軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-18 ガールズトーク IN 温泉

仁からの説明が終わると、蓬莱島はもう夕暮れが迫っていた。

「ああ、もうこんな時間だ。2人とも、今日は泊まっていくだろう?」

仁の誘いに、クズマ伯爵は頷いた。

「うむ、そうさせて貰いたいな。ラインハルト、君は?」

「ああ。ベルは身重だから家に帰すが、僕は今夜はこっちに泊まるよ」

「そうか。ならこの後も話を聞けるな」

そしてビーナは。

「ビーナ、大丈夫? 顔色がよくないけど」

「え、ええ。……なんだかいろいろなことがあって頭がぐらぐらしてるわ」

エルザの言葉に、弱々しく笑って答えるビーナであった。

「それじゃあ2人とも、温泉で寛いでくれ」

「そうさせてもらうわ……」

「混浴と男女別とどっちがいい?」

「こっ……!」

真っ赤になるビーナ。まだまだこの手の話には慣れないようだ。

「ああ、別で頼む」

察したクズマ伯爵が代わって答えた。

「屋敷でならともかく、出先でまでそれは必要ないよ」

ということは、屋敷では一緒に入っているのか、と仁は思ったが、まだ顔が赤いビーナのことを思い、口には出すのはやめておいた。

「じゃあビーナ、一緒に入る?」

エルザが話しかけると、ビーナはようやく落ち着いて、首を縦に振ったのである。

「……ああ、いい気持ち」

「……ん」

エルザとビーナは一緒に温泉に浸かっていた。

「ビーナ、ルイス様は優しくしてくれる?」

「えっ……うん、はい」

いきなり聞かれて面食らったビーナ。

「そう。幸せそうで、よかった」

「ありがとう。エルザさ……エルザも、ジンと婚約して、幸せ?」

まだ昔の癖でついエルザ様、と言いそうになるビーナ。

「うん」

「ジンって、すごい人だったのね。まさか他の世界で生まれ育ったなんて……でも、あの知識とか考えると納得、かな」

弟妹を治してくれたことや、ポップコーンを作ったこと、冷蔵庫で冷気は下に下がることを教えてくれたこと、などを思い出すビーナ。

「で、エルザ……は、ジンのこと、どう思っていたの?」

「うん。初めて会ったときは、なんとなく頼りなさそう、と思った。……これ、内緒」

ビーナは笑って頷いた。

「あ、それ、わかるかも」

「でも、少し話をして、優しい人だと思った。知り合ってみると、変わったことを知っている人だと思った。そして……そばに居ると安心できる人だと思うようになった」

「そうよね。ジンって、派手なところはないようでいて、不思議に心に残るところがあるものね。……それで?」

「ん。……工学魔法を教えてくれて、もう一度国に帰れるようにしてくれて……気が付いたら、かけがえのない人に、なってた」

「そういうのって、いいわね」

「ビーナも頑張った。伯爵夫人としての勉強は楽じゃなかった、はず」

エルザにもわかる。庶民が伯爵夫人としてやっていけるだけの教養を短期間で身に着けるのがどれほど大変なことか、どれほどの努力が必要か。

「うん、そうね。でも、ルイス様のことを思えば、頑張れた」

「今のビーナ、綺麗」

「えっ?」

「ルイス様に愛されて、ビーナは、綺麗になった」

「そ……そう? それを言ったら……エルザも」

「私?」

「うん。随分と……柔らかく、なったと思う」

「柔らかく……?」

「そう。初めて会った頃は、何と言うか……近寄りがたい感じがしてたから。私が庶民だったから、という理由でなしに」

「……わから、ない」

ビーナは微笑んだ。

「そうでしょうね。自分のことって、自分が一番わかっているようで、実はわかっていないものだから」

「あの頃は、思えば、人付き合いが苦手だったから、かも」

「そうかもね。それだけじゃないんでしょうけれど」

ビーナにもよくわからないのだから。

「でも、ジンと一緒にいるエルザは、とても素敵よ」

「あり、がとう」

* * *

一方、男湯では仁、ラインハルト、そしてクズマ伯爵が温泉に浸かっていた。

「ジン殿、今日1日で一生分驚いてしまった気がするよ」

「ルイス、まだまだなんだぞ。ジンが作った諸々を見たら、きっともっともっとびっくりする」

「後になればなるほど、驚きの種が増えるのだろうな」

「そうさ。僕やエルザなんかは最初期にジンから打ち明けてもらったからな」

そういう意味では、一番後輩になるクズマ伯爵とビーナは大変だろうと思う。

「す、少しずつ慣らしてくれ」

ラインハルトのセリフを聞いたクズマ伯爵は引き攣った顔で仁に頼み込んだ。

「……わかったよ」

戦艦や潜水艦や陸海空軍、海中軍に宇宙軍。そして宇宙船を見せたら許容量を超えそうだ、と、仁は明日の予定を一部キャンセルすることにした。

* * *

「これが畳、か……」

「あなたは初めてね。私はエルザと一緒に来たときに体験したわ。エルザはいたく気に入っていたっけ」

仁の『家』に泊まることになった2人。

畳の部屋に布団を敷いてある。

「……しかし、この布団は素晴らしいな」

2人も使っている、 地底芋虫(グランドキャタピラー) が出した糸で織られた、『 魔絹(マギシルク) 』の布団だ。

こちらは、更に改良が施され、寝心地がよくなっている。

布団というものは柔らかいだけではだめなのである。

身体をきっちりとサポートするように、柔らかい箇所とやや固い箇所を作り出し、背骨が曲がらないように作られた布団が今の蓬莱島標準であった。

「ビーナに感謝、かな」

「いきなりどうしたの?」

「いや、ジン殿と知り合えたのも、こんな素晴らしい場所に招待してもらえたのも、ビーナが私の妻だからだな、と思ってな」

「そんなことですか。逆ですよ。あなたがいてくださったから、私は今ここにこうしていられるんです」

口には出さなかったが、かつてガラナ伯爵の屋敷で、危うく手籠めにされそうになった時の不安と、助かったときの安堵。あれは一生忘れないだろう、とビーナは思っている。

だからといって、恩義のために結婚したのではない。

ルイス、という人物が、本当に好きになったから。だからこそ、こうして今、そして将来も、隣にいて支えて行こうと思えるのだから。

「ありがとう、あなた」

「ふふ、君こそ、いきなりどうしたんだい?」

「言ってみたかっただけです」

「そうか。じゃあ私も言ってみたいから言おう。ありがとう、ビーナ」

そして蓬莱島の夜は更けていく。