軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-13 翡翠館

6月20日、老君から報告があった。

『 御主人様(マイロード) 、迎賓館が完成しました』

「は、早いな」

『はい。5日以内に仕上げてごらんにいれます、と申し上げた以上は。『太白』も頑張ってくれました』

あれから2日である。どれだけ頑張ったのか。

「そうか、ご苦労」

仁は、早速視察に行くことにした。

礼子、エルザ、ミーネを連れ、 転移門(ワープゲート) で移動。

ミーネも連れて来たのは、一つには。

「……懐かしい」

「ああ、本当ねえ」

しばらくの間、エルザとミーネは、共にここ崑崙島で暮らしていたので、懐かしいだろう、と仁は思ったからである。

「いらっしゃいませ、ご主人様、エルザ様、ミーネ様」

『太白』の助手として勤めているロルが一行を出迎えた。

「わたくしめがご案内させていただきます」

場所は『館』よりずっと南、海岸寄りである。

移動は『バリアクッションカー』。 障壁(バリア) 強度を弱めに設定しておけば、芝生も傷めずにすむ。

15分ほどで海岸に到着した。

「……わあ」

「すごい、ですわね」

エルザとミーネが驚いたのも無理はない。

そこには、現代地球のリゾートホテルもかくや、というような建物が聳えていたのである。

全体は白に近い灰白色をした石造り。大理石かと思いきや、どうも違うようだ。

「これは……石英か?」

「いえ、ご主人様、これは『翡翠』です」

「え?」

仁もさすがに岩石・鉱物についての知識は浅い。翡翠といえば緑色。と思っていたのであるが、実は無色の翡翠というものもある。

というか、純粋な『ヒスイ輝石』は白色なのである。微量の鉄やクロムによって緑色となるのだ。白い翡翠は宝石として価値が無いので捨て置かれているだけなのである。

「海底にたくさんあったと、マーメイド部隊が採掘してくれました」

「そ、そうだったのか」

「はい。わずかに緑色のものがありましたので、彩りに使っています」

アルスでは、現代地球と異なり、『翡翠』は宝石としても、貴石としても認められていない。

だが仁は、翡翠の価値を聞き知っているので、目の前に建つ建物の価値に少々顔を引き攣らせていた。

とはいえ、自分も魔法工学で似たようなことをやっているという自覚はない。

「翡翠なら丈夫だろうな……」

翡翠=ジェードと呼ばれる鉱物のうち、ここで使われたのはヒスイ輝石。

非常に緻密な構造をしているので、モース硬度は7と水晶と同じくらいにもかかわらず、ハンマーで思い切り叩いても容易には砕けないという鉱物、それがヒスイ輝石である。硬玉、ジェダイトとも呼ばれる。

