作品タイトル不明
28-19 仁、いろいろと悩む
翌日、仁はファミリーの証としての『仲間の腕輪』をビーナとクズマ伯爵に贈った。
ビーナは深紅、クズマ伯爵は黄緑。
使い方を説明されて、2人は困惑する。
「こ、こんなすごい魔導具をもらっていいのだろうか?」
だが仁は笑って告げる。
「信頼の証だから。みんな付けてるし」
「……」
ここでビーナが、思っていたことを口にする。
「ねえジン、もしも、もしもよ? 私たちがここのことをぺらぺら喋っちゃったらどうなるの? 処分されたりするのかしら?」
「処分って……どこの秘密結社だよ」
仁はそう言って笑い、言葉を続けた。
「俺は2人を信用し、信頼しているから秘密を打ち明けたんだ。そんな2人が誰かに喋ってしまうとしたら、きっとやむにやまれぬ事情があったんだろうさ」
「ジン……」
「そうなったらそうなったで、なんとかするよ」
「そうですよビーナさん。この蓬莱島は何があってもびくともしません」
礼子までそう言ってビーナを安心させようとしたのである。内容は別にして。
因みに、老君による、いわゆる『人格チェック』が、仁が2人を崑崙島に招待すると言いだした時点で済んでいたりする。
結果が合格だったので、老君としては仁に聞かれない限り話す予定がないだけである。
その日の昼前に、ビーナとクズマ伯爵はブルーランドに帰った。
仁と礼子は同行して、伯爵邸地下に 転移門(ワープゲート) の設置を行う。
これで、必要なときにはすぐに行き来できるわけだ。
「でも、その腕輪をしていないと使えないからな」
「わかってるわ」
「それに、『しんかい』を必ず経由するから、不審者も排除されるし」
「承知している。十分に注意するよ。使用人にもこのことは漏らさない」
ビーナもクズマ伯爵も、秘密の遵守については請け合ってくれた。
「それじゃあ、また。何かあったら、腕輪の通信機能を使って欲しい」
仁はそう言い残すと、設置したばかりの 転移門(ワープゲート) を使って蓬莱島に戻ったのである。
* * *
「さて、そうするとあとは……」
「ジン兄」
蓬莱島の『家』で寛ぐ仁のところに、エルザがやって来た。
「何か悩んでる?」
「いや、悩んでいるというより考え込んでる」
「何を?」
「リシアと……ミロウィーナさんのことを」
「え?」
まったく接点のなさそうな2人の名前が同時に挙げられたので、エルザは面食らった。
「いや……リシアにファミリー入りしてもらうのと、ミロウィーナさんを一度こちらに連れてくるのと、どっちを先にしようかと」
「……やっぱりリシアさんをファミリーに?」
「ああ。エゲレア王国がビーナたちなら、クライン王国は彼女かな、と思って」
「……それはわかる。ところで、リシアさんといえば、気が付いたことがあるんだけど、いい?」
エルザが何に気が付いたというのか、気になった仁は頷く。
「え、と、この前、リシアさんがジュースとジャムをトカ村の特産品にしたいと言ってたけど」
「ああ、そうだったな」
ランベルのジュースとジャム、あれは美味しかった、と仁も思い出す。
「ジャムはともかく、ジュースは無理。保存が利かない」
「あ」
言われて仁も気が付いた。
「蓬莱島のペルシカジュースやシトランジュースは『 魔力庫(エーテルストッカー) 』があるから気にしないでいられるけど」
「……冷蔵庫でも無理だろうな」
100パーセント果汁ジュースの場合、せいぜい2日か3日が限度である。
そんな短期間ではシャルル町がやっとであろう。王都へ運ぶなど、とても無理だ。
「あー、失念していたな」
「教えてあげた方がいいと思う」
「……そうだな」
となると、まずはリシアのフォローであろう。蓬莱島に呼ぶかどうかはリシア次第だ。
『 御主人様(マイロード) 、リシアさんはこの後、税を納めに王都へ行かれるはずです』
老君からの助言が入った。
「ああ、そうか」
独立しているカイナ村と違い、トカ村は紛れもないクライン王国の一部である。
収穫があれば税を納めることが必須なのだ。
「あれ? 納税って、秋じゃないのか?」
ふと、仁がいたときのカイナ村は秋に納税したことを思いだした仁。
『そのことでしたら、昨年の食糧危機の影響で、春と秋の2度、納税することになったそうですよ』
「ああ、そうなのか」
もちろん、総額が増えることはないはず、と付け加える老君。
「そうか……なら、戻って来てからだな」
「ジン兄、忘れないように」
「うっ……気を付けるよ」
そうなると、まずはミロウィーナということになる。
「あれから、元気になったのかな?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。『ジャック』との定期連絡によりますと、ご自分で歩き回れるくらいにはお元気になられたそうです。重力も一昨日1Gに戻せた、と言っておりました』
「おお、それは朗報だな。それじゃあ、蓬莱島へご招待するか」
「ジン兄、病原菌についての対策は?」
エルザからの忠告が入る。
「ああ、そうだな。『滅菌結界』みたいなものを開発する必要があるかもな」
要は結界による宇宙服である。以前から、体表面に沿って結界を発生させることを考えてはいたのだ。
「それなら、いいかも」
『宇宙服にも応用できますね』
そこで仁は、ずっと宙ぶらりんだった、『体表結界』の開発に取りかかることにした。
「結局、起点を指定できれば何とかなると思っているんだ」
仁とて、何も考えていなかったわけではない。
「つまり、体の表面を起点にして、そこからの距離を最小にした結界、ということ?」
『なるほど、さすが 御主人様(マイロード) ですね』
「ああ。これは、例えば礼子にならすぐ応用できる。皮膚が 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革だからな」
魔力に対する特性が抜きん出ているので、容易なのだ。
「問題は、人……」
「そうなんだよ、エルザ」
仁は頷き、腕を組んで考え込んだ。
人の身体は、皮膚と筋肉で明確に線引きできるものではない。表皮、真皮、皮下組織。
表皮には血管は通っていないが、真皮には通っている。そしてそのため、 魔力素(マナ) や 自由魔力素(エーテル) 濃度が一定にならないのだ。
「血液内の 魔力素(マナ) 濃度が変化するんだよなあ……」
今のところ、そうした誤差を考慮すると、皮膚表面から10センチくらいまでなら結界を構築することができるだろうと思われる。
「それ以下にすると、どうなるの?」
「誤差が最悪になった場合、結界から身体の一部が露出してしまう」
肘や膝などが露出しやすいのではないかと仁は思っている。
例えば真空中で露出したらえらいことになるのは目に見えている。
「……難しい」
エルザも首を傾げたのであった。