっこりと笑いながら手を振っていた。
「でね、ここがおんせん。とってもきもちいいの」
「あれは『雪むろ』っていうの。冬にふった雪をつめておいて、あついなつでもすずしいから、やさいやおにくをほぞんできるの」
「むこうはぼくじょう。お馬さんがふえたの」
牧場にいる馬は、かつてリシアとパスコーが乗ってきた馬である。今年も子馬が生まれ、仁が買い求めた馬と合わせ、7頭が飼われていた。
「あっちはおみせやさん。いろんなものを売ってるの。てんしゅのエリックさんは、そんちょうさんのところのバーバラさんと仲がいいの」
ハンナの案内はなかなか楽しく、聞いている仁とエルザも自然と笑顔になる。
「でね、ここがあたしのおうちで、お向かいがジンおにーちゃんのおうち、1かいはこうぼうなの」
仁の『家』に着いたところで一休みする。
仁の工房には大きな庇が張り出しており、その下はちょうどよい日陰となっていた。
椅子とテーブルを並べれば休憩スペースとなる。
一緒に運んできた荷物の中には魔法瓶があって、よく冷えた蓬莱島謹製のペルシカジュースが入っている。
「ああ、美味しいわ」
「おいしい!」
喋り続けたハンナは喉が渇いたのだろう、2杯おかわりをした。
「ミロウィーナさん、疲れませんか?」
ペルシカジュースを飲み、ほっと息を吐いているミロウィーナを見て、仁が言う。
「ええ、大丈夫よ。いい人たちね」
ミロウィーナも、カイナ村の人たちが気に入ったようであった。