因みに、軟玉=ネフライトという鉱物もまた、同じく翡翠または 玉(ぎょく) と呼ばれる。

「よし、『翡翠館』と名付けよう」

「いい名前ですね、ジン様」

「ん、賛成」

ミーネとエルザも賛成してくれた。

「では、内部をごらん下さい」

次は中を案内してもらうことになる。

「まずは、玄関ホールです」

「おお」

床は薄紫色の紫翡翠が敷き詰められていた。ラベンダー色の上品な色である。そして広い。

「家具などの調度品はこれからになります」

「うん、そのあたりは、ミーネにも相談してくれないかな」

ミーネを連れてきたもう一つの理由がこれである。仁と仁の記憶を受け継ぐ配下よりも、この世界の貴族たちの趣味を知っているだろうからだ。

「はい、私でよろしければ、精一杯お手伝いさせていただきます」

「よろしく頼みます」

ロルはさらに中を案内してくれる。

1階には厨房、控え室、大浴場、食堂など。

2階からが客室だが、大会議室、小会議室、娯楽室もこの階にある。客室にはトイレ、洗面所完備。

3階もほとんどが客室。侍女や使用人の控え室もある。

4階はVIPルームといえばいいか。それぞれが6部屋を持つ区画が7つあり、各区画ごとにペントハウスとシャワールームが付いている。

各階とも、中央部にエレベーターと階段が、そして左右の端にも階段が付いている。

屋上はコンロン3が3機は離発着できるようになっていた。もちろん、正式な飛行場は別に設けてある。

「すごいな……」

おそらく、仁に与えられた記憶から『リゾートホテル』というものを参考にしたのであろう。

仁も行ったことがあるわけではなく、『こんな感じかな?』といった想像でしか知らないのに、その想像と同じような造りになっていたからである。

「収容人数が随分と多そうだが?」

「はい。多い分には問題ないだろうと、先日の予定人数の3倍を想定してあります」

VIPルームは首脳専用なので国の数プラスアルファであるが、それ以外は護衛や使用人のことを考え、100人程度までは泊まれるという。

「確かにそうか。いや、ご苦労さん」

仁はそこまで考慮してくれた老君、太白らを労った。

各階の移動には、エレベーターを使う。

昔の洋画のように、エレベーターボーイがハンドルを回して上下移動する形式のものだ。こちらはエレベーターボーイではなくゴーレムであるが。

最後に地下。

地下1階は倉庫。食糧庫や資材倉庫となっている。 転移門(ワープゲート) もここにある。

地下2階には汚水処理施設が。トイレ、厨房、浴室、洗面所などの汚水を殺菌、浄化して海へ流すのである。

これらを管理、統括するのは『太白』であった。

《 御主人様(マイロード) 、 不束(ふつつか) ながら精一杯努めます》

「ああ、たのむぞ、太白」

こうして、仁ですら驚くようなリゾートホテルが出来上がっていたのである。

ちなみに、ホテル前には芝生の庭が広がり、灌木の植え込みで隔てられた向こうは砂浜、そして海である。

港はまだ未整備なので、作るとすれば少し離れたところとなるであろう。

「いかがですか、ご主人様」

一通りの査察を終えた仁に、ロルが尋ねた。

「ああ、いい出来だ。だが、各部屋は全部洋間だったな?」

「はい。和室のある建物はあちらとなっております」

「え?」

翡翠館の脇に、屋敷林的に植えられた小さな林があり、その向こう側へとロルは仁たちを案内していった。

「おお」

「わあ」

「まあ」

そこには、瓦屋根の木造建築が。そしてまごうことなき日本庭園が広がっていた。

「いらっしゃいませ、ご主人様。こちらは私が案内させていただきます」

こちらはレファが担当であるとのこと。ロルは翡翠館へと戻っていった。

「間の林により、翡翠館からは見えないようになっております」

「すごいな……」

1000坪はあろうかという敷地に広がる庭園。仁の記憶と、ミツホにあった庭園を参考にして造ったそうだ。

建坪は200坪くらいか。平屋で、一部にだけ2階部分が作られていた。

庭園には 四阿(あずまや) もあり、池や流れが作られ、四季の花が咲いている中を散策できるよう小径も付いていた。

「2日でよくここまで作ったな」

「はい。 職人(スミス) 500体、ダイダラ40体が昼夜の別なく作業しましたから」

「そ、そうか……」

老君たちの徹底した作業に感心し、呆れもする仁であった。

「ご主人様、こちらにも名前をお付け下さいませんか?」

レファからの懇請に、仁は考える。

仁の知っている日本庭園というと、『兼六園』『偕楽園』『後楽園』、つまり日本三庭園や、有名どころの『六義園』『新宿御苑』『浜離宮』などになる。

「うーん……」

まず思い浮かんだのが『仁義礼智信』、『五常の徳』だ。

「よし、庭園は『五常園』、建物は『五常閣』としよう」

「ありがとうございます」

「ジン兄、中も見せてもらおう?」

畳の部屋大好きなエルザが声を掛けてきた。

「ああ、そうだな」

仁もエルザに続いて、『五常閣』に足を踏み入れた。