軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-14 五常閣

「わあ、いい香り」

崑崙島に作られた日本建築、『五常閣』の広い玄関をくぐると、真新しい木の香りが漂ってきた。

蓬莱島や崑崙島に生える、ヒノキ、スギ、ヒバ(アスナロ)にそっくりな木をふんだんに使った建物である。

これも仁の記憶にある日本建築を参考に作られた。

「中に廊下がありますが、南側は縁側で繋がっています」

防水防腐処理がなされた濡れ縁からは庭園が見渡せる。

「畳、いい香り」

エルザお気に入りの青畳が敷かれた部屋。

床の間があり、押し入れも付いている。襖や障子も再現されていた。

「すごいな、よくもここまでやったものだな」

「ん。ジン兄そっくり」

「……どういう意味だ?」

エルザの感心の仕方がよくわからなかった仁が聞き返すと、

「自重していないところが、そっくり」

との言葉が返ってきた。

「……そうかな?」

と仁が首を傾げれば、

「自分自身のことはわかりにくいもの」

と、エルザに言われてしまった。

「そうかあ……?」

なんとなく納得いかず、疑問の声を上げるが、

「そうですよ、ジン様」

ミーネにまで肯定される始末。

この事実を仁は、話題を逸らすことで気にしないことにした。

「ま、まあいいや。今は中を見て回ろう」

「こちらが囲炉裏部屋です」

板の間の中央に囲炉裏が切られ、自在鉤が下がっている。このあたりはおそらくどこかの民芸館の記憶がごっちゃになったものであろうが、不思議と違和感はなかった。

土間には井戸があり、へっついと呼ばれる 竈(かまど) が並んでいる。

「高山あたりの民俗館に似てるな……」

中学校の修学旅行で訪れた飛騨高山でこうした造りの家を見た記憶があり、印象に残っていたようである。

「まあ、正式な日本建築なんて誰も知らないわけだしな……」

この建物を見て違う、といえるような人がもしいたなら、それこそ教えを請うてもいい、と仁は思った。

「こちらが茶室になります」

「……」

仁は茶の湯を知らないので、この茶室も正しくできているのか判別できないが、それらしかったのでよしとする。

一通り見たあと、仁はふと思いつきを口にする。

「こっちはレファが担当なんだろう?」

「はい、そうですが」

「だったら『女将』として着物を着た方がそれらしくていいな。ゴーレムメイドも、ここで働くときは和服メイドにしよう」

着物にたすき掛けして割烹着風エプロン、頭には三角巾といういでたちを想像した仁。

『 御主人様(マイロード) 、それはいいと思います。早速実行しましょう』

仁の発言を聞いていた老君から、早速の了承が入ったのであった。

そして同じように、『翡翠館』の総支配人にはロルが就任することになった。

* * *

「さて、世界会議の日程調整だが」

『7月10日から3日間、くらいでしょうか』

今からだとおおよそ20日間の猶予がある。

「まずはそれで打診してみようか」

『わかりました』

* * *

6月21日の朝、セルロア王国の王城前広場に、『コンロン3』が着陸していた。

「ジン殿、いや、『崑崙君』、久しぶりだな」

「ええ、ご無沙汰しております、陛下」

そして今、仁は執務室で国王セザールと会談を行っていた。同席しているのは親衛隊隊長のカーク・アットと、総務省主席、バルフェーザ・ウォーカー。

「先日ご依頼のありました、陸上輸送の改善案ですが、まずは1つ、出来上がりました」

「ほう、早いな!」

「それであの時にお願いしましたように、この案を、各国と共に検討していただきたいのです」

「ジン殿、それは……」

バルフェーザが少し言い淀む。

「ええ、わかっております。『案』の一つですし、これが気に入らないならば、第二案、第三案もありえます。期日もまだまだ残っていますしね」

年内一杯、ということで引き受けたのである。

「それでですね、他にも幾つか議題があるのですが、この機会に『世界会議』を開き、そこでいろいろと議論していただきたいんですよ」

「世界会議か……前にも言っていたな」

セルロア王国の建国記念式典の時の話である。

「はい。場所は『崑崙島』で。ショウロ皇国と小群国の首脳をお呼びして、3日間くらいで行いたいと」

ここで仁は、老君と共にまとめた、世界会議の概略を記した招待状を差し出した。

「外交も儀礼も拙い……いえ、まるっきりなっていない招待ですけれど」

その木紙を受け取ったセルロア国王セザールは一通り目を通し、

「ふむ、興味深いな。崑崙君の拠点である崑崙島にも行ってみたいものだ」

と、前向きに検討すると約束してくれたのである。

* * *

同日、ショウロ皇国首都ロイザートの 宮城(きゅうじょう) を、 国選治癒師(ライヒスアルツト) であるエルザが訪れていた。

同行しているのはエドガーだけである。

「よく来たわね、エルザ」

執務の合間を縫って、女皇帝が謁見をしてくれた。

「陛下にはご機嫌うるわしゅう……」

と挨拶をしかけたエルザを女皇帝は押し止める。

「時間がないから、そういうのはいいわ。今日は大事な話があるんじゃないの?」

「はい、ありがとうございます。実は……」

エルザは、仁がセルロア国王に見せたものと同じ資料を提出した。

それにざっと目を通した女皇帝は興味を持ったようだ。

「世界会議、ね。その場で重要な発表があるというのね。それに、役に立つ提案も」

「はい、そうです」

「それに、崑崙君の拠点というのも興味あるわ。さぞかし、素敵なところなのでしょうね?」

「それは人によるでしょうが、初めて私が訪れた時には圧倒されましてございます」

「ああ、やっぱり! わかったわ、日程を調整してみましょう。……察するに、ジン君はセルロア王国へ行っているのね?」

さすが女皇帝、仁たちの意図を見抜いたようだ。

「セルロア王国とショウロ皇国が参加するといえば、他の国も否とは言わない……と考えたのね?」

「……御意」

見抜かれたエルザは恐縮してしまった。

「ああ、大丈夫。怒っているのではないの。ジン君にしてはよく考えたものだと思って、感心したのよ」

今までの仁は、どちらかというと思ったら即行動していたようだった、と笑って言う女皇帝に、エルザも少し肩の力が抜けたのであった。

「いいわ。協力しましょう。私からも他の国に誘いをかけてあげるわ」

「ありがとうございます、陛下」

思った以上の言葉に、エルザは深く頭を下げていた。