軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-22 蓬莱島の休日

「ああ、これが海なのね……」

『バリアクッションカー』で景色を楽しみながら、ゆっくり時間を掛けてやって来たのはタツミ湾。

潮の香りも強すぎては不快になるかもしれないと、『滅菌』に加え、弱い『脱臭』効果も付け加えたため、いまのところ何の問題もなくミロウィーナは蓬莱島を満喫していた。

そこに置かれたリクライニングチェアに腰掛けて、ミロウィーナは海を眺める。

「ユニーから見下ろしていた、これが海。青くて、綺麗ね。空の青と海の青、同じ青でも違う青……」

「暑くないですか、ミロウィーナ様」

お付きのゴーレム、『カイ』が気遣う。

「ええ、大丈夫よ。風が心地いいわ」

遮光結界に加え、日除けの大型パラソルも差し掛けられており、海風も吹いているのでじっとしていれば暑くはないだろう。

「海に入ってみたいけれど、それは駄目よね……」

「お身体のことを考えますと了承できかねます」

厳とした声でカイに言われ、ミロウィーナは苦笑した。

ほぼ無菌状態で生まれ育ってきた彼女である。仁とエルザが開発した『 滅菌結界(ステリライズバリア) 』がなければ、アルスに呼ぶ事も叶わなかったのだ。

「仕方ないわね。この景色を見ることができただけで満足しておくわ」

蓬莱島の海と空は青く、どこまでも続いていた。

「美味しいわ」

「お好きなものを召し上がって下さい」

ペリドリーダー渾身の昼食が並んでいる。

お粥と梅干し、それに海苔の佃煮。

サンドイッチ。具は卵、ハム、野菜など。

釜揚げうどん。稲庭風の細い麺で、薬味としてヤマネギのみじん切りを添える。

「まあまあ、とっても嬉しいわ。地上の食材、料理ね」

小食と聞いているのでどれも少量ずつである。

ミロウィーナが1番気に入ったのはお粥で、2番目がうどんであった。和風が好みなのかもしれない。

仁とエルザはミロウィーナが手を付けなかった分を平らげた。食べ物を無駄にしない仁である。

食後のデザートは熟したペルシカ。

「ああ、甘くて美味しいわ!」

先程もいできたばかりの完熟ペルシカである。

「ありがとう、ジン君。来てよかったわ」

柔らかな笑顔を浮かべたミロウィーナは、本当に嬉しそうに微笑んだ。

ただ海を眺めるだけではつまらないだろうと、仁は『梓』を呼び寄せた。100メートル級の巡洋艦である。

「まあ、船ね! 乗せてもらえるのかしら?」

「ええ、もちろんです」

ミロウィーナは『梓』を見ても特に驚いたりはしない。技術的なものには耐性ができているのだろう。

『梓』を砂浜に寄せるのは無理なので、バリアクッションカーの『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使って飛んでいくことにした。

「まあまあ、これは楽しいわね」

少女のようにはしゃぐミロウィーナである。

100メートル級の船上は緩やかに揺れるが、急遽甲板上に設けられた休憩スペースでは重力魔法を使い、揺れを感じないようになっている。

これは船酔いしやすい仁自身のためでもあった。

「『梓』、発進」

艦長のマリン11が号令を掛け、『梓』が動き出す。

「ああ、素敵! 海っていいわねえ」

『梓』の最高速度は、 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) 推進で時速50キロ。 力場発生器(フォースジェネレーター) を使えば時速200キロ近く出る。

今回は 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) 推進だ。

「潮風、っていうのかしら? 気持ちいいわ。……生きているうちにアルスに戻ってくることができるなんて、私は幸せ者だわ」

目を輝かせて海を見つめるミロウィーナは、20歳も若返ったように見えた。

2時間ほどのクルージングを堪能したミロウィーナと共に、仁は 転移門(ワープゲート) で研究所へ帰った。

研究所の前庭には、お茶の準備が整えられていた。

「まあ、素敵」

金色のソレイユと銀色のルーナを見て、ミロウィーナが微笑んだ。

「お茶も色々用意してみました。お試しになって下さい」

緑茶、ほうじ茶、玄米茶、紅茶、そば茶、麦茶。

ペルヒャ茶、クゥヘ。

お茶請けとして、ポップコーン、トポポチップス、アレ(大学芋)。

ホットケーキ、みつ豆、プリン、それにせんべい。

「まあまあ、素敵。目移りしてしまうわ」

そう言いながらもミロウィーナは全部を少しずつ味わっている。

「食べ物、飲み物って、こんなに色々な種類があったのねえ……」

ユニーでは限られた食材しかないため、おのずとメニューも限られていたのであろう。

「そうね、ほうじ茶が好みかしら。それとみつ豆が美味しいわ」

完成したばかりの求肥を美味しそうに頬張るミロウィーナ、仁も嬉しい。

これで大分、ミロウィーナの好みが明らかになった。

後は夕食である。

その前に入浴してもらう。

「エルザ、礼子、頼むよ」

「ん」

「はい、お任せ下さい」

介添えとして、カイだけでなく礼子も付く。

「まあ、これが温泉?」

「ええ、そうです。足元に気をつけて下さい」

カイと礼子にそれぞれの手を引かれてミロウィーナは浴室に足を踏み入れた。

「お湯に浸かるのね」

ユニーでは水が貴重なのでシャワーだけであった、という。

掛け湯をしてからゆっくりと浴槽に入るミロウィーナ。

「ああ、いい気持ち」

普段は熱い湯が好きな仁のために、摂氏43度から45度くらいなのだが、今日は、少し温度をぬるめにしている。だいたい摂氏39度くらい。

ミロウィーナはお湯の中で手足を伸ばした。

その横にエルザも入る。

「こんなお湯が地面から湧いてくるなんて不思議ね」

理論的に知ってはいても、実際に目にすると、やはり不思議なのであろう。

「はい、私も最初はそう思いました」

「まあ、うふふ」

ミロウィーナの肌は張りがあって、61歳とは思えない。

「お背中、流します」

「あらあら、ありがとう」

十分に温まったあと、流し場でエルザはミロウィーナの背中を流す。

使っているのはカイナ村特産の重曹から作った石鹸である。

トパズが、うろ覚えな仁の記憶と、ミツホから持ち帰った石鹸を参考に、苦心の末作り出したものだ。

その他に『ぬか袋』も置いてある。

米糠を目の細かい布に包んだもので、これをお湯を張った洗面器に入れておき、そのお湯で洗顔すると顔がつやつやになる。

髪を洗った後にもリンスとして使える。潮風でぱさついた髪に優しい。

「ああ、気持ちいいわ」

温泉に浸かり、ミロウィーナは幸せそうに呟いた。

1時間ほどの長湯のあとは、冷たいシトランジュース。

飲み過ぎると胃腸に悪いので、一杯だけだ。微炭酸に仕上げてあるので、喉越しもいい。

「あら、これ美味しいわね」

咽せることもなくコップ一杯を飲み干したミロウィーナ。

「来てよかったわ」

それは心の底からの言葉であった。