作品タイトル不明
28-24 帰郷とその結果
二堂城で1泊したミロウィーナは、翌日午前中もカイナ村を散歩してまわっていた。
「おばちゃん、お話しして!」
「あらあら、いいわよ」
その途中で、村の子供たちに捕まり、その度にいろいろな話……主に旧レナード王国に伝わる昔話をしてやったのである。
「へえ、そうなんだー」
「むかしって、どのくらいむかし?」
「ふしぎだねー」
ミロウィーナも、子供たちとのふれ合いは楽しいようで、仁からも生き生きしているように見えた。
「きっと、子供を見たのも初めてなんじゃないかな?」
月……ユニーの施設では、ミロウィーナより若い世代はいなかったであろうからだ。
「ん、きっと、そう」
子供たちに囲まれ楽しそうなミロウィーナ。
「エルザ、ミロウィーナさんの健康状態はどうなんだ?」
「うん、とてもいいみたい。こっちへ来て、若返った感じ」
精神的にいい影響が出ているのではないか、とエルザは言った。
「だといいな」
「ん」
子供たちに昔話を聞かせるミロウィーナを見て、心の底からそう思う仁とエルザであった。
* * *
「そうですな、聞いたところによりますと……」
ミロウィーナは何か気になったことがあったらしく、今、村長ギーベックと話をしていた。
「……ご先祖様は東の山を越えてやって来た、という話もありますな」
「……やっぱり」
ギーベックから村の昔の話や先祖の話を聞いたミロウィーナは、納得がいったような顔をしていた。
何かに気が付いたのだろうと思ったが、彼女が話してくれるまでは無理に聞くことはしない仁であった。
* * *
「ねえジン君、レナード王国に連れて行って下さらない?」
マーサの家で昼食を食べ終わると、ミロウィーナがそんなことを言いだした。
仁に否やはない。
「いいですが……どこにします?」
「そうね、やっぱり首都のあったところかしら」
以前ハンナたちと訪れた、旧首都ディアアを希望するミロウィーナ。
「わかりました。そこならある程度把握してますし」
そこで、『コンロン3』で向かうことにした。
距離にして300キロくらいなので、『コンロン3』に乗り、1時間で着く。
同行するのはエルザと礼子、カイ、操縦はエドガー。
仁は、不慮の事態を想定して、老君に命じ、ランド隊20体をあらかじめ送り込ませ、付近を調査させておくことにした。
旧首都ディアアは、以前訪れたときと変わっていなかった。
「ここが首都……」
上空から眺めるのではなく、自らの足でそこに立ったということには、やはり特別な感慨があるのだろう。ミロウィーナはしばらくの間、無言で立ち尽くしていた。
10分ほどもそうしていただろうか、ミロウィーナは仁たちの方を振り返った。その目が少し潤んでいるように見えたのは、仁の気のせいではないだろう。
「ありがとう、ジン君。……その、地下室というのはどこなのかしら?」
「あ、はい。こっちです」
資料館と思しき2階建てのがっしりした建物へと案内していく仁。ミロウィーナが続き、カイが寄り添っている。
最後尾はエルザとエドガー。礼子は遊撃ポジションといった感じで、一行から少し離れ、あたりに気を配っていた。
蔓が刈り払われた入口もそのままだった。
中に入れば、壁画の群れ。仁は『 光の玉(ライトボール) 』を灯した。
「まあ……」
ミロウィーナは驚いたようだ。
「これは……創生神話ね。こっちは、人々の暮らしを描いたものでしょう。それに……」
一つ一つ、ゆっくりと見回るミロウィーナ。予想に反して楽しそうだった。
一通り壁画を見終わったミロウィーナに、
「地下室も行ってみますか?」
と仁は尋ねた。
「ああ、そうね。メッセンジャーがいるんだったわね。お願いするわ」
「分かりました」
仁は礼子に指示を出し、起動用の 魔石(マギストーン) に魔力を流した。
仁たちは念のため、 障壁(バリア) を張っておいたが、何ごともなく地下への通路が開いた。
「さあ、行きましょう」
カイが先頭、その後から仁とエルザがミロウィーナの手をそれぞれ引いて、地下への階段を下りていった。礼子は 殿(しんがり) である。
「『ようこそ、皆様』」
メッセンジャーの声が響いた。
「あなたがメッセンジャーね。私は脱出した王国民の末裔よ」
「『……!!』」
その瞬間、メッセンジャーからの音声が途絶えた。そして。
《お帰りなさいませ》
明らかに異なる音声が聞こえてきた。
《まさしくあなた様はレナード王家直系のお方》
何らかの方法でミロウィーナの魔力パターンを読み取ったのだろう。
メッセンジャーに代わって、別の魔導頭脳が目を覚ましたようだ。
《私が建造されて235年、ついにお仕えすべきお方が帰ってきて下さいました》
「あなたも魔導頭脳なの?」
《そうです。私は『*u@k+』と申します》
「え?」
《『*u@k+』です》
名前の部分が聞き取れない。
「あなたの名前が分からないわ」
《それは些細なことです。さあ、ご命令下さい》
「何を?」
《この地に再び、レナード王国を再建せよ、と》
だがこの要望に対し、ミロウィーナは首を横に振った。
「そのつもりはないわ。もう生き残っているのは私一人だし」
《ですから、大陸を平定し、あなた様が頂点に立たれればよろしいのです》
「もうそんな気はないのよ」
《いいえ、是が非でも頂点……女王陛下になっていただきます》
「そんな無茶は止めてちょうだい」
《無茶ではありません。私の力を以てすれば可能です》
「だから、私はそんな気はないの」
《いえ、これが私の使命ですから》
「やめてちょうだい!」
《世界をあなた様の手に!》
その時、軽い振動が生じた。
「何だ?」
訝しむ仁に、礼子からの報告が入る。
「……お父さま、魔物が地表に現れたそうです」